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52.ソ連軍の実力

1942年12月8日 ポーランド ワルシャワ 日中ソ連合司令部


遥に呼ばれて椿と二人で遥の私室を訪れていた。遥の私室には4人掛けの小さなテーブルセットがあったので、そこに椿と並んで座ると、遥がコーヒーを淹れて出してくれた。

遥も自分の分のコーヒーを持って俺たちの対面のイスに座り、遥が話はじめた。


「誠司さん、忙しいのに呼び出してしまってごめんなさい」


「前置きは不要なので用件をお願いします。それと、園田閣下を名前で呼ぶのは止めなさい」


「えーっ、楓ちゃんがいないから問題ないよね?」


「黙りなさいメス豚。日本に帰りたいならすぐ止めなさい」


「はいはい、楓ちゃんのワンコは怖いねぇ」


椿は誰に対してもこのような態度ではあるのだが、遥には特に厳しい気がする。遥も一瞬椿を睨みつけたが、特に椿に抗議することなく話し始めた。


「じゃあ、単刀直入に言いますけどぉ、これ以上待てないのでぇ、すぐドイツに進軍したいですぅ」


「それはアメリカがベルリンに入った後という話になっているはずです。会議でも何度も話し合った結果の決定事項です。用件がそれだけなら失礼します」


椿が即答すると、遥は椿を睨みなが話を続けた。


「椿ちゃんに話してないんですけどぉ?」


「閣下も同じ意見です。では、閣下次の会議がありますので行きましょう」


椿は俺の腕を掴んで、一緒に椅子を立ち上がろうとした。


「待って」


遥の静止を無視し、椿がそのまま椅子から立ち上がろうとしたところで、遥が声を張り上げた。

   

「待ってって言ってるの!!」


椿がため息を吐いて、心底面倒そう表情をしながらイスに座り直した。


「園田さん、大きな声を出してぇ、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だよ。とりあえず二人共落ち着いて話をしようよ。じゃあ、遥さん話の続きをお願い」


「ありがとうございますぅ。元々ソ連の目的はドイツへの報復なのでぇ、進軍せずに何ヶ月もポーランドで足止めされて将兵達の不満が高まってるんですぅ。そろそろ抑えるのが限界でぇ、私も彼らと同じなんですけどぉ、一刻も早くぅ、優香ちゃんを殺したいんですぅ」


「なるほど、あの力を使っても、もう抑えられないの?」


「既に使っていますぅ。でもぉ、200万人の兵士に使用するのは現実的ではないんですぅ。もし、承諾していただけないようでしたらぁ、ソ連軍は単独で進軍を再開しますねぇ」


遥はこれまでにないど真剣な目で俺の目をじっと見つめてきた。あまりに真剣なまなざしに耐えられなくなり、椿に話を振ってしまった。


「椿はどう思う?」


「我々日本軍と人民解放軍は報復ではなく最小限の被害で勝つことが最優先ですから、やはり犠牲を無視してでもナチスに報復したいだけのソ連軍に付き合うのはお勧めしません」


遥は露骨に椿を睨みつけていたが、椿は全く気にした様子はなかった。


「確かに。ありがとう椿。遥さん、せめて連合軍がベルリン攻略を始めるまで待てないかな?」


「そう言ってぇ、もう何ヶ月もここにいるじゃないですかぁ。これ以上は待てません…」


「ん~。わかった。じゃあ、申し訳ないけど、日本と中国はこのままポーランドに残らせてもらうよ。進行ルートについては全部任せるけど、ひとつ条件がある。ドイツ軍がポーランドから完全撤退したら、日中ソ連合ではポーランドを占領しないで、すぐに東京に避難しているポーランド亡命政府にポーランド王国を建国させる。ポーランド王国の建国に関してはすべて俺に一任してもらう。それで良い?」


「十分ですぅ。ポーランドをソビエト連邦に組み込む気はありませんからぁ。そもそもぉ、この戦いのあとは日本に帰るのでぇ、ソ連の国土拡張には全く興味ないんですよねぇ。じゃあ、早速皆にも報告させていただきますねぇ」


「うん、中国側には俺から言っておくよ」


ソ連軍は翌日には本隊を監視していたSS大隊を包囲し、僅か数時間で文字通り殲滅した。SS隊員達は約10倍のソ連軍に対してとても勇敢に戦い、一人も投降することなく最後の一人になるまで戦い続けた。SS大隊を殲滅後は予定通りポーランド人中心の本隊に対して、ソ連軍が降伏勧告をしたところ、ポーランド人の兵士が白旗を上げながらブッフホルツ中将の死体をソ連軍に引き渡した。約8万人のポーランド人の捕虜が出たが、ソ連軍はドイツへの進軍を続けるため、日本軍と人民解放軍で捕虜を引き受け、ウクライナのコーベリに予め用意しておいた大規模な捕虜収容所に護送をした。ポーランドに駐留していたソ連軍約200万人はいなくなったが、日本軍と人民解放軍だけでも約150万人の兵士がまだポーランド内におり、当然相応の輸送力を持っていたため、1週間で捕虜全員の護送が完了した。

ソ連軍は50万人ずつの4つに分けて、ドイツ軍勢力圏にあったポーランドの主要防衛拠点を次々と攻略していくので、後方支援に徹していた日本軍と人民解放軍は捕虜の護送と、用意していた収容所の収容人数を上回る捕虜が次々と送られてくるため、新たな捕虜収容所の建設に追われることになった。

急激に増えた捕虜のため、ポーランド内で食料や生活用品を揃えるのに苦労したが、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国から調達し、なんとか必要量を揃えることができた。

     

ソ連軍が進軍開始から僅か数週間でドイツ国境に迫り、ポーランド全土からドイツ軍が撤退した。そのタイミングで、遥との約束どおり日本に避難していたポーランド亡命政府をワルシャワに呼び寄せ、日本、中国、ソ連の三か国とポーランド亡命政府でワルシャワ協定を締結し、1943年1月1日、ポーランドは三か国連合の力を借りて、ポーランド王国を樹立させた。史実ではポーランドは1945年に新ソ政権のポーランド人民共和国を建国し、1989年に非共産主義政権であるポーランド共和国となったが、今回建国したのは共産主義でも共和主義でもなく王政だ。18世紀に消滅したポーランド王国の王家の血を受け継ぐ、ポニャトフスキ家の当主を国王に据え、大日本帝国憲法をほとんどそのまま移植したポーランド王国憲法を制定した。国王の戴冠式には日本から皇族も参加し、王室同士の交流も開始された。ポーランド王国建国と同時に日本、中国、ソ連との安全保障条約を締結し、三か国のポーランド王国内の駐留が正式に承認された。

フランス側から侵攻している西側連合軍と同様に、ソ連軍がドイツ国境を越えたことで、ドイツ軍の抵抗が急に激しくなった。ソ連軍もかなり苦戦することになったが、ソ連軍はT-44戦車を大量投入し、進軍は止まることはなかった。ソ連はドイツ軍よりも自軍に多くの犠牲を出しながら、物量でドイツの防衛ラインを突破し続けた。

遥は椿の意見を鵜呑みにするのは嫌だったが、原子爆弾が設置されている可能性が高いベルリンを目指すのは見送ることにした。

ソ連軍は1943年2月下旬にはハンブルク、ハノーファー、ブレーメンなどの主要都市を次々に占領し、シベリア方面から次々と補充される新兵投入し、延べ400万人のソ連兵がドイツ国内への侵攻作戦に参加していた。


東部方面軍の拠点があるフランクフルトを突破され、ソ連軍にドイツ本国の深くまで侵入されたドイツ軍は、戦略を大幅に見直さなければいけなくなり、西部方面軍と東部方面軍を合流させ、要塞化されたミュンヘン、シュトゥットガルト、ニュンベルクの三地点を結ぶ三角形のラインを最終防衛ラインとし、連合軍とソ連軍を迎え撃つことになった。

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