06.海軍次官
『誠司、悠斗聞こえる?』
翔が日本グループのチャットで話しかけてきたので返事をする。
『ああ、聞こえてるよ』
『とりあえず二人と合流したいんだけど、どないしたらええ?』
『うん、そうだね。一回直接会って話したいね。僕と誠司は今皇居にいるから、天皇命令で召喚状を送るわ。今、翔はどこにいるの?』
『今は霞が関にある海軍省の次官室におるで』
『じゃあ、すぐ届けてもらうから、そのまま待ってて』
『了解』
悠斗が侍従長を呼んで翔に遣いを送るよう指示した。そして、これから翔が来るから3人分の昼食を用意するように頼んでくれた。ついでに控室で待機している木村少尉にも同じ昼食を運ぶようにお願いした。
侍従長に頼んでから約40分ほどで翔が皇居に到着した。
「おつかれー」
翔だけ別人になっていないか心配してたけど、元の世界と同じ姿をしていたから少し安心した。
「おつかれー。昨日振り?」
「何日も経ってた感覚だけど、昨日振りだね」
「そうやな。ここ座ってもええ?」
「僕たちだけのときはいいよ」
翔は着いて早々に天皇の椅子に座った。
「意外と普通やな」
「おまえ、不敬だぞ」
「別にええやん。悠斗やし」
「あぁ…それもそうか。俺も後で座ってみよ」
時空を超えた感動の再会を果たしたところで、このまま昨日と同様に執務室の会議用テーブルで3人で昼食を取ることになった。今日はご飯、餃子、棒々鶏、卵スープ、ザーサイという中華料理屋のランチセットのようなメニューだった。天皇って毎日会席料理みたいの食べてるというイメージだったけど、意外と庶民と変わらないものを食べているんだな。
「この餃子美味いな。お替わりしてもええ?」
翔はこっちの世界にきても相変わらずマイペースのようだ。ちなみに老け顔のうえ小太りで身長160㎝くらいの翔は、海軍の制服を着るとそれなりに貫禄があり、だまっていれは偉い人っぽく見えなくもないが、中身は何も変わってないみたいようだ。この世界に来てからずっと緊張してた気がするが、翔と会ったら緊張が解けたみたいだ。一人よりも二人、二人よりも三人ってやつだな。
「お替りできるとは思うけど、これから大事な話をする今日はからやめとこうよ」
「あぁ、そうか?海軍省の食堂でも食べれる?」
「今度呼んだときはたくさん餃子用意してもらうから諦めなよ」
「次はライス大盛、餃子3倍で頼むわ。で、昨日は二人でなに話したん?」
悠斗が昨日俺と二人で話した内容を一通り翔に伝えている間、俺は黙々と昼食を食べていた。確かにこの餃子美味いな。
「なるほど。だいたい分かった。俺も二人の考えに賛成やけど、動くなら急いだ方が良さそうやな。放ってほくと、どんどん元いた世界の歴史を辿ることになるもんな。ブーゲンビルで戦死は勘弁して欲しいわ」
翔が山本五十六の役割だとすれば、対米開戦に踏み切った場合、ブーゲンビル島の上空で戦死は回避できたとしても、俺と一緒に戦犯として死刑にはなるだろな。
「とりあえず陸軍と海軍の最優先事項だけ今日中に決めちゃって、明日には動き始めたいよな。俺たちには陛下の後ろ盾もあることだしさ」
「今までの僕はまったく軍政に口を出してないようだから、例の能力使うことにはなるだろうけどね。」
悠斗が言うとおり、この時代の天皇は大日本帝国憲法に統帥権という、陸海軍の最高指揮官である旨の規定があるが、実際に天皇が軍や政治に関わることはほとんどなく、元の世界の歴史では太平洋戦争末期の御前会議にて、戦争継続派と終戦派の票が同数になったことから、ポツダム宣言受諾の決断は天皇自らが行ったというが、それ以外で天皇が戦争に対して自分の意見を出したことは記録されていない。あとから当時の宮内庁長官が公開したメモでは、昭和天皇が軍部の暴走を抑えきれずに、悔しい想いをされたことが綴られていた。
「海軍については、昨日一人で考えとった。最優先事項として、今建造中の大和と武蔵を戦艦やなしに空母にしよう思てんねんけど、どう思う?どっちもほとんど活躍せえへんで沈んでもうたし、戦艦よりは空母の方が圧倒的に役に立つことは、ほんまもんの山本五十六が実証済やし。」
「そっかー、もう建造中だから計画自体は破棄できないし、僕も空母にするのが現実的だと思う。」
「ん~…、俺ら対米開戦する気ないだろ?それなのに、どうせ使わない空母の維持費が惜しいな。武蔵は空母にするとしても、大和の方はせめて指揮揚陸艦にできないかな?空母に比べたら大幅に維持コストかからないし、連合艦隊にも指揮揚陸艦は有った方がいいだろ?」
「まぁ、確かに空母は維持費が高いもんな。ほな、戻ったらそれで進めるわ。あと、大和と武蔵に乗せる予定やった46cm主砲6基18門が余るんやんな。で、これ沖縄本島に全部運んで沖縄を要塞化してまおうって考えてんねんけど、どう思う?史実ではトラック諸島にこれから海軍の一大拠点を建造する予定なんやけど、本土からめっちゃ離れてることもあって、トラック諸島に連合艦隊を配備してまうと、日本列島防衛に割けるリソースが減ってまうんやんな。あと、補給のこと考えても本土から近い沖縄に海軍の拠点を置くのがベストや思うんや。俺らがおった現代でも米軍がアジアの重要拠点として沖縄に基地を置いてるわけやし」
「へぇ~、1日で結構ちゃんと考えてたんだね。翔の話を聞いた感じだと、僕もトラックを要塞化するよりは、沖縄の方が確かに良いと思うよ」
「中国撤退後は現在の勢力圏の防衛に徹するから海軍には頑張ってもらわないとな。それと、関東軍70万人と朝鮮駐留軍29万人、民間人200万人の撤収、頼むよ。駆逐艦も戦艦も空母も全部使ってさ。」
「300万人の撤収…、燃料足りるかいな?まぁ、なんとかやってみるわ。せやけど、陸軍からも燃料融通してな。で、撤収できたとして本土に戻した人たちはどうすんの?」
「燃料の融通は分かった。少なくとも大陸に備蓄してるのは全部帰りの燃料に充てさせるわ。で、一番の問題は翔の言うとおり戻した人達の行き場なんだよなぁ。徴兵した人たちは全員解散して、元々の職業軍人だけにしようかな」
「解散したら失業率エグいことにならない?」
「悠斗の言うようにそ失業率がエグいことになるのは俺も思った。だから、とりあえず民間人の方は希望者は全員北海道で大開拓団として農業と酪農、漁業、養殖業、林業、鉱山に従事してもらうのはどうかな?」
「僕は良いと思う。わざわざ中国で開拓しなくても、北海道ならいくらでも土地余ってるから、北海道を日本の食料庫にするって計画?」
「そうそう。で、関東軍の方はインフラ整備だな。日本全国の幹線道路の舗装、ダム、橋、港の公共事業かな。そして、インフラ整備と農業の効率化のために小松製作所に国産のブルトーザー、パワーショベル、ロードローラー、大型トラックを最優先で開発・製造・納入まで依頼して、農業機械は今ある農機が製造可能なメーカーに1種類につき2社に任せる形で入札をしよう。コマツは確実に要件を満たすものを納入してくるだろうけど、農機メーカーについはよく分からないから慎重に行きたい。鉄は日露戦争から後生大事に持ってる船舶とか熔かして材料の足しにするか~」
実際に機能要求を満たすものが作れるかは不明だけど、基本構造はメモしてあるから、成功率は高いはずだ。
「人はいるかもしれないけど、公共事業の資金はどうするの?あと、それも、かなり燃料使うんじゃない?足りる?」
「アメリカが金と燃料貸してくれないかな?」
「無理やん。だって満州はソ連に差し出すんやろ?」
「僕もアメリカはさすがに難しいと思うよ。かと言って元の世界みたいに日銀に国債引き受けさせたらハイパーインフレになるのは確実だし、外債はまだ日露戦争の分が返済終わってないから却下。よし、陸軍の維持費削減のために、規模を124万人から50万人まで縮小して、航空戦力以外の装備も50%は毛沢東に売ろうか。」
「ええっ!74万人の失業者どないすんの?それに、毛沢東は金持ってるん?」
「失業者は公共事業と警察官の増員に回そう。毛沢東は今は厳しいから、建国後に資源でもらうってことにしようか」
「そもそも、50万人まで縮小して、防衛は大丈夫なもんなの?」
「それは全く問題ないな。実際今の陸軍の兵員約200万人、これから中国から撤退して対米戦回避して、ソ連の侵攻に備えなくても良い日本には不要でしょ。防衛だけなら装備も近代化するし、50万人でも多いと思うけど。」
「なるほど、確かに三八式歩兵銃がメイン武装の200万人よりはAK-47の50万人の方が強いだろうな」
「それと、陸軍の航空戦力はすべて海軍に統合しよう。実際陸軍と海軍でバラバラに航空機の運用するのは非効率的だし、拠点防衛だけすれば良い陸軍と違って、海軍は広大な領海の哨戒、防衛をしなきゃいけないから、航空機はいくらあっても足りないよね」
「誠司、陸軍次官のくせに陸軍に恨みでもあるん?海軍としては願うてもあれへん申し出やけど、そんなんして陸軍からクーデター起きへんか?」
「クーデターはたぶん起きないじゃないか?それに、クーデター計画されたとしてもチート能力あるから大丈夫。どうやって能力使うか考えたんだけど、お互い急遽今週の金曜日の夜に幹部を集めたパーティーを開いて、俺が入り口で待っていて一人一人と握手しながら、逆らわないように例の能力を使おうと思ってる。そうすればそこに参加してない将校の小規模な反発はあるだろうが、俺はしばらく皇居の来客用の部屋で寝泊まりして、皇居を出るときは裏切らないように仕上げた1個中隊を護衛につけてとくわ」
「まぁ、せやったらいけるかいな?ほな、俺も海軍で同じことやるわ」
「僕はなにすれば良い?」
「悠斗は実はあんまりやることないんだよな。あっ、陛下直属の絶対裏切らないCIAみたいな工作部隊作ろうよ」
「おっ、それ楽しそうだね。近衛師団とは別に天皇直属の工作部隊とテロ鎮圧部隊作るわ!」
「ほな、俺も海軍陸戦隊からシールズ作るわ!」
「それなら俺もグリンベレー作るからそのうち三人で自慢の部隊使って模擬戦やろうぜ」
「いいねー!こっちにはFPSないからリアルでやろう!」
大筋の方針が決まってからは、反対勢力に根回しをする必要のない俺らの動きは早かった。まず、小川先輩のソ連とは予定通りに満州、朝鮮と北樺太の交換、油田の共同開発、軍事同盟を締結した。陸軍の方は中国、満州、朝鮮から6ヶ月で撤収が完了した。陸軍の総兵力200万人の約半数は召集兵だったので、召集を解除し希望者全員にインフラ整備の土木作業か職業軍人への登用を選ばせた。また、召集兵の中でも適正がありそうな者で、希望者には警察官への積極登用も行い、約10万人の新しい警察官が登用された。急に10万人分の装備を警察で用意することが難しかったため、陸軍の拳銃や歩兵銃を流用した武装警察を新たに新設することになった。
職業軍人を希望した者も約10万人いたが、陸軍の航空隊、整備、技術等の航空関係者をすべて海軍に転籍させたため、陸軍の総兵力は約50万人程度に抑えることができた。最初は一部の失業者の間で若干の混乱があったものの、希望者全員に仕事があることと、増員した警察官のおかげで暴動までには至らず各々の仕事に着くことができ、大陸からの帰還後約6ヶ月程度で平時の状況に戻った。
撤退は国連の監視団やマスコミをすべて受け入れたうえで実施したため、世界からの日本の信用は大幅に回復できたと思う。
だだし、日本の燃料はこの大移動でほとんど底をついた。発電所は計画停電を実施し、陸軍は車両の稼働率を20%にまで下げ、海軍は燃料節約のため訓練すら出来ない状況になった。




