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64.欧州王国連合構想

謁見の後、小休止を挟んで皇太子と一緒に宮殿内の会議室に移動した。

会議室にはマンシュタイン元帥を含めて15名の紳士が既に集まっており、皇太子が会議室に入ると全員起立して深々と頭を下げた。彼らは全員が何代も続く貴族家の出身だ。中世ヨーロッパの貴族が描かれている映画等で役者が演じる貴族とは異なり、所作の一つ一つが洗練された、とても品格の高い本物の貴族達だ。

元の時代の人気取りが上手なだけの政治屋と対面したときとは違い、サラリーマンに家庭で育った俺は彼らを見て、自分の優雅でない所作に少し恥ずかしさすら感じてしまった。きっと俺と同じように庶民として育った多くの大半のドイツ国民は彼らを羨望の目で見ることになるだろう。

会議の開始にあたって一連の形式的な挨拶などが行われ、やっと本題に入るとことになった。

    

「それでは、俺の方から大日本帝国政府としての意向をお伝えします。大日本帝国としては日本、プロイセン、ポーランド、チェコ、オーストリア、ハンガリー、スロバキアの7か国による共同体、欧州王国連合の創設を提案いたします。軍事、政治、経済すべての分野で協力し、各国で政治体制や経済のシステムが若干違いますので、強制的に同調するものではなく、現在の日本とソ連のようなフラットな関係を共同体全体で構築したいと思います。具体的には安全保障条項、共同体加盟国間でのすべての種目での関税の撤廃、人と物の移動の自由化、国家を超える共通の警察組織の設立等です。本部は位置的に中心にあるプラハに設置します。詳しい内容はお手元の資料をご覧ください。既に貴国以外の加盟予定国からは原案について同意を得ておりますので、こちらで問題なければ来月にでもプラハで結成式を行いたいと思います」


マンシュタイン元帥から質問が上がった。


「てっきりソ連と中国も入れた同盟を築くものと考えておりましたが、よろしいのですか?」


「はい。俺も当初は日中ソを中心とした勢力圏を作ることを考えておりました。しかし、今は西側連合国との戦争でまとまってはおりますが、戦後は立憲君主制で資本主義経済の我々と、共産主義で社会主義経済のソ連とが同じ勢力内にいると、何れは足並みが揃わなくなることは容易に想像できます。したがって、日本を軸にした間接的な同盟関係のままで、対西側連合国においては協力するといった関係の方がお互いにとってプラスかと思い、中国とソ連は除外しました。もちろん両国が立憲君主制に移行した場合は、仲間に入れたいとは思っています」


「なるほど、確かに園田大臣の言うとおりかもしれません。それなら、どうでしょう、日本だけが共同体の加盟国とあまりに距離が離れております。日本に割譲する予定のヘルゴラント島ですが、人が住むには狭すぎるし、本土からも離れている。しかし、我々としては日本にはヨーロッパに拠点を作って隣国となっていただきたい。そこで、殿下のご意向でベルヒテスガーデンも日本に割譲しようと考えております。資源や産業のない土地ですが、お引き受けいただけないでしょうか」


これは…。あからさまに日本に親衛隊残党の厄介払いをさせようとしてるな…。

しかし、飛び地ではあるがヨーロッパに日本の領土があると、ゆくゆくは金のなる木になる可能性が高い。しかし、問題は約10万人の親衛隊をどうするかだ。爆撃と砲撃で敵を殲滅することはできるが、せっかく獲得した領土が焼け野原となってしまう。かと言ってこのままプロイセン陸軍と同様に兵糧攻めを続けるとしたら、食料が無くなって飢えた10万人の兵士が投降してくるならまだ良いが、どうせ死ぬならと玉砕覚悟で突撃してくる可能性もある。そうなるとこちらの人的被害も少なからず覚悟しなければいけない。

もしくは武力での解決ではなく、日本に取り込むという方法も考えられるか…。いやいや、彼らにはユダヤ人を迫害していた過去がある。楓から後から聞いた話だが、宣伝省だった元ヒムラーの梢はまだ良いとしても、副総統で元ゲッペルスの椿を日本に迎える際にはユダヤ系の企業や団体から多くの反発があり、俺に面倒を見させるから椿と梢だけはなんとか認めて欲しいと翔が直接足を運んでお願いに回ってくれたらしい。そのおかげで、なんとか穏便に済ますことができたのに、10万人の親衛隊を日本で引き受けるとなると、この戦争に参戦してから発行しいる戦時国債を、ユダヤ人を迫害してきたナチスとの戦いへの支援ということで、買い支えてくれているユダヤ資本が手を引く可能性がある。いや、間違いなく手を引くだろう。そうなるとせっかく手に入れたヨーロッパでの日本のイニシアチブを失うことになってしまう。未来のことを考えると、なんとかここでベルヒテスガーデンは手に入れたいところだ。俺が結論を出せずに悩んでいると、椿からジャケット裾を引っ張られたので椿の方を見ると、耳を貸せとジェスチャーで訴えてきた。仕方なく椿の方に耳を寄せると、周りに聞こえない声で椿が呟いた。


「親衛隊は中国に亡命させましょう。ボルマンにアフリカ北部の総督の地位でも保証すれば投降してくるはずです」


なるほど。その手があったか。俺は小さく頷いて椿に了承の意を伝える。


「分かりました。ベルヒテスガーデンにいる親衛隊とナチス党員らの処遇はすべてこちらにお任せいただけるのであれば、現状のまま日本で引き受けましょう」


「園田大臣のご英断に感服いたしました。殿下からの申し出をお引き受けていただき感謝いたします。それでは、調印式の前に引渡を行いたいので、来週のプロイセン王国の建国宣言に合わせて引継の準備を進めるということで、よろしいでしょうか」


マンシュタイン元帥が他の閣僚や皇太子に今後の流れについて確認を取らないところをみると、最初から親衛隊の残党は日本に押し付ける気でいたようだ。ドイツ人同士で殺し合うのは国民の目からも良くは映らないし、兵士の士気も下がるから、他国に問題を丸投げしてしまおうと閣僚の誰かが言い出して、皇太子がその意見に乗っかったのだろう。マンシュタイン元帥がこんな安易な方法を考えるはずがない。


「書類上の手続きはその日程で構いませんが、こちらも軍を動かさなければいけないので、陸軍の包囲はしばらく続けていただけないでしょうか」


「はい。問題ありません」


「では、詳細は事務方同士で詰めるということで、俺は我が国の天皇に報告しなければならないので、一時帰国させていただきます。俺の帰国中は木村元帥が、日中ソ連合の総司令官代理になりますので、何かあれば木村元帥に連絡してください」


「承知しました。あっ、それと、ベルヒテスガーデンに運び込まれた美術品などは、日本領となりましたらご返還をお願いします」


「ええ、もちろんです。それでは急いで国に戻るので、今日はこの辺で失礼します」


「承知しました。門までお見送りいたします」


歴史的にとても重要な会談だったのだが、思ってた以上にはあっさりと終わり、俺と楓は宮殿を後にした。マンシュタイン元帥の息子のゲーロについては今回の役目を終えたので、宮殿でお別れをした。

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