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58.講和会議

1943年11月27日 ドイツ第三帝国 ベルリン 総統官邸


遥の同意を得た翌日、日中ソ連合軍としては正式に講和会議を開始する用意がある旨、ドイツに通達した。

通達を受けたドイツから即日停戦の申入れがあり、翌日には交渉に入るため停戦する旨がドイツ軍と日中ソ連合軍の全軍に通達された。

そして、今日は俺と椿、藤井先輩、遥の4人で講和会議に参加するため、ベルリンを訪れている。遥は相変わらず心神喪失状態ではあるが顔の傷は治ったので、今回はソ連の代表として連れてきた。この状態ならアイザックに会っても急に騒ぎ出したりはしないだろう。

こんな形での4年振りになるアイザックとの再会は複雑な気持ちだ。毎日会っていた地元の友人と疎遠になってから数年振りに会う直前のよう緊張感がある。今回の交渉には日中ソ連合軍からは俺達4人の他に日中ソの外務大臣が参加し、ドイツからはアイザックとボルマン副総統、ヨアヒム・フォン・リッベントロップ外務大臣が参加することになっている。

    

西側連合国との講和交渉は、西側連合国側から回答が得られないため、今回は日中ソ連合軍とドイツ、イタリアのみの講和会議となった。ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、オーストラリアの五王国は日本が講和条約を締結してから、日本に準じた内容で後日講和条約を締結することになっている。なお、西側連合軍には俺達がベルリンにいる期間は絶対にベルリンと俺たちの移動ルート付近に攻撃しないよう通達してある。


アイザックから本格的に交渉を始める前に3人で話したいと伝言があり、俺と藤井先輩の二人は総統官邸のラウンジに招待された。

初めて総統官邸に入ったが、まるで王宮のような豪華な内装になっており、俺でも知っているような有名な美術品等も所々に飾られ、周りをキョロキョロしながら歩いてしまったが、藤井先輩は総統官邸には毎日出勤していたので、慣れた様子だった。

総統官邸内を警備しているSSの隊員達は藤井先輩の姿を見て顔をしかめる者が多かった。彼らにとっては藤井先輩は犯罪者で売国奴ということになっているので仕方ないだろう。

ラウンジの扉の前を警備しているのはずいぶん若い少年達兵だったが、同年代の日本人の少年達と比べるとかなり精悍な顔つきだった。

ラウンジにはアイザックと一緒にクラーラも待っているものだと思っていたが、アイザックが一人で待っていた。ハーフではなく完全にドイツ人に変わっているので、元の世界で最後に会った時に顔とは若干違うが、アイザックは世界を超えてもやはりイケメンだった。

    

ラウンジに置いてあった一人用のソファーから立ち上がり、俺たちを迎えてくれたアイザックの表情は硬かった。元の世界でのアイザックしかしらないので、こんなに真剣な顔を見るのは初めてだ。こんな顔もするんだと関心していたら、アイザックの方から話しかけてきた。


「やぁ、誠司久し振りだね。こうして直接会うのは4年振りだったかな?」


「あぁ、こっちに来てからは一度も会ってないから4年振りだな。アイザックは相変わらずイケメンで鼻につくやつだな」


「#僻__ひが__#まないでよ。イケメンで生まれてきたのは僕の責任じゃないでしょ?」


「いや、おまえのせいだ。禿げてしまえ!」


「ははは、誠司は見た目も中身も昔のままで安心したよ」


アイザックと昔のようなやり取りをしていると、藤井先輩が咳払いをした。


「おいおい、アイザック、俺に言うことはないのか?」


「藤井先輩…。今まで色々とすみませんでした。仲直りしてください!」


「よし、わかった。俺のことは許す!」


「軽っ!そんな簡単に許すの!?足撃たれてるんだよ!?」


「おい、誠司!タメ口になってるぞ!」


「あっ、すみません!動揺してつい。って、そこには怒るんですか!?」


俺たちのやり取りを見てアイザックがシクシクと泣き始めた。


「どうした!なんで泣き始めた!?」


「いや、なんか昔みたいだなって思って、ここに小川先輩もいたはずなのに、僕のせいで…」


アイザックが嗚咽し始めたので、とりあえず落ち着くまで藤井先輩と待つことにした。

 

5分くらい泣いてアイザックがようやく落ち着いてきたところで藤井先輩が話始めた。


「おまえが俺にしたことは、追放されようが足撃たれようが今生きてるから許せたけど、小川のことで俺たちに同情してもらおうとするのはやめろ。おまえからしたら女にそそのかされて許可したのかもしれないけど、同じサークルの仲間で、一緒にこっちに来た小川をを殺したのは間違いなくおまえの責任だ。それなのに自分の置かれている状況を悲観して泣いてるんじゃねーよ。おまえは小川のためじゃなく自分のために泣いてるんだ。甘えんなよくそボケが」


藤井先輩がキレた。ここで喧嘩が始まると話が進まないので、なんとか仲裁しなければいけない。


「戦争だから仕方ないって言いたいところだけど、小川先輩のことはそんな言葉じゃ片付けられないよな。でも、小川先輩のことについては、藤井先輩の言うとおり俺たちが許すとか許さないの話じゃないと思う。こういう言い方をすると冷たいかもしれないけど、今は過去を振り返ってる時間はないし、これからのことを話さないか?」


アイザックは小さく頷くと、用意してあった水差しの水を飲んで、ソファーに深く腰掛けた。


「ごめんね、色々溜まってたみたいだけど、泣いたらすっきりした。もう大丈夫だからこれからどうするか話したい」

  

「そうだな、とりあえず涙拭けよ」


俺はアイザックに新品のハンカチを渡して、停戦後のことを話し始めた。


3人で話し合った結果、以下の約束をさせた。


・今後ポーランドなど独立した5王国にはドイツは干渉しないこと。

・日中ソ連合及び5王国と再び不可侵条約と通商友好条約を締結すること。

・今回の戦争の賠償としてドイツのジェットエンジン、ロケットエンジンの技術を平和利用目的で提供すること

・日本海軍の補給基地にするために北海のヘルゴラント島を日本に割譲すること

・中国が占領した北イタリアを中国の領土として認めること

・五王国には賠償として10年間は税収の10%を無利子の復興国債を引き受けに充てるること

・西側連合国と戦争を継続することになった場合は日中ソ連合及び五王国は中立の立場として一切干渉せず、両陣営に対して武器の販売・譲渡・貸与をしないこと


これらの条件が決まったところで、一度解散となった。俺と藤井先輩は同行している日中の幹部と本国にこの内容を伝えたうえで、翌日の講和会議に挑むことになった。  


翌日の講話会議は概ね予定どおりに進んだが、北イタリアの領有に関してはイタリアが異を唱えた。

今までほとんど話題にも出てこなかったので、あまり気にしていなかった元の世界から来たムッソリーニが北イタリアの中国の領有について、イタリアは絶対に認めないと断固として拒否する構えを見せた。アイザックからも説得を試みたが彼女はこの件に関しては1歩も譲らなかった。


「北イタリアの領有は認められない!私はイタリアを中国人から取り戻すためなら、例え一人になっても中国と戦う!」


これに対して藤井先輩がまたキレ気味に話し始めた。この人はすぐに感情的になってヒートアップするところが本当に面倒なのだが、どうにかならないだろうか。


「おい、おまえ今更グダグダうるせぇんだよ!負けてるんだから仕方ねぇだろ!」


ムッソリーニも負けずに怒鳴り返す。


「ドイツを売って日本に寝返ったやつに言われたくない!猿の番犬に成り下がったやつは、黙って床に落ちてるご主人のおこぼれでも食べてろ!!」


「てめぇ!前から気に入らない女だと思っていたが、前より質が悪くなってるな!」


「貴様に気に入られなくて嬉しいわ!この売国奴!」


「もう、我慢できねぇ!残りの南半分も占領してやろうか!?」

    

「やってみろよ!日本とソ連がいなきゃ中国なんて頭数だけの烏合の衆だろ!返り討ちにしてやるよ!」


この二人は元々仲が悪かったらしいが、相性が悪過ぎる。どっちもバカだ。誰か仲裁に入れるやつはいないか…。横に座る椿の顔を見ると任せろとばかりに頷いている。こいつは冷静な様に見えて、かなりデンジャラスな奴だと分かったからここを任せるには不安しかない。自分でやるしかないか…。


「二人共、交渉の場で怒鳴り合うなんてやめましょうよ。中国としてはここまで軍を出して、イタリアに勝っている状況での停戦ということなので、手ぶらで帰れないってことなんですよね?それなら、イタリアの方で北イタリアから中国が撤退する代わりに、何か準備しているのですか?」


「ない!侵略してきたのは中国だ!中国に賠償を支払ってもらいたいのはこっちだ!」


「イタリアが現在もチュニジアとリビアの広範囲を占領しているのは侵略ですよね。自国が侵略してるのに他国に占領されたら侵略者って、そんな都合の良い話しが通るわけないですよ。それに、さっき日本とソ連がいなきゃって言ってましたけど、中国と日本は日中安保があるから、日本も停戦を見送らなきゃいけなくなりますよ」

    

「だっ、だったら、北イタリアの代わりに、チュニジアとリビアを中国に譲ろう!そっちの方が範囲も広いし、悪い話ではないだろ?」


「なるほど、じゃあ中国はそれで妥協するということで良いですか?」


「まぁ、それで妥協してやるか」


これで中国はアフリカに地中海に面した国土を持つことができて、アフリカにも影響力を持つことになるが、チュニジアやリビアは宗教や民族問題の多い地域なので、その問題も同時に抱えることになるだろう。しかし、それについては中国の内政問題になるので日本は関与するつもりはない。


北イタリアの問題が解決したところで、次の議題に移すことにした。


「では、次にベルギーとオランダの大部分は、まだドイツの勢力下にあります。これらの地域からドイツは撤退するということですが、撤退はいったん中止してもらいたいんです」


俺の要望に対してドイツのヨアヒム・フォン・リッベントロップ外務大臣が回答する。


「撤退を中止することは構わないのですが、どのような理由か教えてください」


「このままドイツが撤退すると、ベルギーとオランダは独立することになると思います。そうなると連合国側に付くのは明らかです。連合国側の勢力が増えるくらないら貴国が併合した方が我々にとってはマシということですよ」


俺の説明に対してドイツの最終決定権者であるアイザックが答える。


「いいよ。撤退はしない。でも、西側連合国と僕たちが停戦交渉する際に、二国から撤退するよう要求してくると思うんだけど、撤退できずに停戦できないのは困るな」


「あぁ、それもそうか。ではこうしよう。形式上ベルギーとオランダは独立させるけど、親独派の政権を樹立させて、新政府からの要請で軍を駐留させる。在り来たりだけど、形式上は独立している以上、連合軍が進軍する大義名分は失うからな。放っておくと何年かしてからベルギーとオランダの国民によって、親独政権が政権を下ろされるかもしれないけど、そうならないようにドイツがうまくやって欲しい」


アイザックが小声でボルマンとリッベントロップに問題ないか確認していたが、特に問題ないようなので、アイザックは俺の提案を承諾した。


「日本と中国は概ね合意で問題ありませんが、最後にソ連から停戦の条件があれば提示してください」


俺が遥に質問すると遥は無表情のまま答えた。


「クラーラ・・・」


え?こいつ何を言ってるんだ?ないって言うようにここに来る前に命令したはずなのに。もしかしたら、こんなところで洗脳が解けてしまったのかもしれない。俺は遥に耳元でもう一度命令をする。

「遥ちゃん、次俺が質問をしたら、ありませんと答えてください」


これで恐らく大丈夫だろう。もう一度聞いてみる。

「ソ連は講和条約の締結にあたって、何か条件はありますか?」


「ありません」

    

良かった。まだ洗脳は切れていないようだけどかなり焦った。遥もそろそろ限界かもしれないな。この会議が終わったら最後の仕事をさせて日本に連れて帰ろう。


「それでは概ね条件も纏まったので、本会議はここで終了といたします。条文の細かい内容については、日本が作成した文案を来週までにお渡ししますので、内容を確認のうえ問題なければベルリンで調印式したいと思います。異議のある方はいますか?」


数秒待って参加者を見渡したが誰からも異議が出なかったので、講和会議を終了した。

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