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27.新生活の準備

二人きりになくなると、楓さんの方から話し始めた。


「誠司さん、総理大臣を辞めるという話は、私と結婚するのが理由なんですか?」


あ~、分かってきた。今の楓さんは怒っているな。それにしても、人前では大人しいけど二人きりになるとたくさん話してくれるのは、俺に気を許してくれているからなのか?


「総理を交代するっていうのは前から話していて、年度末ということもあって、このタイミングにしたんですよ」


ふわっとした回答をしたが、納得してもらえただろうか、楓さんは真顔でじっと俺の目を見つめている。


「そうですか、それでは一日も早く私と結婚したい、私との時間を取れないからっていうのは嘘なんですね?」


楓さんは視線を俺の目から離さずに、問いかけてくる。ダメだ、ゲシュタポの尋問よりも俺には効果的かもしれない。


「いや、その…、えっと…、すみません!1日も早く楓さんと結婚して、少しでも長く一緒の時間を過ごしたいという俺の個人的な願望が9割でした!むしろ最近は楓さんのことしか考えられないというか…。このままでは政務に支障をきたすと思いまして…。総理交代話があったのは本当なんです、ただ時期は決まっていませんでした」

    

しどろもどろになってしまったが、本当に思っていることを話した。楓さんは相変わらずの真顔で俺の目を見つめていた。俺の額から冷や汗が流れたところで、楓さんが沈黙を破った。


「国民のことを最優先にしないで、女のことばかり考えているなんて、内閣総理大臣としては全然だめですね。今までの功績を入れても50点くらいです」


確かに楓さんの言うとおりだ。何も言い返せない。しかし、むすっとしていた楓さんの表情が突然笑顔に変わった。


「けど、夫としては100点満点です。私も誠司さんと同じ気持ちですよ。誠司さんより重症なくらいです。何をしていても誠司さんに会いたいという言葉しか頭に思い浮かばないくらいです。私も総理大臣の妻としては0点です。だから、今回だけは私に嘘をついたことは許しますが、もう嘘は止めてください。それと、今度からはそういう大事なことは必ず最初に私に相談してください。良いですか?」


うわー、落としてから上げるやつだ!凄い救われた気がする!俺はこの先ずっとこの子の表情に一喜一憂しながら生きていくのかもしれない。


「はい、もう嘘はつきません。大事なことを決めるときは最初に楓さんに相談します」


「約束ですよ?もし、次に誠司さんに嘘をつかれたら悲しくて病気になってしまうかもしれません…」

    

客観的に考えたらめちゃくちゃ重たい女の子なのだが、美少女を目の前にして俺の脳がチンパンジー並になっているようで、そんな楓さんも可愛いと思ってしまう。わかっているんだ、これは若さ故の錯乱だということを…。しかし、知識としては理解しているはずなのに感情が抗えない。


「約束します。もう楓さんには嘘をつきません」


この約束は一生外れない首輪を着けられたようなものなのに、思わず約束してしまった。


「ありがございます。少しだけ安心しました。それではこれからのことについて話しましょうか。まずは入籍の日なんですけど、誠司さんの都合が合えば明日にしませんか?」


「俺は大丈夫ですよ!立場的に役所に自分で行ってしまうと担当者を驚かせてしまうかもしれないので、そこは内部で処理しますね」


まぁ、自分で出しに行けないこともないのだが、職員は皆俺のことを知っているだろうから、少し気まずい。


「はい。よろしくお願いします。それと、住むところなんですが…」


「住むところは官舎への引っ越しの準備ができるまでは当面皇居の敷地内にある俺の家になります」


「わかりました。えっと…、明日からお世話になります」


そう言って楓さんは三つ指を着いて頭をさげる。


「へっ?明日?明日から一緒に住むってことですか?」


楓さんが顔を上げてニッコリと微笑む。


「はいっ!明日から夫婦になるので、夫婦が一緒に住むのは当然ですよね?えっ、誠司さんは一緒に住むのが嫌ですか?」

    

そんな訳ないだろーーーーっ!!!と心の中では叫んでしまったが、平静を装って対応する。


「いえ、急な話だったので驚いただけです。楓さんが言うとおり、夫婦が一緒に住むのはごく当然のことですよね。明日からよろしくお願いします。でも、準備は間に合うんですか?」


「はい。家は燃えてしまい、今は母の実家に居候ですから、必要最低限の荷物しかないので、準備はすぐに間に合いますよ」


「そうでしたね。嫌なことを思い出させてすみませんでした。それじゃあ、楓さん一人で皇居に入るのは色々と手続が面倒なので、明日はお義兄さんに迎えに行ってもらいます。お昼くらいに行くようにお願いしますので、家で待っていてください。俺は19時くらいには家に帰れると思います。それと、うちには女性が使うようなものが何もないので、これで準備して下さい」

    

そう言って俺は封筒に入れた100円を楓さんに渡した。100円と言っても1942年の100円を現代の価値に換算すると約10万円位になる。ややこしい話だが、俺達がこちらの世界に来てから日本は未曾有の好景気が続いており、インフレ傾向にあるため物価が上昇したので、本来の1942年の100円の価値よりも若干下がっているはずだ。ちなみに米10kgで4円くらいなので、現代の米10kgがだいたい4,000円位として、現代の物価の約1,000分の1と考えると分かりやすいかもしれない。


「ありがとうございます。お申し出は有り難いのですが、父から準備のお金は預かっておりますので、ご心配には及びません」


確かに木村陸将の俸給は陸軍ではトップで、手当を除いた基本給だけで月額500円以上ある。金に困っていることはないだろう。


「そうでしたか、でもこれからは夫婦になるので遠慮はしないでくださいね」


「ありがとうございます。では、さっそく明日の準備を始めますので、今日はこれから母と買い物に行きたいと思います」


「そうですね、俺も今日はこのあと家の準備をしておきます」


「あの、もし掃除なら私が明日やるので気にしないでください」


「いえ、掃除や片付けは定期的にお手伝いさんがやってくれているので問題ないのですが、宮内庁に話しをしておかなければいけないので」


「そういうことでしたか、それならよろしくお願いします」


二人で料亭を出てから楓さんを家まで送り、そのまま皇居に戻ってすぐに楓さんが明日から住めるように手続を済ませた。総理といえども、宮内庁は行政府とは別の組織にしたので、何かと許可申請をしなければいけない。ちなみに現在は陸軍近衛師団は陸軍の指揮系統からは完全に分離して、天皇直轄の近衛軍として新たに設立したため、こちらも総理大臣や陸軍大臣から指示を出すことはできない。ただ、規模が小さいため武器弾薬の補給については陸軍が請け負う形となっている。


一度自宅に戻り、家の中を見渡してみるが、見事になにもない。俺が住んでいる家の間取りは木造1階建の3DKで、炬燵と座布団二組しか置いていない居間と、簡易な机と椅子が一組だけ置いてあるだけのほとんど使ったことがない書斎、布団が一組とクローゼットしかない寝室、一度も使用したことがない台所。誰かに誘われたとき以外で朝食は食べないし、昼は必ず有力団体や大企業の代表を総理官邸に招待して食事をすることにしているし、夜はだいたい他国の要人との会食やパーティーに参加しているか、予定がないときは園田未来研究会の誰かしらと食事をしているので、食事を作る必要がない。なので、自分から休みの日に料理をしようと思わない限りは、システムキッチン等は無い時代なので、面倒なので台所を使ってみようとも思わない。そもそも元の時代の頃にしても、一度だけ炊飯器でご飯を炊いてみたが、洗うのが面倒だったので自炊は一度しかしていない。


今気が付いたけど俺の家って何もないよな…。

流石に殺風景過ぎて楓さんをこんな家に迎えて良いのか心配になってきた。いや、駄目だと思う。小物類は恐らく用意してくると思うんだが、タンスやベッド等が無いことは想定し

ていないだろう。焼失する前の木村邸は洋風な内装だったから、布団ではなくたぶんベッドを使っていたと思う。これはすぐに懇意にしているデパートの外商部に電話をする必要がある。


デパートの商外部に電話で注文をした2時間後には、担当者がトラックで家具を届けてくれた。出前感覚でデパートから家具が届くとは、流石は商外部としか言いようがない。今回届けてもらったのは、タンス、本棚、食器棚、セミダブルのベッドを2つだった。電話で商外部の担当者に事情を説明すると、最低限必要そうなものをとりあえず届けて、もし必要ないものがあったら、引き揚げるので返品してくださいとのことだった。至れり尽くせりのサービスである。金額はだいたい5,000円くらいだった。大金ではあるが、1つ1つがドイツからから輸入した高級家具なので、妥当な金額だろう。今日買ったことが分かると楓さんに怒られるような気がするから、前から持っていたことにしよう。いや、また嘘をついたらとんでもないことになる気がするから聞かれたら正直に答えよう…。

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