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36.マンハッタンが眠る日

1942年5月27日19:50(NY時間) 大西洋ニューヨーク沖上空 Ho233X機内


Ho233X型爆撃機の操縦席からは、煌々と光を発しているマンハッタンの夜景が見えた。


「見えた。あれがニューヨークか。明かりが多くて目標地点が分かりやすいな」


操縦士のブリンカー少佐が副操縦士のフライシュマン中尉に話しかけた。


「はい。目標のマンハッタン島がよく見えます。戦時中なのにアメリカは呑気なものです」


「そうだな、開戦後すぐに灯火管制を始めた我々とは大違いだな。この前、夜間にベルリンの上空を飛んだときに、真下にベルリンの街があることに気付かなかったくらいだ。我がドイツ国民の規律の高さと統制力に感動したよ」


「さすがは総統のお膝元のベルリンは徹底してますね。メリケン野郎様は照明を消し忘れているのかもしれないので、我々で照明を消して差し上げましょう」


「そうだな、ニューヨーク市民には我々から安らかな眠りをお届けして差し上げよう。このままの高度、進路を維持すれば、数分後には投下目標のエンパイアステートビルが見えてくるだろう」


「揺動部隊の方はさすがに見つかりましたかね」


「いくらアメリカ空軍がノロマでもあれだけの大編隊なら見つけられるだろう」


「もしかしたら、気付かれずにフィラデルフィアまで着いてしまうかもしれませんよ。シントラ航空基地を出てからずっと無線封鎖で、ほかの状況が一切分からないのは困りますね」


「不便だが我慢するしかないな。この作戦はドイツ空軍の総力をかけた、史上空前の規模の作戦だ。その最後の一番重要な部分を我々たった二人に任されているというのは、考えただけでも恐ろしくなってしまうことだな。我々は絶対に失敗できないということだ。我々の命に代えてもな」


「はい。必ず成功させましょう。我々の命に代えても」


二人の間にしばらく沈黙が続いたが、それから数分後、投下目標のエンパイアステートビルが目視できるようになった。


「見えたな。予定通り俺がカウントするから、ドライで投下だ」


「#了解__アインフェアシュタンデン__#」


「アインス、ツヴァイ、ドライ!」


「レッシェン投下」


「投下確認。本空域を緊急離脱。無線封鎖解除」


ブリンカー少佐が無線封鎖解除直後に通信を開始する。


『こちらツヴァイ。投下完了これより帰還する。アインス送れ』


『こちらアインス。承知した。英雄たちの快適な空の旅を願う。終わり』


無線が終わった瞬間、既に日が落ちているというのに空が昼間のように明るくなった。と思った瞬間、後方から激しい衝撃波が発生し、Ho233X爆撃機の機体は大きく揺れた。ブリンカー少佐は揺れる機体の中で操縦桿を固く握り締め、なんとか機体を水平に維持することができた。

    

光と衝撃波が落ち着いてから二人は窓からマンハッタン島を眺めたが、巨大なきのこ雲が上空に向けて立ち上り、街がどうなったのかは目視することができなかった。あのきのこ雲の中のことを想像すると、今回の任務が成功したことを理解できた。


「フライシュマン中尉、計器に異常は?」


「異常なし」


「よし、高度を限界高度まで上げてから、速度を通常航行速度に落として帰還する」


「#了解__アインフェアシュタンデン__#!」


彼ら二人が生還するためにはこれしか方法がない。この時点ではドイツ空軍以外には、ジェットエンジンを搭載した航空機の実戦配備をしている国はなかったので、プロペラ機が機銃の射程範囲に入るまで上昇している間に加速して、引き離すことができる。そして、Ho233Xの実用上昇限度は高度15,000mまであるが、米軍の主力戦闘機であるP-51 マスタングの最新型でさえ約13,500mが実用上昇限度なので、仮に15,000mまで上がってきたとしても、マスタングは速度を出せずにすぐに引き離すことができるだろう。射程内からマスタングから機銃を撃ってきたとしても、その高度で機体に当てるのは至難の業#業__わざ__#だ。そして、陽が昇るまでの間に可能な限りアメリカ空軍の哨戒網の外側に出られれば、ほとんど見つかる可能性はなくなる。

   

ブリンカー少佐達はしばらく緊張のまま飛行を続けていたが、アメリカ空軍の哨戒網を無事に抜けることができ、帰還途中の陽動部隊と合流を果たした。これでアメリカ軍の戦闘機が追いついてきたとしても、逆に返り討ちにしてくれるだろう。


「追ってきませんでしたね」

「この機体のステルス性能に助けられたな。しかし、未だに投下完了の報告をして以降、ドライと通信が取れないということは、あの衝撃波に巻き込まれてコントロールを失って墜落したか、敵の迎撃機に落とされたのかもしれないな…。あいつらゲーリング大臣の命令に背きやがって…」


ブリンカー少佐は悔しそうに拳をきつく握りしめた。ドライに搭乗していた操縦士はブリンカー少佐の入隊からの同期で、親友でもあったからだ。フライシュマン中尉は気を紛らわそうと話題を変えた。


「これなら来週はベルヒテスガーデンで過ごせますね」


「そうだな。家族も同伴して良いとのことだから、俺は嫁さんと娘を連れて、湖で釣りでもするよ」


「良いですね。俺も彼女でもいればよかったんですけど、先月別れてしまいまして…」


「それなら、良い女性がいる。うちの妻の妹なんだが、戻ったら一度会ってみないか?」


「ブリンカー少佐の奥さんは美人ですからね、妹さんも美人なんですか?」


「そうだな~、妻は美人系だけど、妹はどちらかといえば可愛い系かな。きっと気に入ると思うぞ」

    

「さり気なく惚気も入れてきましたね。奥さんの妹さん是非紹介してください!」


「ああ、もちろんだ」

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