45.ロンドンが消える日
1942年7月15日 ケルト海洋上 大日本帝国海軍 旗艦 指揮揚陸艦 大和
大日本帝国海軍連合艦隊は、先月の日中安全保障条約の調印式の翌日に、沖縄から出港し 、南アフリカを経由して補給を受けながらケルト海に到着した。
連合艦隊の任務はイギリス海峡のUボートの駆逐、制海権の確保である。ケルト海に到着するまでに既にUボートを10隻沈め、連合艦隊の対潜能力の高さをドイツ海軍に知らしめた。
連合艦隊司令長官の八雲元帥は旗艦である指揮揚陸艦大和の艦橋から、哨戒任務のために空母から発艦する艦上戦闘機を眺めていた。大和や他の重巡洋艦にもレーダーやソナーは標準装備されているが、ドイツ空軍はステルス爆撃機を運用しているため、戦闘機による哨戒任務も怠ることができないのだ。
「つまらん。やはりドイツ海軍の艦艇はUボート以外一隻も見つけられないな」
八雲海軍元帥が須藤参謀総長に残念そうに話しかける。
「我々の任務の八割はUボート狩りですから仕方ないです。イギリス海峡に入るまでに戦艦の一隻でも見つけられたらラッキーですよ」
「折角、空母を6隻も持ってきたのに任務は機雷の除去とUボート狩りだけとは、贅沢な運用だな」
「いえ、ドイツ海軍だけじゃなく、ドイツ空軍も相手ですからね。実際にドイツ空軍が単独でイギリス海軍をほぼ壊滅させたので、空母6隻でも安心はできませんよ」
「それもそうか。対空、対潜哨戒を24時間怠らないよう。各員に改めて徹底させてくれ」
「了解」
1942年7月16日 大英帝国 ロンドン 大英図書館
ドイツ軍陸軍は原子爆弾を起爆するための特務中隊をロンドンに残して、全軍がグレートブリテン島から撤退した。日本海軍のイギリス海峡の到着前になんとか全軍が本国に帰還できたのは、ドイツ陸軍にとっては僥倖だった。
ロンドン市内に掲げられていたハーケンクロイツ旗は全て撤去されて、代わりに通り沿いの建物にはイギリス国旗が掲げられ、ロンドン市民は沿道に出て、フェスティバルのパレードの様に、ロンドン入りする米英連合軍を歓迎している。
中には占領していたドイツ兵と交際していたイギリス人女性に売女等と罵りながら石を投げつけたり無理矢理髪をハサミで切られたりする光景も見られるが、多くの市民は占領から開放された喜びに浸っていた。
「おい!こっちにドイツ兵が残ってるぞ!」
大英図書館の職員が図書館に潜んでいた特務中隊を見つけた。館長がイギリス兵に通報すると、イギリス軍は市民を大英図書館の周りから退避させて、大英図書館を包囲した。歴史ある大英図書館を少しも破壊するなと議員から命令があったため、戦車や迫撃砲等の使用を禁止され、歩兵のみで図書館に突入してドイツ兵を排除する作戦となった。
「クルーゲ元帥、図書館が敵に囲まれたようです」
クルーゲは図書館に置いてあったゲーテの小説、ファウストを読んでいたが、付箋をせずに本を閉じてテーブルに置き、椅子から立ち上がった。
「イギリスの無能共もやっと気が付いたか。ゲーテ全集を読み切ってしまうところだったぞ」
図書館入り口のドア前のバリケードが破壊され、イギリス兵が図書館内に侵入してきた。
入り口の内側には特務中隊の兵士が待機していたため、エントランスホールでイギリス兵との銃撃戦が始まった。多勢に無勢で、特務中隊の兵士が次々と銃弾に倒れていく。
最後の防衛戦が突破されて原爆が置いてある部屋の前までイギリス兵が到達した。クルーゲ元帥は室内に残っている付き合いの長い部下たちに語りかける。
「諸君!イギリス野郎が騒がしくて聞きにくいかもしれんが、持ち場についたまま聞いてくれ!俺は諸君を誇りに思う!最後に一緒に戦った仲間が、長い付き合いの諸君であったことを心から神に感謝している。そして、最期まで俺に付いてきてくれて本当にありがとう。向こうでも会えたビールでも奢らせてくれ!」
「白ソーセージも付けてくださいよ!」
部下の一人がそう言うと、室内は笑いに包まれた。部屋の外のイギリス兵は室内から笑い声が聞こえてきたので、ナチ野郎気でも狂ったのか等とドア越しに挑発してくるがクルーゲ元帥は気にせずに話し続ける。
「ははっ、ザワークラウトも付けてやるよ。じゃあ、外も騒がしくなってきたから、そろそろ皆のところに行こうか。あまりあいつらを待たせると置いていかれそうだからな。では、ドイツ第三帝国に栄光あれ!ハイルヒトラー!」
「「ハイルヒトラー!!」」
クルーゲが起爆スイッチを押した瞬間レッシェンが起爆。大英図書館から半径2kmのすべての建物が全壊・半壊し、ロンドン市民とロンドンを開放した米英連合軍約200万人の命が一瞬で失われた。最終的な被爆者は約400万人に達し、ロンドンは死の街と化した。




