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44.ハイル・マイン・フューラー

1942年6月20日 ドイツ第三帝国 ベルヒテスガーデン ケールシュタインハウス


クラーラの思惑が外れて、アメリカはドイツとイタリアに対して徹底抗戦を宣言し、ソ連もナチスに対して殲滅戦を宣言した。

ソ連に関しては当初の情報部からの報告では、小川と遥は作戦当日は二人ともモスクワにいる予定のはずだった。しかし、遥の予定が急遽変更になり、遥だけが生き残ってた。その後、小川に代わって書記長に就任し、ドイツへの殲滅戦を宣言した。

クラーラの予定では、モスクワの壊滅と小川を始めとする軍や共産党の幹部がいなくなって混乱した隙に、電撃作戦でウラル山脈の西側まで短期間で占領する計画だった。

アメリカもソ連も思惑とは真逆の結果となり、クラーラはこの戦争での勝ち目がなくなったことを確信した。

クラーラは元の世界の歴史で、広島と長崎に原爆を落とされてからすぐに日本が無条件降伏をしたように、アメリカとソ連も原子爆弾の威力を目の当たりにすれば、ドイツからの降伏勧告に応じると考えていたのだ。

この戦争で負ければ必ずクラーラとアイザックは二人とも戦犯とされて処刑される。いくら核兵器があっても被害を恐れずに殲滅戦を挑んでくる敵にはほとんど意味を為さないのだ。


アイザックとクラーラは1週間前からケールシュタインハウスで二人きりで引きこもっていた。

これまでは戦争や政治の話ばっかりだったクラーラが、一切戦争の話をしなくなり、元の世界の学校の友達の話、家族の話、どこのお店のスイーツが美味しくて、どこのブランドの服が好みだったか、そんな話ばかりするよになった。アイザックは誠司達に連絡をして、この状況から助けて欲しいと思っていたが、モスクワへの原子爆弾の投下を最終的に指示したのは自分であり、小川を殺した自分を誠司達が助けてくれるはずがないと思い、誠司達に助けを求めるのは諦めた。


「ねぇ、アイザック。ちゃんと私の話を聞いてるの?」


「うん、ちゃんと聞いてるよ。あのさ、クラーラ、もう1週間も二人でここにいるけど、軍の人達もみんな困ってるんじゃないかな?そろそろベルリンに戻ろう?」


「嫌よ。それに私はクラーラじゃなく、優香よ。もうクラーラって呼ばないで。アイザックだってずっと二人きりでいたいって言ってたじゃない」


「そうだけど、今凄く大変はことになってるよ。みんな困ってるってハイドリヒが優香を訪ねて来てたし、ボルマンなんかケールシュタインハウスの前に机と電話を置いて仕事してるしさ」


優香はアイザックが仕事の話をすると、手で耳を塞いで聞こえないというポーズをする。


「優香!聞いて!」


アイザックは優香の手を掴んで耳から手を離させる。そのまま優香を抱きしめ、耳元で話始める。


「優香、このまま黙って僕の話を聞いて。優香がもう辞めたいってい言うなら、辞めてもいいから。でもね、このまま何もしなきゃ二人とも殺されちゃうんだよ。僕は優香に生きて欲しいんだ。こうなったのは、今まで何でも優香に任せっきりだった僕が悪いんだ。だから、優香は何も悪くないよ。これからは僕が優香を守る。世界を敵に回してもって、よくテレビで聞くセリフだけどさ、今の世界でそれを実現できるのは僕だけだね。だって、僕はヒトラーだもん。だから、優香を守るために僕は世界と戦うよ。今日から優香は副総統でもSSでもない、僕の恋人で普通の女の子の優香」


優香は力いっぱいアイザックを抱き締めて、声を上げて泣き始めた。


「ごめんね。ごめんねアイザック。ごめんね」


アイザックは優香の髪を撫でながら、優香が落ち着くのを待った。


「優香、僕はベルリンに戻るから、安全になるまで優香はここで待っていてくれる?」


「嫌よ!アイザックと離れるなんて無理!ベルクホーフでも指示は出せるでしょ?」


「ごめん。僕も優香とずっと一緒にいたいけど、優香が一緒にいると優香の安全を一番に考えちゃって、思い通りに戦えないと思うんだ。だから、優香は今一番安全なこの家で待っていて欲しいんだ。それに、ボイスチャットでいつだって話すことができるから寂しくないよ」


優香はしばらく黙っていたが、ゆっくりと頷いた。


「分かったわ。でも、落ち着いたら必ず戻ってくるのよ?いい?約束よ?」


アイザックは満面の笑みで優香の顔の前に右手の小指を出した。


「うん。約束するよ。指切りしよ」


アイザックは優香と指切りをして、優しくキスをしてから立ち上がった。


「じゃあ、良い子で待っててね。行ってきます」


そう言ってアイザックは約1週間振りにケールシュタインハウスの外に出た。入口の前で仕事をしていたマルティン・ルートヴィヒ・ボルマンに声をかけた。


「ボルマン、待たせたね。クラーラは副総裁を解任して、ただの僕の恋人になったから、今日からボルマンが副総裁ね。あと、ここの警備人数は今の3倍にして、対空陣地も今の3倍の規模にして」


「はい!ありがとうございます総統!」


「それと、今からベルリンに戻るから、前線にいる将軍以外の幹部は全員大至急ベルリンに集合させて」


「はい!」


 アイザックはそのまま空軍の輸送機でベルリンの総統官邸に戻り、すぐに閣僚と陸海空軍、親衛隊の将軍達を集めて戦略会議を始めた。


「みんな、1週間も不在にしてごめん。クラーラをすべての役職から解任して、今日からはボルマンが副総統、ラインハルト・ハイドリヒが親衛隊全国指導者に昇格。それと、今から今後のことを指示するから。カイテル元帥、ヨードル本部長は前線の将軍たちにも伝えてあげて。」


「「はい!」」


「まず、スペインとポルトガル、北アフリカ、東ヨーロッパから全軍引き揚げ、防衛ラインを西はフランス、スペイン国境、東はポーランド、チェコ、オーストリアの東側国境まで下げる。北はノルウェー、スウェーデンを放棄してデンマークまで下げて。それと、引き揚げの際は米軍の移動速度を落とすために、典型的な焦土作戦をする。港湾、空港、線路、橋はできるだけ破壊して。それと、食料は可能な限り接収して、民家を燃やして、畑は焼き払い、家畜は殺すように。その際は民間人はなるべく殺さないようにね。米軍は上陸後に餓えた住民に足止めされ、進軍速度が遅くなるはずだから」


「「はい!」」


「それから、イギリスについては現在の防衛ラインを維持したままで、後方部隊を本国に撤退させて、後方部隊の撤退が完了してから防衛ラインをロンドンまで前線を下げて、米英連合軍から包囲されないように、ロンドンになるべく多くの連合軍を引き付けつつ前線部隊もロンドンから撤退。海軍にはUボートで少しでも日本海軍を足止めしてもらう。日本海軍がイギリス海峡まで到達したら、制海権は完全に失うものと考えて、イギリスからの撤退は1か月以内に終わらせる。そして…、今すぐにロンドンにレッシェンを一基運んで、手動で起爆できるように大英図書館に設置。米英連合軍がロンドンを占領したところで、レッシェンを起爆する。レッシェン起爆には最後に1中隊のみを残して、起爆が完了するまでレッシェンを守らせて欲しい。この任務を担当する中隊は志願兵のみとし、配偶者がいる場合には配偶者が亡くなるまで陸軍中尉の給与と同額の年金を支給、子供がいる場合は子供が成人するまで政府が学費や生活費など一切の面倒を見る。独身の場合は両親に一時金で陸軍中尉の給与の10年分を支給。あとは、出身小学校か中学校のどちらかの校名を志願者の名前に変えて、ドイツ第三帝国が続く限り英雄としてその名を後世に伝えよう。そんなことで、残された家族が納得しないことは分かっているけど、ドイツ人8000万人を救うために犠牲になってもらう。もちろん、卑怯な作戦だということはもちろん理解している。だけど、プライドだけじゃ祖国は救えない。責任はすべて僕が取るから、皆はただ僕だけを信じて付いてきてほしい」


集まった幹部達は全員起立し会議室は大きな拍手で包まれた。ナチ党結成からの幹部には「総統がお戻りになられた!」と泣き出すものまでいた。


「みんな、ありがとう。この作戦が成功すれば、イギリスにいる米英軍の主力はほぼ壊滅、以降は同様の作戦をドイツが使うと思って、気軽に進軍できなくなるだろう。そこで、稼いだ時間を無駄にせずに、国境の防衛線の強化、レッシェンとHo233X、迎撃戦闘機をできる限り量産、アメリカとソ連が二度とドイツに歯向かえないように、奴らの文明を消すつもりでいく。ここが僕たちドイツ第三帝国の正念場だよ!ここにいるみんなは、世界からドイツを守るために死ぬつもりで戦ってほしい!」


会議場は興奮に包まれて、全員が頬を日照らせて「ハイル・マイン・フューラー!」と繰り返し叫ぶのだった。

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