04.陸軍省
陸軍省の庁舎に入ってからはすれ違う軍人全員が足を止めて敬礼してきた。それに対してどう対応したら良いかわからないので「ご苦労様」と声をかけておいた。
自分の執務室が何処にあるか分からないので、木村少尉の肩に手を置いて、心の中で「俺の部屋まで案内しろ」と念じたら、2秒位間をおいて「承知ました」と言って、執務室まで案内をしてくれた。木村少尉はどうやら俺の秘書官をしているようで、次官室内の秘書官席に着席し、自分の仕事を始めたようだ。俺も自分の席に座って、机のうえにあった書類に目を通すが、漢字とカタカナだけの手書きの書類で、読みづらいことこの上ない。こんな書類作るのも読むのも効率が悪い。これは早急に業務改善が必要そうだ。今後は陸軍内では不要な報告書は廃止して、すべての書類は完結に口語体で書くよう義務化が必要だ。難しい言葉で書く必要はないし、一番の理由は俺が殆ど読めないからだ。
それにしても俺と悠斗以外の4人はいったいどこにいるのだろうか。たまたま俺と悠斗は一緒に転移できたらかまだ良かったけど、一人だったらと思うと不安で仕方なかったと思う。早く皆と合流したいけど、スマホなんかもないし・・・。部屋にいるときはポケットにスマホを入れてたのに目を覚ましたときには陸軍の制服を着ていて・・・。あっ、ポケットにスマホ入ってた!試しに翔に電話をかけてみようとしたが、圏外になっていて使用できない。当然ネットワーク接続もできない。この時代にスマホあっても使い物にならないと喜びが絶望に変わった。こんなことなら最初からスマホなんか無ければ良かったのに。いや、もしかしたらダウンロードしたアプリなら動くかもしれない。ダメ元で百科事典アプリを起動してたところ、オフラインでも問題なく起動でき。
「やった!」
思わず声を出してしまった。
「どうしました?」
木村少尉が不思議なものを見るように俺を見ている。
「あ、いや。ちょっと失くしていたものを見つけてね。」
「見つかって良かったですね。」
納得した木村少尉は自分の仕事に戻った。
俺は机にあった紙とペンに電池が続くまで必要そうな情報を紙に書き写した。
夢中で書き写していたら木村少尉がほうじ茶を淹れてくれた。時計を見ると既に22時を回っていた。木村少尉に先に上がるよう言ったが、「自分もまだ仕事がありますので。」と彼も自分の席で書類作成を続けていた。どうやら俺に気を使わせないように仕事をしているようだ。年齢は俺と同じくらいなのによくできた男だ。今更だけど、見た目は明らかに20歳前後なのに陸軍中将の俺って違和感ないのかな?運営の補正でこの世界の人からは50代くらいに見えるのか?試しに木村少尉に確認してみるか。
「木村少尉、話しかけてもいいかな?」
「はい、もちろんです。どうされましたか?」
立ち上がって姿勢を正す木村少尉。
「あぁ、ただの雑談だから座って。逆に話し辛いから頼むよ」
「はい!失礼します!」
木村少尉が座ったのを見てから話始める。
「俺って何歳くらいに見える?」
おじさんがキャバクラでするような質問だなと、若干気持ちが萎えるが、他に聞き方が思いつかない。
「そうですね、実年齢は21歳と伺っておりますが、見た目はもっと若く見えますね。失礼ですが新兵に混ざっていても違和感がないかと思います。」
見え方が変わっているわけではないのか。確かにこの時代の人達は現代人よりも老けて見えるから、歳より若く見えるのだろう。
「自慢とかではないから、客観的に感想を聞かせてほしいのだけど、俺くらいの年齢で中将ってどう思う?」
親父の会社に入って分不相応に専務とかになって、自分の役職を自慢したがる2代目のような質問で、これもかなり恥ずかしい質問だ。でも、彼は素直そうなのできっと大丈夫だろう。
「陸軍始まって以来最速の出世を遂げた鬼才。陸軍内では唯一無二の存在で、我々若手士官の間では神と崇めるものさえおります。」
うわっ、そういう設定なのか。めちゃくちゃハードル上げられてる!
「そうか、それって軍の中でかなり浮いた存在になってないか?」
「良い意味でも悪い意味でも浮いた存在にはないっているかと存じます。しかし、下士官の大半は閣下を尊敬しております。」
「わかった。どうもありがとう。邪魔して悪かったな。」
「いえ、いつでも話しかけてください。私も閣下を尊敬している一人ですから。」
なるほど。設定ということで無理やりこのポジションに押し込んだのか。それにしても無理のある設定だと思うが、管理者がいるんだからだ何でもありか。
そのあとも必死に百科事典アプリの情報を書き写し続けていたら、ついに充電が切れた。時計を見ると午前2時を少し回っていて辺りだ。
今回書き写せたのは、レーダーとソナーの基本構造、ソ連製のアサルトライフルAK47とヘリコプターの基本構造、ヘリコプターで使用するターボシャフトエンジンの基本構造、AK-47で使用する7.62x39mm弾の基本構造、この時代に使っていた米軍やナチスドイツの暗号。重慶油田など未発見の資源の正確な位置などを書き終えたところで電池が切れた。百科事典ツールだから基本構造などはそこまで詳細には書いていないが、理研と兵器局、民間に渡したらもしかしたら作れるかもしれない。今日はもうできることがなくなったので、木村少尉に宿舎に案内してもらい、自室のベッドで眠りについた。
翌朝、起床ラッパの音で目を覚まし、軍服に着替えてから宿舎の食堂で朝食を食べた。今朝の献立は白米、茄子の味噌汁、福神漬だった。白米は山盛りで、おかずとの比率がおかしいが、腹はいっぱいにはなった。今朝は木村少尉とは別の軍人の運転で陸軍省の執務室に向かった。
ちなみに陸軍幹部になると送迎があるらしい。
執務室に着くと既に木村少尉は出勤していた。
木村少尉に確認して、今日は特に会議等の予定が入っていなかったので、業務改善計画を作成することにした。木村少尉から用意してもらった陸軍の組織図、どの部署がなんの役割をしているか、各部署の責任者が記載されている資料に目を通して午前中が終わった。組織図を見ただけでも明らかに無駄が多い。早く組織の再編に着手したい。
昼食の時間になり、どうやって悠斗と連絡を取ろうと考えていたら、受付の女性が陛下からの使いのものがきていると呼びにきた。いくら友達とはいえ対外的に悠斗は天皇だからこちらから気軽には遊びに行けないが、悠斗から俺を呼ぶことは当然可能というわけだ。
今日も木村少尉の運転する公用車で皇居を訪れた。申し訳ないけど木村少尉には皇居内の控室で待ってもらい、係の人に案内されて昨日俺達が目を覚ました悠斗の執務室に入った。
「おつかれ、誠司」
俺は悠斗の執務室に入室すると、悠斗の机の前に行き、最敬礼をした。
「この度は畏くも陛下にお呼びいただき誠に恐縮でございます。」
「いやいやいや、陛下とか恐れ多いからホントやめて。天皇だけど天皇じゃないから。俺ごときの一般人が陛下とか痴がましいにもほどがるし、完全に不敬だよ。本物の皇族の方に代わっていただきたい。」
「まぁまぁ、そういう設定なんだから仕方ないよ。それに、悠斗が天皇だと色々と動きやすいしさ。じゃなかったら、いくら陸軍次官とはいえこんなに気軽に天皇にお会いできるものじゃないだろ?」
「そうなんだけどさ、やっぱりいくら象徴天皇の時代に育ったとはいえ日本人の感覚的にはさすがに天皇陛下って呼ばれるのは恐れ多いよ。やっぱり本物の皇族の方に代わっていただいた方がよくね?」
「いや、わかるよ。わかるけど、国体の護持のためには俺たちが歴史を変えないといけないから。この国難を乗り切ったら本物の皇族の方にお返ししたらよくない?それにさ、ほら、皇居で生活できるなんて貴重な体験できてラッキーじゃん。」
悠斗は、少し考え込んでいたけど、とりあえずは納得してくれたようだ。またネガティブにならないように話題を変えよう。
「ちょっとこれ見てよ」
俺はポケットの中から電源が切れたスマホを取り出した悠斗に見せた。
「おお!まさか使えるのか!?」
悠斗が勢い良く立ち上がって、俺の側に寄ってくる。
「いや、そこまでのチートアイテムではなかったわ。もう電源も切れちゃってるし。」
「まじか、流石に充電機はないしな」
「でも、充電が切れる前に百科事典アプリに入ってた使えそうな情報はメモしてきたよ」
俺は鞄から昨日書き写したメモを取り出して悠斗に渡した。
「レーダーとソナーの基本構造、AK47とRPGの基本構造,7.62x39mm弾の基本構造構造、未発見の資源の正確な位置!やばっ!これで天下取れるじゃん!」
「百科事典ツールだからあまり詳細に書かれてはいなかったけど、この時代の技術者とかに渡せばなんとか形にはなるかと思ってさ。資源はすぐには採掘できなくても採掘権だけはなんとか確保できるかもしれないと思ってさ。でも、他にも書き写したいのがあったんだけど、電源切れてこれしか写せなかった・・・」
「十分だよ!これがあれば今の日本の技術でもできると思うよ!この情報はデカイ!AK47早く作ろうよ!」
「やっぱりFPSゲーマーとしてはAR最優先だよな!これは陸軍兵器行政本部に今日のうちに持ち込んで最優先で作らせようと思ってる。」
『ピコーン!ボイスチャットの制限が解除されました。』




