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56.ヒトラーユーゲント

1943年8月10日 ドイツ第三帝国 シュトゥットガルト 総統地下壕


オーストリアが日本軍によって解放されたことで、クラーラが避難していたベルヒテスガーデンのケールシュタインハウスも安全ではなくなった。そのため、クラーラはアイザックと一緒に現在シュトゥットガルトの州立公園内に建設された総統大本営の地下壕で生活している。地下壕はサッカーコート約1面分程度の広さがあり、上面のコンクリートの厚さは四周と下面でも3m以上の厚さで建造されていた。元の世界の史実では総統地下壕はベルリンに建造されていたが、この世界ではベルリンを放棄する予定だったため、シュトゥットガルト建造され、元の世界の総統地下壕を上回る規模になっていた。総統地下壕には国防最高軍司令部、陸軍と空軍の司令部、そして親衛隊作戦本部等が設置され、本土防衛の中枢を担っている。

    

現時点では最終防衛ラインより内側の制空権はドイツ空軍にあるため、まだ連合軍による空爆は始まっていない。しかし、歴戦のパイロットに世界最強の戦闘機が揃っていても、このまま連合軍の包囲が続けば、補給物資の調達も困難になり、制空権を失うのは時間の問題とされていた。そこでアイザックらは制空権を失う前に、国防の中枢を地下に移していた。

 

アイザックが総統地下壕を出て気分転換に植物園を散歩していると、武装SSの制服を着て銃剣訓練を行っている少年たちの中に見知った顔を見つけた。

少年たちに近づいていくと、全員がアイザックに気づき綺麗に整列し、ナチス式敬礼を行った。


「「ハイル・マイン・フューラー!」」


アイザックは少年たちの代表に話しかけた。


「ヘルムートじゃないか!こっちに避難してきたの?」


一緒にいた他の少年たちはアイザックがヘルムートに話しかけたことに驚きを隠せないでいた。


「いえ!総統の下で祖国を守るために、武装SSに入隊してこちらに配属になりました!」


「入隊って…、ヘルムートは確かまだ16歳位だったよね?」


「はい!ローゼンベルク大将がヒトラーユーゲントのメンバーだけの武装SS師団を結成するとのことで、希望者を募っていたので志願しました!」


「ローゼンベルクが…」


「なにか問題でしたか?」


ヘルムートは難しい顔をして考えていたアイザックに恐る恐る質問した。


「いや、大丈夫だよ。いつもここで訓練しているの?」

    

「いえ、本日はいつもの訓練場が空いていなかったので、たまたまこちらで訓練をしているところに総統閣下がお見えになられて、感激しております!」


ほかの少年たちもヘルムートの言葉に皆頷いている。


「ありがとう。明日もここを散歩するから、ここで訓練すると良いよ」


「はい!必ず明日もここで訓練いたします!」


アイザックとヘルムートの最初の出会いは今から約3年前だった。ヒトラーユーゲントの儀仗隊に所属していたヘルムートは、ベルリンの総統官邸での式典に、最年少の隊員として参加していた。

アイザックは初めて見るヒトラーユーゲントの栄誉礼に感動して、後日参加していた隊員全員に総統官邸でのアイザックとの食事会と、ヒトラーユーゲント用のナチス党員バッジを作って授与した。

そのときに最年少だったヘルムートは特に目立っていたので、アイザックが直接褒めると、泣くほど喜んでいた。ヘルムートはその日を境にアイザックに対して今まで以上に強い憧れを抱くようになり、将来は親衛隊に入隊してアイザックのために働くことが目標になった。

ヒトラーユーゲントでの活動や学校での勉強を必死に頑張り、式典等で度々アイザックと会えるようになっていた。

アイザックも純粋で素直な気持ちで自分に慕ってくれるヘルムートに好感を持つようになり、式典や行事の際にヘルムートを見つける度に必ず声をかけるようになった。

だが、ソ連との開戦からは盛大に式典等を開く機会もほとんどなくなった。ソ連軍が国境を越えてからはヒトラーユーゲントとドイツ女子同盟のメンバーには集団疎開が命じられており、ヘルムートに会う機会もなくなっていた。しかし、ヘルムートのことを気にかけていたアイザックは彼の行方を調べ、疎開先の地域の子供たちにと1~2か月に1回お菓子等の差し入れを行っていた。子供たちからはお礼の手紙が届くようになり、忙しさから返事は書くことができなかったが、それを何度も読み返すことは優香と過ごすことの次にアイザックが好きな時間だった。 

アイザックはヘルムート達と別れてから総統大本営に戻り、すぐにボルマンを呼んでヒトラーユーゲント出身のSS隊員は最前線には送らずにシュトゥットガルトの治安維持活動等をさせるようにすることと、ヘルムートがリーダーの小隊については、総統地下壕での警備業務を担当させるように命令を出した。

翌日からヘルムート達の小隊は総統専属の護衛任務に就くことになった。これは親衛隊に入隊してしまった以上は自分と一緒にいるのが一番安全であるためアイザックによる配慮だった。アイザックは小隊長に任命したヘルムートを昼食に誘った。総統地下壕のアイザックの居住スペースのダイニングテーブルには総統専属のシェフが作った料理が並んでおり、ヘルムートは久しぶりに食べる豪華なランチに夢中になっていた。


「ヘルムートと食事をするのは何回目だったかな?」


ヘルムートは即座にフォークを置き、アイザックの質問に答える。


「4回目であります!」


「食べながらで大丈夫だよ」


「はい!ありがとうございます!」


ヘルムートはアイザックの許可が出たので再びフォークを口に運び始めた。


「そうか、ヘルムートも初めて会ったときよりだいぶ逞しくなったもんね。最初はいつだったかな・・・」


「最初は私が13歳の時にヒトラーユーゲントの儀仗隊で総統官邸に招待していただいた翌月に、ほかの儀仗隊の仲間と一緒にランチをご馳走になりました。二回目は去年僕がヒトラーユーゲントの射撃大会で優勝したときのお祝いとして、家族と一緒に総統官邸のディナーにお招きいただいたときです」


「そうだったね。家族はどうしてる?確か父上はベルリンで医師でをしていたはずだったけど」


「はい、父は今は看護師の母と二人でミュンヘンの陸軍病院に勤務しております。弟二人は母の実家があるアーレンの祖父の家に疎開しており、姉はシュトゥットガルトで親衛隊の事務をしております」


「アーレンならここよりも安全だから安心だね。ご両親も今はここよりミュンヘンのほうが安全だからとりあえずは心配いらないかな。お姉さんについてはここの親衛隊作戦本部で事務ができるよう僕から言っておくよ。一室で悪いけど、ここに君たち姉弟の部屋も用意しよう。この戦争が終わったら、またベルリンで家族全員で暮らせるようになるさ」


「ご配慮いただき、ありがとうございます!姉も総統のお近くで働けて大喜びすると思います!」

       

ヘルムートはまだ幼さの残る歳相応の笑顔で、素直に感謝の気持ちを伝えた。アイザックは本来は家族全員一緒にベルリンで暮らして、学校に通っている時期だというのに自分たちが招いた戦争の結果家族がバラバラになり、学校の制服ではなく武装SSの制服を着て無邪気に笑っている目の前のヘルムートを見て、胸から込み上げる感情を抑えることができずに、涙を流してしまった。


「総統、泣かないでください。どうしたのですか?」


ヘルムートは慌ててアイザックの傍に近寄り、跪いて椅子に座るアイザックの手を自分の両手で包み込んだ。


「ありがとう。大丈夫だよ。僕たち政治家が不甲斐ないせいで、君たちには本当に辛い思いをさせているね」


「総統、僕たちのために悲しまないでください!家族は一緒にいられませんが、祖国のために総統にお仕えすることができて僕は幸せです。姉も両親も同じ気持ちだと思います。弟達ももう少し大きくなれば、きっと軍に入隊して僕と一緒に戦います!それにまだ陸軍や空軍だって戦えますし、SSだってまだ大勢残ってます!みんな士気は高く、連合軍が来ても必ず追い返せますよ!そして、総統は必ず僕がお守りします!」


「そうだったね・・・。僕たちはまだ戦えるね。君みたいな若者がドイツにいて僕は心強いよ。君が来てくれて10個師団の精鋭が援軍に来た気持ちになったよ」


「はい!光栄です!僕はこの命に変えても総統をお守りすると誓います!」


「僕も、君達のために最後まで諦めないと誓うよ」


アイザックとヘルムートはお互いの手を固く握りながら誓い合った。


この日からアイザックは今まで防衛に特化していた戦略を方向転換し、西側連合軍とソ連軍に対して攻勢を仕掛けるようになった。これまでのドイツの戦闘では自軍の損耗を可能な限り抑えて、敵の数を減らしながら後退していたが、最後の抵抗とばかりに全軍で西側連合軍とソ連軍に総攻撃を仕掛け、補充兵の割合が半数以上の西側連合軍やソ連軍はドイツ軍の猛攻に対して懸命に抵抗するも、連合軍はフランス国境、ソ連軍はポーランドの国境まで押し戻された。

国土を回復したアイザックは現在も占領を続けているパリから撤退をする代わりに講和を連合国と三か国同盟に打診した。 

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