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50.日中ソ三国連合戦略会議

3分後、人民解放軍の憲兵隊が司令部に入ってきて俺が指示した二人を逮捕した。二人は別々に近くの憲兵隊が使用している警察署の監房に監禁されている。拷問しても恐らく本当のことは言わないので、ドイツ国籍のままの椿に情報を聞き出すようお願いすることにした。


「椿、こいつらの所属と氏名、階級、目的、既に敵に報告した情報を聞き出してくれ」


椿が拘束されている女性の手を触れて質問をすると女性は話し始めた。


「私は#SD__親衛隊情報部__#所属のハンナ・リーフェンシュタール准尉、日ソ中連合軍の位置を本国に送るため。司令部にソ連の書記長がいることを報告した」


なるほど、SDの将校か。きっともう一人の男はこいつの部下だな。


「椿さん、ありがとう。もう一人の男の方に行きましょう」


俺と椿は男性用の監房に移動した。


「じゃあ、同じ質問を頼む。それと、憲兵から聞かれたことは全て正直に答えるよう指示を出してくれ」


「承知しました」


椿が男の手に触れると男は話し始めたが、やはりもう一人の女の部下だった。

俺は憲兵隊に彼らから聞き出した情報を伝え、拷問はせずに捕虜として扱うよう指示をして司令部に戻った。

椿が来て正直なところ少し面倒だと思ったが、今回の一件でかなり役に立つことが分かった。俺は完全に椿の能力のことを忘れていたが、楓はそれも見越してこちらに椿を派遣してくれたのだろう。あとで楓にお礼を言わなきゃいけないかな。


翌日、司令部での会議にも椿を同席させたところ、ナチスのスパイではないかとソ連と人民解放軍の将軍から声が上がったが、前日のスパイ逮捕の一件と、椿が行うことの責任はすべて俺が取ることを説明して納得してもらった。

日本側からは特に反対意見が出なかったのは、大日本帝国陸軍の兵士の中にも日本に帰化した元ドイツ国籍のユダヤ人も沢山いるので、今更日本軍の中には元ドイツ軍の軍人がいても疑問の声を上げるものは一人もいなかった。


「木村元帥、現在の前線の状況を椿にも説明してくれ」


木村陸将は今回の派遣軍の日本軍の司令官に就任する際に、元帥に昇格していた。スイートルームのダイニングテーブルに広げられた地図を指しながら、木村元帥が椿に現在の戦況を説明する。


「現在の司令部の位置がここワルシャワで、ワルシャワより東に20km進んだこの森の中にドイツが塹壕陣地を構築している。敵の配置は森の中にドイツ陸軍第三軍の4個師団と、後方のこの位置に1個戦車大隊、塹壕から南西の5kmの位置にSS大隊を確認している」


椿は木村元帥の説明を聞きながら顎に手を当てて頷いている。

    

「我が軍は人民解放軍5個師団とソ連軍2個師団、大日本帝国陸軍2個師団でこの森を包囲しているが、迂闊に近づくとフランスで戦闘中の連合軍の二の前になるため、昼夜を問わず迫撃砲による砲撃と、航空機による爆撃を続けているが、あまり成果は上がっていない」


「なるほど、ドイツ側の司令官は誰か分かりますか?あと、ポーランドに入ってからドイツ側が防衛拠点から出て、こちらに攻撃を仕掛けて来たことはありましたか?」


「ドイツの指揮官は陸軍のブッフホルツ中将だ。ドイツ軍からこちらに攻撃を仕掛けて来たことは一度もないな」


「なるほど。では、この森の中の4個師団はほとんどポーランド人や外国人で構成されている可能性が高いですね。ここにSS大隊がいるということは、ポーランド人が我々に投降しないように監視していると思われます。なので、このSS大隊を無力化すれば主力部隊は投降する可能性が高いです。このブッフホルツ中将はドイツ陸軍の中でも特にナチスを崇拝している、狂信者のような男ですが、指揮官としては並以下で、部下からもかなり嫌われているので、SS大隊が無力化されればポーランド人が彼を殺す可能性さえありますね」


木村元帥は椿の話に大きく頷いてから言った。


「なるほど、それが本当ならこちらの被害を最小限に先に進めるな。裏付けを取るために敵陣地から数名拉致して来よう」

    

作戦会議はいったんここで終了となった。木村元帥は早速、陸軍の特殊部隊に今日の深夜に敵の塹壕に潜入して、捕虜を2名連れてくるよう指示を出した。


総司令官専用の執務室に戻り、椿が二人になったタイミングを見計らって話しかけてきた。


「園田閣下、私の推論を述べてもよろしいでしょうか」


「もちろん。どうぞ」


「ドイツ軍のドイツ人が中心の主力部隊がポーランド防衛に出てきてないということは、ドイツはベトナム戦争での北ベトナムのように本国での長期間のゲリラ戦を展開すると思われます。そして、私が自宅に軟禁されているときに窓から通りを眺めていたのですが、市民がベルリンから慌ただしく避難している姿が見られました。しばらくすると通りには民間人の姿が見られなくなり、陸軍ではなく親衛隊の姿が目立つようになったことから、私の推測では親衛隊によってベルリンにレッシェンが設置されたと推測します。また、ドイツ軍のここまでの損害は10%未満しか出ていないと思われます。このままドイツ領土に侵攻すれば、兵力を温存したドイツ軍とまともに戦うことになり、こちらにもかなりの損害が出ると思われます。連合軍より先にベルリン占領とお考えかと思いますが、ここは敢えてポーランドで時間を稼いで、連合軍とドイツ軍が潰し合うのを待つことを具申させていただきます」


「なるほどね。確かに椿さんの推測通りなら、このままベルリンを占領すると危険だね。よし、明日皆を集めてこの話をしてみよう」


その日の深夜、日本陸軍の特殊部隊がドイツの塹壕に侵入し、就寝中の兵士を二人拉致してきた。拉致した兵士二人から話を聞くと二人はポーランド人だった。ナチスに強制的に徴兵されて、自分たちはドイツ人ではなくポーランド人だと主張している。彼らが知る限りでは、ここにいる兵士は八割がポーランド人で、皆SSが怖いので従っているということだった。無理矢理連れてこられて可哀想ではあるが、ドイツ陸軍の軍籍であることには変わらないのでソ連軍が管理する捕虜収容所に送られることになった。

この作戦で椿の推測の信憑性が高まったので、今後の方針転換をため三か国連合の幹部が集まっての作戦会議が始まった。

 

「椿、さっきの話を皆にもしてくれ」


「承知しました」


椿が先ほど二人のときに話してくれた推測を皆の前で話すと、頷いて納得している様子のものと、懐疑的な反応をしているものは概ね半々であった。みなが周りの様子を伺っているなか、最初に遥が口を開いた。

    

「確かに椿ちゃんの推測が正しい可能性もありますけどぉ、やっぱり推測の域は脱しませんねぇ。不確かな情報で進軍を敢えて遅らせてぇ、連合軍に先にベルリンを抑えられて、結果的に原子爆弾が設置されていなかったらぁ、私達の三か国連合がぁ、連合国側に戦後のヨーロッパの主導権を取られちゃいますねぇ。すぐに方針変更をするのは時期尚早ではないですかぁ?まずはこのまま進軍を続けてぇ、ベルリンに近づいてから偵察部隊をベルリンに出して確かめるということで良いと思いますぅ。そしてぇ、ベルリンの様子がおかしければ、ベルリンを迂回するなり考えれば良いいんじゃんしですかぁ?」


椿が遥の意見に対して即座に反論をする。


「確かに遥さんの言うとおり、私の推測はあくまで推測であって、確定的な裏付けはありません。しかし、連合軍がベルリンを占領した際に原子爆弾を起爆したとすれば、主力を欠いた連合軍は戦後にヨーロッパの主導権を失い、我々三か国連合が主導権を握ることになるでしょう。そして、私の案が間違っていたとしても、人的、物的被害は限定的であることに対し、遥さんの案は間違っていたときの被害が甚大なものとなることは明らかです。また、ベルリンに原子爆弾が設置されていない可能性についても、推論の域を脱していないのは同じことであり、総合的に考えて私の案の方がリスクが少ないものと考えます」


なるほど、二人の話を聞くと椿の案の方がデメリットが少ないのは明白だな。それに誰だって原子爆弾があるかもしれないベルリンに入るのは嫌だろう。何も知らずにベルリンを占領していれば、俺も爆発に巻き込まれていたかもしれないのだ。


「他に意見があるものは?」


人民解放軍の劉大将が手を挙げた。


「我々はナチスの侵略戦争を止めにきたのであって、ドイツを侵略しにきたのではない。ヨーロッパに対する影響力が欲しいのはソ連だけではないのか?我が国の盟友である大日本帝国についても、ソ連との条約に基づいてナチスとの開戦に至っており、ヨーロッパに対する影響力を得るためにリスクを負う立場にはないと思われる。連合軍がベルリンを占領するにしろ、我々三か国連合が占領するにしろ、ナチスを止められるのであれば、我々の目的は果たされる。であれば、必然的に我々にとってリスクが少ない選択をするのは至極当然のことであり、中国は橘女氏の案を支持する」


たしかに劉大将の意見は正しい。俺はせっかくヨーロッパまで軍を動かしたのだから、少しでも赤字を埋めるために、ベルリンを占領して、ドイツの最先端科学技術の情報や戦後のヨーロッパ復興特需の主導権を握ることを考えていたが、ここで赤字になったところで、数年で取り戻せるのだし少しでも人的被害を抑えるべきだと考えを改めた。


「他には?」


会議に参加している一同を見渡してみるが、他に手を挙げるものはいないようだ。


「では?意見も出尽くしたところで俺から結論を出そうと思う。結論から言うと今回は椿さんの案を採用する。理由は劉大将の意見と全く同じなので省略させてもらう」


中国と日本の幹部達から拍手が上がったが、ソ連軍の方は不満があるようだった。ソ連はモスクワを失っているから心情的にもここでのんびりするのは嫌なのだろうが、ここは従ってもらうしかない。


「それでは大枠の方針は決まったから、李参謀長、詳細な作戦計画の立案を頼む」


「承知しました」


俺は人民解放軍の孔明と呼ばれる李参謀長に、作戦計画の立案を任せて今回の会議を終了した。

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