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60.新マンシュタイン計画に対する回答

この頃の日本人とドイツ人は似た感覚を持っている。明治以前の日本では、将軍や藩主がドイツの国王や貴族と似た役割を担っていた。

明治維新による封建制廃止後は、日本の場合は将軍がいなくなっても天皇陛下がおられるので民主主義ではなく天皇主義に移行した。天皇主義体制の下では、市民の普通選挙権は認められていなかったものの、政治体制は比較的安定し、GHQに占領されるまで政治体制が揺らぐようなことにはならなかった。

一方ドイツは共和制に移行後、不安定な政治や経済危機などで国民の不満膨れ上がった結果、新たな指導者を求めて、ファシズムに傾倒してしまった。

戦後は日本とドイツは占領軍により民主主義国家へと移行させられたが、戦後復興という国民共通の課題があったため、国民が同じ方向を目指した。結果、ドイツはヨーロッパで1番の産業国になり、日本経済は朝鮮戦争やベトナム戦争の戦争特需や高度経済成長期を経て、何もない焼け野原から一時ではあるが、世界一金持ちの国へと昇りつめた。

日本に関してはバブルが崩壊後、多くの企業でリストラが行われるようになり、年功序列、終身雇用制度が約束されなくなり、絶対に倒産することはないと思われていた都市銀行である北海道拓殖銀行の倒産や大手証券会社の山一證券の倒産により、金融機関不倒神話が崩壊した。

その頃から、日本人の勤務先への忠誠心や依存は次第に薄くなっていった。

日本人は戦争をするときも、戦後復興をするときも、高度経済成長期でも日本人が同じ方向を向いていたため、日本のポテンシャルを最大限に発揮していたように思う。

しかし、俺が元いた世界の2023年の日本では、多様性が尊重され過ぎて、組織よりも個人が優先されるようになり、日本人は同じ年代、同じ地域、同じ学校に所属していても多種多様な価値観を持つようになった。

確かに個人を大切にすることは、自分らしく生きたいと思う現代人にとって良いことなのかもしれないが、国家単位で考えるとデメリットの方が大きいようにも思える。

街を綺麗にしたいと思って一人でゴミを拾い続けるよりも、住民皆でゴミを捨てないようにした方が、ずっと街は綺麗になるのと一緒で、誰もが自分の住んでいる国を豊かにしようと考えて行動すれば、その国は豊かになると思う。

元の時代では、みんな違ってみんな良いと言われて子供たちは育ち、幼稚園や小学校の発表会では主役をやりたい子がたくさんいるので、数名で主役をやるのが普通になっている。

「桃太郎」をやれば桃太郎がたくさんいて「桃太郎達」という状態になっている。皆が好き放題することが多様性ではない。決まったルールの中でだって個性を発揮することは十分可能であるし、むしろ興味のないことをやってみたら、自分に向いていることを見つけるなんて珍しくない。個人の意思を尊重することで、個人としてはむしろ可能性の幅を狭めているという事にもなり得る。


とはいえ、日本の産業構造に関して言えば些か多様性が足りていない。トヨタやソニーを始めとする大企業中心の製造業に全振りしたような産業構造なっているため、もし日本製品が海外に売れなくなると日本経済は衰退してしまう。ドイツも日本と同様に優れた製造技術を持つ国だが、サービス業の比率が高く、日本より持続可能な産業構造になっている。

     

他方で多様性が重視される社会であればイーロン・マスクのような突出した人間が活躍できる。集団の意思よりも一人の人間の意思が世界を変えるような事業を産み出すことが可能であることを実証している。


ただ、俺は人間は皆一般人だと思っている。

特別な人間なんて存在しない。学校のクラスでは苛めっ子で、同じクラスの子からは怖がられている生徒だって、俺から見たらその辺にいるガキと一緒だし、会社で威張り散らして社員から恐れられている社長だって、知らない俺から見たらその辺にいる普通のおじさんだし、世界一の金持ちが新宿を歩いていたとしても、知らない俺から見れば観光客の外人にしか見えない。

自分が外を歩いているときにすれ違う人を見て、あの人はイケメンだ、あの人は可愛いとか見た目のことくらいしか考えないと思う。道ですれ違った可愛いと思っていた女性も職場では鬼上司だったり、イケメンだと思っていた男性も家ではDV夫だったりするかもしれない。鬼上司に苦しんでいる部下や、DVの被害に遭っている奥さんは、彼らを特別の存在だと考えるからこそ、苦しんでいるのであって、客観的に見ればどちらも外見が良いだけの一般人である。

      

そして、どんなに美人でも、どれだけ筋肉があっても、どれだけ金を持っていても、どれだけ天才でも、誰一人例外なく死ぬ。

何をどれだけ持っていたって、たかだか数十年しか生きられないのだ。

自分が特別だと勘違いさせるようなことを、親や学校やテレビ等が子供のうちから刷り込むことで、持たない人間が持っている人間を特別だと思い込むようになるのだと思う。

だから、国家としては、一人の力は小さいけれど、皆で力を合わせれば大きなことができる、ということをもっと教えていくべきなのではないかと思う。

それに、実際に多くの日本企業から求められている人材は協調性があり、人柄が良く、社交性の高い人間なのだ。

企業から求められている人物像から外れた、協調性がなく、根暗で社交性がない人間だって、綺麗ごとをいえば個性だ。

今まで是とされていた個性を社会に出た瞬間に否定されて、社会とのギャップに苦しむ人も少なくないだろう。現実には、社会に出ることさえ拒まれいる人だっている。

であれば、子供の頃から綺麗ごとだけではではなく、どんな人間が企業から求めらていて、どうすれば企業から求められる人間になれるのか、そういう教育に力を注ぐべきであると思う。

だからこそ俺は解放した5王国には、あえて王という特別な存在を作り、王を中心に団結した国家になって、いち早く戦争で荒廃した国土を復興してもらいたいと思い、日本と同じように立憲君主制を導入した。ドイツについてもアイザックがこのまま総統を続けるより、プロイセン王国に戻して、国王を中心とした国家になった方がドイツ本来のポテンシャルを発揮できると俺は考えている。


他の主要メンバーからの了承を得て、自分自身の考えも纏まったところで、ドイツの監視役兼連絡係にマンシュタイン元帥と会いたいという旨を伝えたところ、昨日のビアホールではなく、表敬訪問という名目で陸軍省庁舎で会うことになった。


陸軍省庁舎に到着し会議室に案内されると、昨日のメンバーだけではなく、東部軍と中央軍の主だった陸軍の将官達が集まっていた。

マンシュタイン元帥は俺が断ることはないと見越して、主要人物をこの短時間で集めたのだろう。

集まっていた将官全員の自己紹介と挨拶を終え、クーデター成功後の条約等の詳細な内容を確認し、彼らの要請に対して俺から正式な回答を伝える段階に入った。


「この度はマンシュタイン元帥から要請をいただいた件について、結論から述べますと、大日本帝国は皆さんのクーデターを支持いたします」


ここで会議室は歓声と拍手で包まれるが、まだ続きがあるので俺は左手を上げて拍手を静止して話を続ける。


「ただし、先程の条件に加えて、ヒトラーとその婚約者の身柄は日本に渡していただきます」


会議室がざわつき出したところで、マンシュタイン元帥が発言をする。

    

「園田閣下、彼らは犯罪者として軍法会議にかけなければいけません。彼らの処遇はこちらにお任せいただきたい」


「マンシュタイン元帥の言い分も理解できますが、こちらはモスクワに原爆を落とされているので、裁判はソ連で行いたいと思っております。でなければ、ソ連を納得させるのは難しいでしょう」


「それでは、モスクワに原爆投下指示を出したのはクラーラです。彼女だけ引き渡すということで、ソ連を説得していただけないでしょうか」


クラーラが全て考えた事とはいえ、最終決定をしたのはアイザックだ。遥はクラーラだけで納得するだろうか。アイザックは友人とはいえ人を殺し過ぎた。アイザックがクラーラを止めなかったことでアメリカやイギリス、占領されていた国の市民の犠牲は1000万人を超えるだろう。彼にはその責任を取る義務がある。

とはいえ、かつては友人だったことは間違いないので、助けてあげたいという気持ちもある。アイザックを遥に引き渡したら確実に殺されるだろうが、プロイセン王国に引き渡せばもしかしたら命だけは助かる可能性もある。

少なくともすぐに処刑すれば武装親衛隊が一斉蜂起する可能性が高いので、少なくとも武装親衛隊を解散させるまで生かしておくとは思う。そして、ここでマンシュタイン元帥の顔を立てておかなければ後々の禍根に繋がる可能性もある…。


「わかりました。クラーラだけこちらで引き取って、ソ連は俺から説得してみましょう」


マンシュタイン元帥はホッとした表情をして俺に礼を述べた。


「園田閣下のご配慮に感謝いたします。それでは我々はヴィルヘルム・フォン・プロイセン陛下に今回の同盟の件、私から報告させていただきます」


「よろしくお願いします。俺もこれからワルシャワに戻って準備を始めます。作戦決行日が決まったら連絡してください。ドイツ国境付近に我が軍を集結させてお待ちしております」


「はい。後ろに日本軍が控えていただけると心強いです。では、私の息子を連絡役として、ご同行させていただけないでしょうか」


息子?そういえばマンシュタイン元帥の息子も陸軍で大尉だったな。自分が裏切らないように人質を差し出すということか。


「わかりました。お預かりいたします」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


マンシュタイン元帥らに見送られて陸軍省の入り口を出ると、人質役の彼の息子が待っていた。


「園田閣下、はじめまして。ゲーロ・フォン・マンシュタイン大尉です。閣下に同行させていただくことになり、大変光栄です。よろしくお願いいたします」

    

ゲーロは黒髪で父に似て長身で眼鏡をかけた好青年だった。顔はあまり父に似てないので母親似なのかもれいない。


「こちらこそよろしくお願いします」


俺たちはドイツ陸軍が用意した車に乗り込み、宿泊先のホテルに一度戻ってから帰りの準備を整えてワルシャワに戻った。


マンシュタイン元帥から連絡があったのは、俺がワルシャワに着いた翌日だった。5日後に作戦決行する旨の連絡だった。すぐに陸軍5個師団を引き連れてチェコ王国のプルゼニに向かい、そこで1日滞在してから、ドイツ国境近くの街ロズヴァドフに向かった。


計画ではクーデター成功の報告を受けたら、即日ドイツ国境を越えてベルリンは無視して、フランクフルトに2個師団とシュトゥットガルトに3個師団を配置して、連合軍のドイツ侵入を牽制することになっている。ドイツ国境を越えた街道では武装親衛隊の攻撃に遭う可能性があるため、チェコに建設した大日本帝国の空軍基地には偵察機と攻撃機を集めて、出撃準備を整えさせている。

なお、今回のドイツ進駐軍の編成はヨーロッパに派遣された陸軍10個師団のうち半数の5個師団を動員している。残りの半数については、まだ政情が不安定な5王国の首都にそれぞれ1個師団を配置して、治安維持任務に従事している。大日本帝国陸軍全体で20師団と4旅団で構成されており、今回のヨーロッパ派遣には元の時代の陸上自衛隊のほぼ全軍に相当する人員を動員しているため、市ヶ谷の補給統制本部は武器弾薬、燃料や兵糧の確保と流通に連日大忙しとなっていることだろう。

また、大日本帝国陸軍の動きに合わせて、中国軍にはイタリア、フランス国境で、連合軍を挑発するよう指示してある。軍の配置が完了したところで、大日本帝国の占領下にあるドイツへの侵入は日中ソ連合軍に対する敵対行為とみなすと西側連合国への通達を出す手筈になっている。

そして、ソ連軍には遥を通してイランへの進軍を指示した。


これにはイランから西側連合国への石油供給を停止させ、米英の東ヨーロッパへの関心を逸らす狙いがある。史実では1941年にイギリス、ソ連がイランに侵攻していたのだが、こちらの世界ではソ連が連合国に参加しなかったため、イラン侵攻は起こらなかった。

ソ連と日本は旧満州のターチン油田の合同開発に成功していたため中東からの石油の輸入を必要とはしていなかったが、戦後に中東から連合国への石油の輸出を停止させるため、イランだけではなく、イラクやサウジアラビアを侵攻し、ソビエトに編入させることを予定している。

中東は現時点ではイギリスの勢力圏内にあるが、ソ連はイギリスに比べてまだ余裕があることに加え、地理的にソ連は陸路で繋がっている。一方イギリスは中東に援軍を派遣するためには海路を使う必要があるが、イギリス海軍はドイツによって組織的な行動ができないほど打撃を受けているため、援軍の見込みがないイギリス軍は問題なく中東から退けることができるだろう。

しかし、中東の占領は莫大な利益を出し続けることになる大きなメリットがある一方、宗教的な問題をクリアしなければいけないので、日本としては占領には関与せずに中東で石油開発を行う予定の、ソ連の企業から石油を買うだけにしておこうと考えている。元の世界のアメリカのように、テロリストと何十年も戦い続けるのは勘弁してもらいたい。

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