24.ナチスドイツ最高幹部会議
1942年4月30日10:00 ドイツ第三帝国 ベルリン 総統官邸
総統官邸の閣僚会議室にはナチス最高幹部がアイザック以外の全員が集まっていた。アイザックが閣僚会議室に入室すると全員が椅子から立ち上がり、一斉にナチス式の敬礼をする。
アイザックが自分の席の前で立ち止まり、ナチス式の敬礼を返してから席に着くと、立ち上がっていた最高幹部も全員席に着いた。エルマ・ヘス副総統が一人立ち上がり、今回の閣議の説明を始める。
「本日の閣議は既にここに集まっている方々にはお伝えしたように、原子爆弾の実験成功による今後の戦略について改めて確認するためであります。まずはお手元にお配りした資料に記載してあるとおり、アメリカ・イギリス連合軍とのイギリス本土での戦いは膠着状態になりつつあります。このままでは消耗戦になり、資源量で勝るアメリカに有利に動くことは明白です。そこで、原子爆弾開発の目的であります重爆撃機によるアメリカ本土の爆撃計画を始動いたします。今回の閣議の目的は原子爆弾完成の報告と、もう一つは原子爆弾投下目標を決定するためであります。それではゲーリング防空大臣、投下目標の候補地について説明をお願いします」
ゲーリング防空大臣こと藤井が立ち上がり、説明を始める。
「今回、生産した原子爆弾ですが、以降は通称レッシェンと呼ぶこととする。レッシェンの威力はTNT換算で約15kt、熱量は22兆ジュール、爆心地の表面温度は数万度に達し、爆心地から2km以内にある建物はほとんど倒壊し人間も生き残ることはできないだろう。まずは今回の実験を映像で見ていただくのが一番早いだろう。映像を再生してくれ」
会議室の照明が落とされプロジェクターから壁に映像が映し出される。映像には地中海のマオン島の実験場が映っており、レッシェンの起爆と同時に爆風が広がり、元々あった建物や木々、実験用に設置してあったマネキン等が爆風によりバラバラになる映像だった。別の視点で島から離れた海上で撮影された映像では、一瞬画面が強い閃光により真っ白になったあと、雲より高い位置まできのこ雲が上がっている映像が映し出され、映像を見ていた最高幹部達はみな息を殺して食い入るように映像を見ていた。約5分間の映像が終わり、部屋に明かりが戻ると最高幹部達からはスタンディングオベーションが起こり、「素晴らしい」等の称賛の言葉が上がった。拍手が収まったところで、藤井が再び説明を続ける。
「ご覧のとおり、レッシェンはすでに爆弾の域を超え、戦略兵器となっている。前線の敵部隊に使用するには破壊力が強すぎるゆえ、必然的に攻撃目標は都市となる。仮に戦争前のロンドン市街で使用した場合は40万から50万人が7日以内に死に至ると試算している」
最高幹部達からどよめきが起こるが藤井は話しを続ける。
「ただし、レッシェンは濃縮ウランを大量に使うため、今回製造できたのは4発だけに留まった。なお、ウランの使用量が少ないより効率的で強力な原子爆弾の研究は現在も続いている。そして、次の製造が可能になるまですべてのレッシェンを使用するわけにはいかないので、今回の作成で運用可能な数は3発だ。そこで、敵の隙を突くために3都市の同時攻撃を予定している。なお、すでに目標の1都市は決まっている。その1か所の目標は総統命令により私と空軍の将軍数名と実行部隊しか知らない。実行部隊については作戦当日に伝えられる段取りとなっている。さらに今回の作戦にはHo 229Aを改良した Ho 233Xを予定しており、航続距離や搭載重量、巡航速度、ステルス性能において現在空軍で最も信頼できる最新鋭爆撃機を使用する。そこで、本題に移るが、残り2発のレッシェンの投下目標を今回の会議で決めたい。ついては、こちらの候補の一覧をご覧いただきたい」
スクリーンに6都市の都市名と人口の一覧が映し出された。映し出された候補はニューヨーク、フィラデルフィア、ワシントン、ボストン、ニューポートニューズ、ノーフォークの6都市だった。
「まずは候補に選んだ理由をニューヨークから簡単に説明する。こちらは言うまでもなく、アメリカ最大の都市であり、アメリカの経済の中枢である。ニューヨークの都市機能が麻痺した場合のアメリカ経済全体の及ぼす影響は途方もないものであることは明白である。次にフィラデルフィアはアメリカ東海岸第2の人口を誇る都市で、ニューヨークと同様に海に面しているため爆撃機をアメリカ本土の内陸に侵入させる必要がないため、内陸を攻撃するより敵の哨戒網にかかる可能性が下がるので候補に入れた。次のワシントンは、ここは言うまでもないがアメリカの政治の中枢で、うまくいけばルーズベルト大統領やトルーマン副大統領、議員の大部分を同時に殺害ができ、アメリカの指揮系統がしばらく麻痺し、アメリカ国民の戦意を挫くには最も効果があると考えられる。次のボストンはフィラデルフィアと同様の理由だ。ニューポートニューズはアメリカ最大の造船所がある都市で、現在アメリカが建造中の空母や巡洋艦等を完成前に破壊できることや、この造船所が消滅した場合、アメリカは向こう5年間は正規空母の建造に着手できないだろう。次のノーフォークにはアメリカ最大の海軍基地があり、現在、大西洋艦隊はほぼイギリスに集結しているため、停泊中の艦艇は多くはないが、アメリカ海軍の司令部があるため、今後の大西洋におけるアメリカ海軍の運用に大きな変更を余儀なくされることだろう。どの目標も攻撃が成功すればアメリカの継戦能力を大幅に削ることができるので、皆さんの意見を伺いたい次第である」
人類の運命を左右する重要な決断であることを皆理解し、午前中から始まった会議は昼食を挟み、夜8時まで続いた。
最終的にはニューヨーク、ニューポートニューズの組み合わせかニューヨーク、ワシントンの組み合わせによる多数決となり、目標はニューヨークとニューポートニューズに決まった。また、同日に陽動作戦としてボストンとフィラデルフィアに対して通常兵器を搭載した重爆撃機メッサーシュミットMe 264の大編隊による爆撃をすることが決まり最高幹部会議が終了した。
それから数日後、空軍内でスケジュール調整を行い、作戦決行日は約一か月後の1942年5月27日に決定した。なお、この日は元の世界てばゲシュタポの長官ラインハルト・ハイドリヒがプラハで暗殺者部隊による襲撃を受けた日であるが、最高幹部全員がベルリンに召集させることになったため 難を逃れることができたのである。




