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66.一時帰国

1943年12月24日 東京都 成増飛行場


俺は約1年半振りに日本に帰ってきた。

成増飛行場も1年半経つと出発したときと様子がかなり違っていた。まず、滑走路が2つ増え4つになったことと、元々あった2つの滑走路も拡張され、大型爆撃機の離発着が可能になっていた。

駐留している海軍の部隊も増えたようで、多数の戦闘機が滑走路脇のハンガーに駐機されていた。それに伴ってハンガーも増えて、かなり大規模な航空基地になっていいる。

俺と椿が飛行機を降りると、楓とフランス人形のような少女が滑走路の脇に並んで待っていてくれた。


「楓の横にいる女の子は?」


「あれは新山梢です。私と一緒にドイツから亡命したハーケンクロイツのメンバーです」


なるほど。あの子が宣伝省大臣のゲッペルスだった子か。

輸送機から降りてきた俺達の姿を見つけた二人が近づいてきた。

ボイスチャットでは毎日かかさずに楓と話していたが、実際に会うのは1年半振りなので、会ったとき最初に何て言えば良いのかをずっと飛行機の中で考えていた。だけど、結局思いつかずにここまで来てしまった。1年半振りに会う楓は髪がだいぶ伸びて、以前よりも少し大人っぽくなっており、ますます可愛さに磨きがかかっていた。


「ただいま」


楓が笑顔で俺の方に近づいて来たので、抱擁しようと待ち構えていたら、楓は俺ではなく横にいた椿の手を取った。


「おかえり、椿。1年半もご苦労様」

    

「戻りました社長。1年半前より綺麗になりましたね」


「そう?楓も来年成人式だから、大人っぽくなったのかな?それより、長旅で疲れてるでしょ?官邸に戻ってからゆっくり今までの話を聞かせて?」


「承知しました」


楓は俺とは一度も目を合わさずに椿を連れて、自分が乗ってきた車に乗り込んだ。あれ?楓に俺の姿が見えてないのか?


「閣下、そんなところに立ってないで乗ってください。滑走路から早く避けないと怒られますよ」


椿には俺が見えているようなので、もしかして自分でも気付かないうちに死んでいたのかと心配したが、そういうことでは無さそうだ。

車に乗り込んでから、陸軍大臣公邸までの帰り道でも、楓は完全に俺のことをいないものとして扱っていた。同乗している椿と梢も楓の態度にビクビクしていた。

俺はそんな生きた心地がしない車内の窓から、久し振りの日本の景色を眺めながら、どうすれば楓の機嫌が良くなるのかだけを考えているうちに公邸に到着した。そして、玄関に入ると同時に俺は行動に移した。


「1年半も留守にして、大変申し訳ございませんでした!」


俺は自宅に戻って楓の顔を見た瞬間、一番最初にしなければいけないことが謝罪だと咄嗟に判断し、人目を憚ることなく、楓の足元で土下座をした。


「さすがは私の旦那様、外でやると楓が恥をかくから、どのタイミングでそれをすれば良いのかちゃんと判断できたんだね。偉いね。けど、土下座くらいで許してもらえると思ったら大間違いだよ?」


楓は満面の笑みを浮かべて土下座している俺の頭に足を乗せた。椿と梢もその場にいたが、椿は気まずそうに俺から目を逸らしている。梢の方は無表情でじっと俺の土下座を見ていた。


「はい!何でもするので許してください!」


「ふ~ん。二人とも聞いた?今誠司が何でもって言ったよね?」


楓が二人に視線を向けると、二人は慌ててコクコクと何度も頷いた。そして、その間も楓の足は俺の頭に乗ったままで、足にかかる力がどんどん強くなっている気がした。


「じゃあ、今すぐ仕事を辞めて、今日から毎日楓と一緒にいて」


何でもとは言ったが流石にそれは無理だ。なんとか切り抜ける方法はないだろうか。あっ、さらに楓の力が強くなって、床に接しているおでこが痛い。


「今すぐには流石に…。他のことだったら何でもしますから…」

       

「あ~、また嘘ついたね。何でも言うこと聞くって言ったばっかりだよね?ヨーロッパに行くときもすぐ帰るって言ってたのに、一年半も帰って来なくて、新婚だったのに誕生日もクリスマスもお正月も誠司がいなくて、楓がどれだけ寂しい思いをしたのか分かってないのかな?夏には誠司が帰ってくるかと思って可愛い浴衣を用意してたのに、花火大会も盆踊りも行けなくて、みんな楽しそうにしてる中で楓はずーっとコズと2人で仕事。楓が我慢できなくなって誠司のとこに行くって言っても、毎回もう少しだから待って、って言うけど全然帰ってこないし。それで、楓は毎日寂しくて泣きながら、誠司のベッドで寝てたいたのに・・・。そんな楓のたった1つのお願いも叶えられないのかな?」


「ごめんなさい…。せめて戦争が終るまでは待ってください。そうしたら大臣は辞任して、一軍人として市ヶ谷の陸軍省に家から毎日通うようにします。それでお許しください」


楓が足を頭から避けてくれた。許してくれたということだろうか。楓の顔を見ると、笑顔が消えて無表情になっていた。やばい、今日死ぬかも。


「わかった・・・。それでいいよ・・・。でも、明日から1週間だけでいいから楓と一緒にいて?」


楓の目からボロボロと涙が零れ落ちてきた。俺は立ち上がって楓を抱きしめる。


「わかった。それは何とかする。だからもう泣かないで」


楓も俺の背中に手を回してくれた。少し苦しいが、1年半ぶりに楓の温もりを感じることができて、家に帰ってきたという実感を持てた。


「ずっと待ってたんだよ。凄く寂しかったんだから・・・」


泣き続ける楓に、俺は右手で髪をゆっくりと撫でる。しばらく楓は俺の胸に顔を埋めたまま泣き続けた。


「ねぇ、あっちで浮気してないよね?」


「楓がいるのに浮気なんてするはずないよ」


楓は俺の胸から顔を離して、椿の方を見る。

    

「社長、私が完璧に監視をしておりましたので、それは絶対にありません。どうしても私が監視できない場所については、社長のお兄様にお願いしておりましたので、ご安心ください」


「ありがとう、椿。これからもよろしくね」


「はい!」


楓も泣き止んで落ち着いたところで、言いにくいことを言わなければならない・・・。


「あの、このあと3時間だけ陸軍省に戻っても良いかな?明日から1週間休むためには、今回の報告とか休暇の手続きとかありまして・・・」


「じゃあ、楓も行く」


「えっ?」


陸軍省に楓の同伴で行くと、きっと部下から色々と冷やかされるから避けたいのだが、この調子だと許してはくれなそうだ。


「もう1秒でも誠司と離れたくないの!!」


「分かったよ。じゃあ、一緒に行こう」


官品の作業着から迷彩服に着替えて、まずは市ヶ谷の防衛省に向かう。部下達へのお土産が3箱もあったので、護衛の隊員にも手伝ってもらい、車からお土産を庁舎に運んでもらった。本当は市ヶ谷に駐屯している部隊の隊員全員分のお土産を自腹で用意しているのだが、輸送機に積み込めなかったので、後日船便で届く予定だ。かなりの出費になったが、みんなより高い給与をもらっているので、こういう時は出し惜しみをしないようにしている。

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