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28.ハーケンクロイツ

今夜から楓さんと一緒に住むことを考えていたら、仕事が全然手に付かなかった。午前中に婚姻届を提出して戸籍を確認した。改めて戸籍を見ると、兄弟もなく、父と母が空欄になっている戸籍に楓さんの名前が追加されていた。あまり実感が湧かないが「妻:園田 楓」と記載されているのを見ると、ついに俺も結婚したと思うと感慨深いものがある。


高校時代に付き合っていた同じクラスだった彼女と遠距離になったため高校卒業と同時に別れてからは、一度も彼女ができなかった。

うちの大学のEスポーツサークルは、FPSに青春を注いでいるような人しかいなかった。だから、アイザック以外は誰も女の子と付き合っているサークルメンバーはいなかったと思う。

アイザックと言えば…。アイザックについては言うまでもなく、ハーフで高身長イケメンで明るい性格のため、何をしてても女が寄ってくる。居酒屋で飲んでても、学食で飯を食っていても、ゲームセンターに行っても、お祭りの縁日を歩いていても、女から「一緒に写真を撮ってほしい」とか「カッコイイですね」とか声をかけられる、女ホイホイである。一緒に歩いている俺の身にもなってほしい。別に俺だって自分のことをそんなに不細工だとは思っていない。平均くらいではあると思う。うちのおばあちゃんだって、俺のことをイケメンだって言ってくれた。それなのにだ、アイザックと一緒にいる俺は完全に視界に入っていないかのようにスルーされて、アイザックの横でキャッキャウフフしている様子を見ているだけという屈辱を味わい続けたことを思い出した。その場でのアイザックとの実際の距離は1m程度しか離れていないが、感覚的にはその場から10mは離れて傍観している通行人のように感じられた。

俺と同じゼミの女の子にSNSのアカウントを教えて欲しいと言われて、その日の夜にその女の子からメッセージが来た。とうとう俺の時代が来たか!と一人盛り上がっていたら『こんばんは!今日はID交換してくれてありがとう。園田くんはアイザック君と仲良いんだよね?アイザック君のID教えてもらえませんか?お願いします!』という内容だった。

これらの屈辱的な出来事のせいで、アイザックと仲良くなる前には、それほど感じてはいなかった自分の容姿に対するコンプレックスを強く感じるようになり、俺は女の子と積極的に話せなくなったのだ。

あっ、なるほど。だから大学に入学してから一度も彼女ができたことがなかったのだとやっと気が付いた。全てはアイザックのせいだったよだ。しかし、もはや今の日本にはアイザックはいないし、俺には楓さんという可愛い妻もいる、コンプレックスを持つ必要なんかないんだ!アイザックだってどうせドイツでは白人のイケメンばかり周りにいて、元の時代にいた頃みたいに女の子にモテモテということはあるまい。そもそも日本人と白人では根本的な顔の作りが違うのだ。誰だって素朴な日本の肉じゃがや、焼き魚の中にジューシーなステーキやハンバーグがあったら目がそっちに行くだろう。だけど、見た目が地味で素朴な日本の料理、そう、日本男児にだって欧米人とは違った良さがあるのだ。俺たちがのこ時代に来る前の日本の人口は約7200万人、現在の日本の人口は約8800万人、その内ここ3年で日本に移民した外国人は約1200万人いる。元ロシア人、元ドイツ人、元ポーランド人、元フランス人、元オランダ人、元イギリス人等、ナチスによる迫害から逃げて日本に移民した白人のイケメンもたくさんいる中で、楓さんのように人を見る目がある大和撫子は俺を選んでくれたのだ。小川先輩と婚約した近衛さんの三女はマニアック過ぎて論外だ。わざわざロシアまで行って小川先輩と婚約するとは…。

容姿に関するコンプレックスのことで思考が完全に別の方向に進んでしまったが、今日は家で楓さんが待っていてくれているはずなので、仕事を終わらせて早く帰らなければいけない。これから藤井先輩が緊急ミーティングを開きたいとのことなのだが、1秒でも早く帰りたい俺は、今日のミーティングは話を脱線させないように早めに切り上ることを決意した。


『グループチャットが繋がりました』


システムのアナウンスの声が流れる。


『よっ!3人とも忙しいのに時間取ってもらって悪いな』


小川先輩と悠斗、翔とのグループチャットが繋がった。


『いえ、小川先輩が緊急ミーティングなんて久し振りですね。何があったんですか?』


俺が早く帰りたいの知っている悠斗が、すぐに本題に入るよう促してくれた。


『それが、遥ちゃん、俺が結婚することになっている近衛遥についてなんだが、とんでもない事実が分かった。結論から言うと、彼女も俺たちと同じ元の世界のFPSプレイヤーだったわ』


『えっ!!!』『っ!!!!』『ホンマですか!!!???』


俺と悠斗と翔が同時に声を出して反応した。


『あぁ、本当だ。いくら俺だってわざわざこんな忙しい時期に、そんなくだらない冗談言わないから。で、なんで分かったかというと、信じてもらえないかもしれないけど、遥さんにだけは本当のことを打ち明けたくて、思い切って俺はこの時代にタイムスリップして元々は2023年から来た日本の大学生だったと打ち明けたんだ。そしたら、遥さんも俺らと同じで2023年からタイムスリップした当時16歳の高校生で、B.O.E.Lをやっているときに運営からゲームのβテストに参加しないかと誘われて、気が付いたら1939年9月1日にタイムスリップしていたと言っていた。話し方とかが現代風な子だなって思ってたけど、おまえらが日本にいるから、この世界の日本人もおまえらの影響を受けて話し方が現代風に変わったのかなと思ってたけど、まさか同じ世界から来た人だとは思わなかったわ』


『えっ、こわっ!俺たちと同じタイムトラベラーが他にもいたんですか。目立った行動さえしなければ気が付かないのか…。でも、どうして遥さんは俺たちとコンタクトを取らなかったんですかね。だって、そもそも俺らの年齢で天皇は別としても、総理大臣や海軍大臣なんておかしいじゃないですか』


『園田の言うように、俺もそう思って遥ちゃんに聞いてみたら、遥ちゃんの記憶では天皇と海軍大臣の名前は元々知らなかったんだけど、総理大臣はたしか園田誠二で、歴代最年少の総理大臣として記憶していたらしい。そもそも被選挙権を持つ年齢が20歳に引き下げられたこともこの頃だったと言っていた。俺のことも、ソ連ではシュンスケ・ヴィッサリオノヴィチ・スターリンって名前だから、シュンスケって日本人の名前だけどおかしいと思わなかったのか聞いてみたんだけど、スターリンという名前は知っていたけど、本来はシュンスケじゃなくてヨシフだったことは元々知らなくて、シュンスケという名前にも全く違和感を覚えなかったそうだ』


『っちゅうことは、元々こっちにいた人たちと一緒で、俺らの存在に全く違和感を感じてへんってことになりますん?』

    

『ああ、そうみたいなんだ。それで、この話にはまだ続きがある。遥ちゃんがB.O.E.Lで所属していたチームはあの有名なハーケンクロイツだ』


『ええええっ!!!ハーケンクロイツって女子高生もいたんやね!廃人ばっかりの上位チームやんけ!』


翔が言うとおりハーケンクロイツは俺たちがログインしているときはだいたいログインしているし、全員廃人ニート集団かと思っていた。俺たちと同じ学生だったからログインする時間帯が一緒だということか。


『まぁ、俺もそれには驚いたけど、大事なのはそこじゃない。遥ちゃんはその日5人でログインしていて、後からログインした遥ちゃんともう一人はドイツ陣営がいっぱいだったから、たまたま日本とイタリアでプレイしてて、ほかの3人はドイツでプレイしていたらしい』


『なるほど、俺らと同じ状況だと考えればその4人はドイツとイタリアに飛ばされたと考えるのが自然ですね』


悠斗の推測が正しいとすれば、今ドイツにはアイザックと藤井先輩のほかにもタイムトラベラーがいるということになるが、ドイツにそれらしい人間がいるという情報が今まで入ってこなかったということは、俺たちもそのことに違和感を覚えないように認識を操作されていると考えるしかなさそうだ。

    

『そうなんだ。ドイツのエルマ・ヘス副総統、クラーラ・ヒムラー親衛隊全国指導者、イリーネ・ゲッペルス国民啓蒙・宣伝大臣とイタリアのサブリーナ・ムッソリーニ首相は知ってるよな?』


『歴史は得意ではない僕でも知ってますね』


『遥ちゃん言うには、その4人がハーケンクロイツのメンバーだったということだ。この4人は知ってのとおり俺らと同じくらいの年齢で全員女なんだが、遥ちゃんの記憶だと彼女たちは本来の歴史では4人とも男だったそうだ。彼女達は元の世界では日本の名前だったそうなんだけど、こっちにきてドイツやイタリアの名前を名乗るようになったんだと。ちなみに遥ちゃんもアイザックと藤井が同じ世界から来た人間だということには気づかなかったと言っていた。あと、これはまぁ、あんまり関係ないんだが、ハーケンクロイツのメンバーは全員女子高生だったらしい。俺らよくボコボコにされてたよな』


運営の人は他の人もこちらの世界に飛ばされていることは一言も言ってなかった。確かに俺らも聞いていなかった訳だから嘘ではないのだが、重要なことなので説明して欲しかったな。最初に運営から説明があってから一度も連絡はないし、他にも元の世界の人がいるのか質問するのは難しそうだな。


『なんか、ごちゃごちゃしてきましたね。えっと、つまり、ハーケンクロイツのメンバーも俺らと一緒にこっちに飛ばされて、お互いに認識を操作されてたってことなんちゃう?』


翔は話をまとめたつもりだけど、小川先輩が言ってたことをほとんどそのまま繰り返しただけだった。こいつが次の総理大臣で大丈夫か不安になってきた。


『それで、遥さんはハーケンクロイツのメンバーとは連絡はしているんですか?』


もしかしたら遥さん経由でドイツのメンバーと連絡が取れるかもしれないので聞いてみた。

    

『あぁ、それなんだけど、遥さんは俺らよりもっと酷い状況でよ、こっちに来て数日は連絡が取れてたんだけど、国家機密を漏洩する訳にいかないとか言って、リーダーからチームの登録を外されたうえにブロックされたらしい。だから、藤井達のことも遥さんは知らなかったらしい。まぁ、この状況から考えてドイツとイタリアのハーケンクロイツのメンバーは、藤井達とすでに協力してるって考えるのが自然だな』


『ドイツ組は徹底してますね。メンバー登録の解除ができるのは知らなかったですね。うちのリーダーは小川先輩だから、メンバーの招待・承認・解除もできるってことになるんですかね。そいうことなら遥さんもうちのメンバーに入れられませんか?』


悠斗の言うとおり、せっかく元の時代から来た仲間がほかにもいるならメンバーに入ってもらうのは俺としても歓迎だ。


『俺もそれ考えたんだけどよ、チーム登録って6人までだから、今6人全員登録されている状況だから追加できないんだよな。どうせ連絡取れないし、藤井のメンバー登録解除してもいいか?』


アイザックだけ残しておけば連絡は可能だから、藤井先輩のメンバー登録の解除は、全員一致で賛成となった。


『チームリーダーがFujijii5656のメンバー登録を解除しました』


音声アナウンスが流れた。これは藤井先輩の方にも通知されているんだろうな。まぁ、文句があるならアイザックから連絡があるだろう。向こうからこっちのこと無視してるのに文句を言われる筋合いはないけどな。

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