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03.大日本帝国の敗因

「はぁ~。俺等って現実の存在じゃなかったんだな。」


現実じゃないと言うことは、NPCみたいなもんなのか?いや、プレイヤーが操作するアバターかもしれないよな。


「シミレーション世界でも物理世界でも、僕たちはどうしたって今いる世界で生きていくしかないんだよ。だから、今はこれからのことを考えようよ。」


「まぁ、この世界も元の世界もシミレーションの世界って分かっちゃったら、どうしても元の世界に戻りたいとも思わないしな。よし!もう開き直ってこの世界で楽しく生きていく方法でも考えようぜ!」


自分ひとりだったらこんなに早くに受け入れて開き直ることはできなかったと思う。でも、今は友達といるノリで深く考えずに済む。

ただ、ゲームができないことと、読んでた漫画の続きが一生読めないのは心残りだ。


「そうそう、前向きに考えよう!とりあえず今の僕らは戦前の天皇と陸軍の幹部ということ、かなりのチートスキルを使えるから、このアドバンテージを最大限に活かしていきたいね。誠司は歴史得意だったよね?」


そうだった。チートスキルと日本最高の地位があるんだった。それに加えて、過去の日本ということは、未来に何が起きるかも知ってるうえで行動できる。そう考えたら元の世界よりむしろこっちの方が良く思えてきた。


「確かに歴史の知識はこの世界ではかなりのアドバンテージになるな。まぁ、自慢になるから控えめに言って、高校の歴史教科書と歴史便覧程度のことなら大体は覚えてるかな。」


俺は高校時代から第一次世界大戦や第二次世界大戦を舞台にした戦略シミレーションゲームやFPSにハマって、そこから興味が湧いて歴史や時代背景とかを熱心に調べていた。戦争について調べるほど必然的に歴史に詳しくなる。なぜなら、人類の歴史はまさに戦争の歴史とも言える。世界全体で戦争がない時期を探す方が難しいほどだ。それほど、人類は有史以来戦争ばかりしている。だから、一般的な大学生よりはそこそこ戦争の歴史のことは知ってるかもしれない。


「じゃあ、今はどういう状況か分かる?」

「そうだな、今日は1939年9月1日って言ってたから、ちょうどナチスドイツがポーランドに侵攻した日だな。」

「ということは、今日が第二次世界大戦のスタートの日ってことになるのか・・・。太平洋戦争の開戦はいつだっけ?」

「1941年12月8日のパールハーバーだな。」

「マジか、あと2年しかないのか・・・。」

「終戦は1945年8月15日だから、あと6年後ということになるな。」

「大日本帝國の主な敗因って分かる?」


「まぁ、いくつも考えられるけど、一番大きいのは日中戦争で中国と戦争が泥沼化してて戦費が膨大に膨れ上がってるうえに、凶作やインフレで経済も停滞しているにも関わらず、アメリカを中心とした連合軍とも戦ったことがそもそもの敗因だな。だいたいだけど、確か日本の当時のGDPが約2000億ドルに対して、アメリカのGDPが約8500億ドル。日本の人口約7000万人に対してアメリカの人口約1億5000万人。GDPと人口の差だけ見ても絶望的だな。工業生産力でもその差は歴然。技術力もそうだな、酸素魚雷とか零式艦上戦闘機とか造船技術なんかは確かに当時のアメリカやドイツにも引けを取らなかったとは思うけど、そういうのはほんの一部で、この当時日本の主力戦車の九八式中戦車チハは当時世界最強のドイツのティガー戦車には遥かに及ばないし、建設機械なんかもこの時期だとまだ国産化ができてなくて、輸入した数少ないブルドーザーやパワーショベルを戦地に投入することができず、ラバウル島じゃ800mの滑走路を造るのに延べ3000人の人員で約1週間かかったのに対して、アメリカは大量の重機を投入して3日で作っていうたって話しもあるしな。分かりやすく言うと、全身筋肉痛で3日飯食ってない俺が最高コンディションのメイウェザーに喧嘩売るようなもんだな。」


「うわっ、1秒も立ってられないやつだ。それにしても、この時点で中国とは戦争中なのか。そもそも、日本は約4倍以上もGDPが多い国となんで戦争する気になったんだ?」


 確かに我々のような現代の日本人が考えたら、この戦争を美化している一部の連中は別としても、誰だってアメリカと戦争すること自体が間違いだったと言うだろう。だけど、結果だけを知っている人間は、あとからなんとでも言えるんだよな。


「そうだな、とりあえずその話をすると話が長くなりそうだから、料理が冷めないうちに食べちゃおうか。」


 俺達は特に何も話さずに黙々と食事を済ませ、侍女に食器を下げてもらい、温かい玄米茶を煎れてもらった。天皇が飲むようなお茶だから高級なお茶かと思ったけど、元の時代に飲んでいたお茶とあまり違いが分からなかった。

あの時代のお茶の製造技術が優れていたいのか、俺が味覚音痴なのかは分からないが、恐らく前者だと思うことにしよう。


「じゃあ、さっきの続きだけど、アメリカと開戦した経緯は、まず日露戦争のあとに満州って今の中国の東北部に日本が進出するんだけど、そこで旅順から長春の間の鉄道をアメリカが共同経営しようと持ちかけてきたのを日本が断って、それまでそこそこ良好だったアメリカとの関係に綻びが出始めたんだ。それから太平洋の覇権が欲しいアメリカ国内ではどんどん反日感情が大きくなっていくなかで、1937年に盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が始まった。一応は開戦当初アメリカは中立の立場だったんだけど、日本が大東亜共栄圏ってことで、日本と中国と東南アジアを統合した経済圏、今で言うEUみたいなものを作ろうと宣言してからは、アメリカが露骨に日本を警戒するようになって、日本に経済制裁として石油の輸出制限をかけたんだ。それでもなんとか、交渉で経済制裁を解除してもらおうとアメリカに打診してたころで、アメリカからあの悪名高いハル・ノートを提示されて交渉決裂。アメリカに一撃加えて有利な条件で早期講和を狙った主戦派の軍部が御前会議で天皇に対米開戦を促して、真珠湾攻撃って流れになったんだよね。ちなみに盧溝橋事件の直後から、天皇陛下はなんとか中国との全面戦争を回避しようとしてたんだけど、天皇陛下のお気持ちに陸軍が反対して全面戦争に突入したらしい。だから、天皇が統帥権を主張して日米開戦を拒否したところで、軍部は勝手に戦争を始めてただろうな。」


悠斗に説明したのは一番メジャーな日米開戦の経緯だ。日米開戦の経緯には様々な説があるので、これだけが正しい開戦の理由とは思わないが、大きくは外れていないだろう。


「おぉ・・・。いきなり饒舌になったね。この手の話になると誠司は一生話し続けるよね。典型的なオタクじゃん。」


 悠斗が露骨に引いているという素振りで体を少し後ろに引いたが、今はそんなことはまったく気にしない。今後はこの知識が俺達にとって大きなアドバンテージ役になるしな。が、悔しいのでオタクという部分は一応否定しておこう。


「いやいや、ただの歴史好きの秀才だから。」


「そうか・・・、まぁいいけど・・・。僕もゲーマーって言われたら言い返せないしね。そのハル・ノートの内容ってどんなだったの?」


あ~、ハル・ノートの内容か・・・。なんだっけな。


「確か日本が無条件で中国とベトナムからの撤退と、1941年に締結した日独伊三国同盟からの脱退、蒋介石の重慶政府以外の政権の否定だったかな。しかも、それを受け入れたら経済制裁解除しますよって内容は何も書かれてなかったから、戦争回避派の人たちが絶望したっぽいよ。」


 この時代はアメリカに石油の輸出わ止められたら東南アジアから資源調達をしないといけない状況だった。だけど、アメリカの言うとおりに撤退したからと言って経済制裁が解除されない可能性があるなら、進むも地獄退くも地獄という状況だったのだろう。ましてや満州については官民共に多額の物的、人的資源を投入しているため、サンクコスト効果で国内世論も撤退を許さないだろう。


「その話だとアメリカが、わざと日本を追い詰めて戦争するように仕向けたって感じだね。アメリカはいつの時代もやり方が汚いよね。俺達のいた時代でも経済制裁で追い詰めてから軍事介入っていうのがアメリカの常套手段だもんね。でも、なんでそんなに日本と戦争したかったのかな?わざわざアメリカ人の血を流してまで欲しいものが日本にあったってこと?」


「いや、特に日本は資源も少ないし、アメリカが欲しいものはなかったと思うよ。今日から始まった第二次世界大戦で、イギリスもナチス・ドイツと戦うことになっていくんだけど、イギリス単独ではアメリカの支援なしでドイツに勝てないって状況になって、アメリカにも参戦してくださいって、イギリスからアメリカに打診してたんだよね。当時のアメリカの世論としては、モンロー主義が主流だから、そもそもなんでヨーロッパの戦争に直接関係ないアメリカ人の血を流さなきゃいけないんだってことで、参戦には反対を示してたんだ。そこで、ドイツと同盟国の日本からアメリカに戦争しかけたら、日本の同盟国であるドイツと戦争する口実になるからってことで、日本に先制攻撃させたかったんじゃないかって話だよ。」


長い説明ばっかりしていたら喉が渇く。温くなった玄米茶を飲み干したので、悠斗の湯呑みなも自分で急須から2杯目のお茶を注いでいた。


「ん?それってアメリカ国民は戦いたくなかったのに、第二次世界大戦に介入すること儲かる一部の人たちのために、アメリカが参戦するように仕向けたってことだよね。最悪だね。」


確かにアメリカが戦争に介入したために、アメリカだけでも軍民合わせて100万人以上の犠牲者が出ている。現在のアメリカの地位を手に入れるためには最小限の犠牲だったと考える人もいるかもしれない。でも、介入しなければ死ななかったはずの100万人以上の犠牲者やその家族にとっては、別の大陸や太平洋の反対側で起きてる戦争に、わざわざ首を突っ込んで死ぬなんて、とんでもない話だ。


「まぁ、そういうことだからさ、せっかく日米開戦前に戻ったんだから、アメリカの思惑に乗って先制攻撃することだけは絶対に止めよう。」


「うん。アメリカとの戦争だけは絶対に避けよう。じゃあさ、今は日本と中国が戦争中って言ってたけど、これって天皇の命令で止めれないもんかな?中国なんて広い国を日本みたいな小さい国がそもそも統治できるわけないし、実際に占領したとしてもイスラエルみたいになって何十年も泥沼の消耗戦をするのは目に見えてるよね。だからサンクコストは無視して今のうちに可能な限り中国から資産引き上げたいな。ついでに、個人的には朝鮮半島からも手を引きたい。」


 確かに朝鮮半島は未来のこと考えると百害あって一利なしだ。秀吉も朝鮮出兵した際に、戦では勝っても、領地にするのにかなり苦戦して結局兵を引き上げたからな。


「当時の状況だと中国からの完全撤収は難しいな。既に莫大な物的・人的資産を中国には投資してるから、天皇がいくら撤収しろと言っても叶わないだろな。理論的には憲法で定められた陸海軍の統帥権を持ってるんだけど、実務的には当時ほとんど国政や軍に対して口を出すことはなかったんだ。下手したらアウンサンスーチー女子みたいに陸軍に軟禁される可能性もある。」


 俺がそう言い切ると悠斗は少しがっかりした様子だった。だけど、少し考えてから何かを思いついたような表情に変わった。


「いや、僕らなら必ずこの戦争を止められるよ!触れた日本人に命令に従わせるチート能力があれば陸軍や財閥の反対なんかねじ伏せられるよ!」


 あっ、なるほど。俺らは現代の知識があるだけじゃなく、運営からもらったチート能力もあるんだった。まだ試してないけど実際にその能力が使えるとしたら、俺らの対立勢力が現れても従わせることができる。国内なら無敵だな。


「よし、いけるじゃん!中国から即時撤退!この戦争はいくら俺らが頑張っても、アメリカと開戦した時点で負けは確定だから、アメリカには終わるまで引きこもってもらおうぜ。」


 せっかく未来の知識があるのだから、華麗にアメリカに大勝利して大日本帝國を拡大させたいという気持ちはもちろんある。でも、いくら未来の知識があったところで、俺達は平凡な日本の大学生でIQが180以上ある天才等ではなく、軍事の専門家というわけでもない。しかし、アメリカにはそういう天才や軍事の専門家はたくさんいる訳で、実際にこれから俺たちが歴史を変えていくから、アドバンテージはどんどん小さくなって不確定要素が大きくなる。どう考えてもアメリカに勝ち続けるのは不可能。戦術的な勝利はいくつか得られるだろうが、総力戦になれば経済、工業生産力、技術力で劣る日本はまず間違いなく負ける。だから俺らは対米開戦だけは絶対に阻止しないといけない。


「そうだね。実際にアメリカに参戦させないためにはどうすればいいかな?」

「う~ん、こっちから何もしなければ日本に対して先制攻撃は世論は許さないと思う。けど、こっちから仕掛けなければ、アメリカは何かしら口実を作って、日本が先制攻撃したように国民に見せて参戦してくるだろうな。関東軍が満州鉄道の線路を爆破した柳条湖事件みないにな。安易かもしれないけど、アメリカはドイツと戦うために日本と戦いたいんだから、ドイツと同盟を結ばなければ良いんじゃないか?」


俺らが知らない日米開戦の理由が他にあるとしたら、ドイツと同盟関係にならなかったとしても、アメリカは何かしら仕掛けてくるだろう。とはいえ、現時点で戦争を回避するために俺らにできる最も可能性が高い方法だろう。


「確かに中国から撤収して戦争しないんだったら、あえてドイツと同盟を結ぶ必要はないな。それは採用でいいと思う。」

「問題は既に投資した莫大な資産の引揚げ方法だな」


「そうだね、1939年時点の日本の領土と委任統治領すべてを維持できれば、現時点での領土から考えると、中国と朝鮮から撤退するのは大損してるように見えるけど、アメリカと戦争をしないことで、結果的には俺らが知っている未来の日本よりも領土は増えるんじゃないかな。台湾も日本だし、南樺太、北方領土、南方委任統治領もあるから、未来の日本とは比べ物にならない領海とEEZが既にあることになる。海洋資源だけ考えても2023年にそれだけの勢力圏を確保できていれば、アメリカや中国に並ぶ大国と言っても良いと思うな。あとは可能なら間接的に東南アジアとインドの欧米からの独立を支援して、戦後のアジア圏のリーダーの地位を手に入れたいところではあるね。」

「なるほどね、じゃあ中国と朝鮮はもう損切りだね。満州から撤退するときなんだけどさ、ソ連に満州譲って、代わりに北樺太の割譲と満州にある重慶油田と勝利油田の位置をソ連に教えて、共同採掘権を認めてもらって、アメリカからの石油に頼らないようにするってどうかな?歴史は得意じゃなかったけど、地理で習ったからだいたいの場所は知ってるよ。」


俺は日本史と世界史選択で、地理はさっぱり分からないからこういう情報は助かるな。


「おお!それなら中国と朝鮮の出資分の赤字が埋められるかもしれないな。エネルギー不足も数年耐えれば解決するし。ソ連は中国の利権と凍らない港がある朝鮮半島が喉から手が出るくらい欲しいだろうから、北樺太と油田の共同開発権くらい譲るだろう。あとは、中国から撤退するときに毛沢東に今の満州以外の占領地域と、引き上げコストがかかる日本の資産を人民解放軍にすべて引き渡すことを条件に終戦として、日中戦争に関する一切の賠償を請求しないことと、現在の日本の台湾や尖閣諸島、そのほか戦後に中国が出しゃばってきそうな地域はすべて日本固有の領土であると公式に宣言してもらおう。アメリカもドイツが元気な今の状況で、ソ連とは対立したくないだろうから大っぴらに非難はしないだろうしな。」


支援するのは毛沢東でも蒋介石でも構わないのだが、国民党軍はアメリカが支援しているし、人民解放軍に負けることは確定しているから、戦後のことを考えると今のうちに毛沢東に恩を売っておいた方が良いだろう。


「そうだね、大まかな方針はこれでいいかな?」

「とりあえず俺ら二人で考えられるのは、今のところはこんなもんじゃないかな。あとは、この時代の優秀な官僚や軍人に知恵を貸してもらおう。実際の詳しい状況とか分かってくれば、もう少し細部まで詰めれば良いし、今日は他のメンバーとも連絡も取れないから、動くのは明日ボイチャが開放になって、みんなの状況も確認してからにしようか。なんか最初はやばいと思ってたけど、話してたらテンション上がってきた。」


悠斗は苦笑いをしながらお茶をすすっている。


今後の方針についての話はひとまずはこの辺で切り上げることにした。他に移動してきたメンバーと合流するまでは勝手な行動を取る訳にも行かない。さっきの執事に悠斗と二人で皇居の中を色々案内してもらい、日も落ちてきたところで、待合室で俺のことを待っていた陸軍少尉(能力で名前を見たが、木村太一というらしい。)の運転で市ヶ谷の陸軍省に向かった。

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