54.建国の父との交渉
1943年3月28日 ポーランド王国 ワルシャワ市 日中ソ連合軍司令部
ポーランド王国が独立したため、今は毛沢東がワルシャワに表敬訪問をしに来ている。ポーランド王やポーランド政府の新首相等と会談後にワルシャワ市内を案内し、現在は司令部の総司令官執務室で二人で一息ついていた。
「#大哥__アニキ__#、これは弟としての提案なのですが、怒らないで聞いてもらえますか?」
「もちろんだ。なんでも言ってくれよ」
「中国の今の政治システム自体は変える必要がないんですが、矛盾しているのは承知のうえで共産主義的立憲君主制に移行してもらえないですかね?」
「あぁ、なるほどな。誠司の言いたいことは分かった。#溥儀__ふぎ__#を皇帝に戻したいんだろ?」
「えぇ、やはり国家を纏めるには王がいた方が良いですし、政治とは切り離して伝統や文化を守る存在として王がいると、国家としての格が上がると思いませんか?」
「いくら誠司の頼みでもさすがにそれは無茶だろ。俺が承認しても党の幹部が許さない。こんなこと俺が言い出したら国家主席から失脚するだろうな」
毛沢東の言っていることは最もだと思うが、俺は予め用意していたアタッシュケースをテーブルの上に出して中身を見せた。
「これは?」
「ドイツ軍の司令官が隠していた金塊です。占領地で略奪したものだと思いますが、どこから略奪したのかも分からないので、誰に返せば良いか分からない宙に浮いた金です。これで党幹部を買収してください」
「いやいや、これだけあれば買収できる奴もいるだろうが、金じゃ動かない奴もいるからな」
「買収できなかった方は言ってもらえればこちらで処理しますよ」
「一国の首相経験者が、まるでマフィアみたいだな。まぁ、処理部隊ならこちらにもいるから、それには及ばない。で、なんでそこまで立憲君主制に拘る?」
「中国は秦の始皇帝から始まり、4000年以上も皇帝が君臨しておりました。それをここ数十年で出てきた、ポッと出のマルクスやレーニンの思想で覆されるほど4000年という歴史は軽いものなんですかね?人類にとって中国の皇帝という存在を失うのはあまりにも惜しい」
「なるほど。で、真意は?」
「いやいや、今回は本当にそれだけなんですよ。俺は個人的に中国という国が大好きなんです」
「まぁ、そういうことにしといてやろう。この件は即答できないから、国に戻ってから考えさせてくれ」
「よろしくお願いします。あぁ、その金塊はそのまま#大哥__アニキ__#がお持ちください。結果がどちらにしても返還は不要です。政治には金がかかる。金はいくらあっても十分ということはないですから」
「俺は良い弟を持ったな。じゃあ、遠慮なく受け取っておくよ」
「そうだ、もう一つお願いがあったんですけど、聞いてもらえますか?」
「まぁ、聞くだけ聞かせてもらうよ」
「今度のは大したことないお願いなんで、安心してくださいよ。うちにゲーリングというドイツから亡命してきた男がいるんですがね、使える男なので中国に帰化させて#大哥__アニキ__#の傍で使ってもらえませんか?」
「ゲーリングって、ドイツの元空軍大臣じゃないか…。ん~、まぁ、それならなんとかなるか…」
毛沢東は目を閉じて腕を組みながら唸っていたが、目を開けた瞬間に金塊が視界に入り、決断してくれた。
「ありがとうございます。では、#大哥__アニキ__#が帰国したタイミングで外務省経由で正式に申し入れますので、いつもどおり承認だけお願いしますね」
「あぁ、わかった。#溥儀__ふぎ__#の件は検討はするが、あまり期待はしないでくれよ」
「えぇ、僕の個人的な理想の話なので、検討の結果がどちらでも我々の関係は変わりませんよ」
「おまえは最高の弟だよ」
毛沢東はこのあとまだポーランド国内の人民解放軍の駐屯地に視察等のスケジュールが残っていたので、渡したアタッシュケースをしっかり持って司令部を後にした。
いくら俺でも中国が立憲君主制なんて受け入れられないことは分かりきっている。なので、あえて金塊を渡してまで真剣にお願いしているように見せて、心理学の#返報性__へんぽうせい__#の原理を利用して断りにくい状況にしてから、藤井先輩の受け入れをお願いするという流れを作った。そして、高い要求の後に低い要求をして受け入れやすくさせる、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックという大学の心理学の授業の内容を思い出して実践してみたが、これが見事に#嵌__はま__#った。
これで藤井先輩が中国籍になれば、中国はある程度こちらの思いどおりに動くことになるだろう。藤井先輩は日本に亡命してから、今までのことを俺と悠斗と翔に謝罪し、これからは日本のために働くと約束してくれたので、大いに日本のために役立ってもらおうと思っている。ただ、毛沢東に関してはこれからも建国の父として働いてもらう。日本の不利益にならないアドバイスを受け入れてもらって、5億人の人民のために善政をしてもらおう。
ポーランドに滞在している間に軍を動かしてやりたいことをいくつか思いついた。しかし、日本軍は規模が小さいので派手に軍を動かすことができず、できないことがたくさんあった。でも、藤井先輩が中国に行ってからは人民解放軍を使って色々できるようになる。
あとは戦後の東西の勢力争いに備えて、ドイツが落ちる前にどれだけ準備できるか時間との勝負になってきたな。




