16.皇居の地下通路探検
1942年1月2日10:30 大日本帝国 東京市 皇居 宮内庁庁舎
俺が知っているだけでも皇居には地下通路に繋がる入り口が2つある。1つは悠斗が住んでいる御所の天皇のプライベートな居住エリアの中と、もう1つは宮内庁庁舎の中にある。皇居自体が江戸城の跡地に建設されているため、もしかしたら俺らが知っている他に幕府が作った地下空間等があるかもしれない。だけど、大々的な調査をしている余裕もなかったため未だ発見には至っていない。把握している二つの通路については、前に悠斗に教えてもらったから入り口の場所は知ってはいたが、中に入るのは今回が初めてだ。通路には電気が通っているらしいが、念のため懐中電灯と、秘密通路ということで襲われる心配はないが、護衛を付けずに行動するので念のため拳銃(トカレフTT-33)を持参してきた。ちなみに、木村三佐は絶望的に射撃のセンスがない。撃ってもほとんど当たらないので普段から軍刀を装備している。もっとも、木村三佐は軍人であるが戦闘職種ではないので、銃を撃つ機会自体がないのだが。ただ、今回のような狭い通路のようなところでは跳弾の危険があるので発砲ができないため、もし戦闘をするなら軍刀を装備してきた方が正しいとは思う。では、軍刀の扱いが上手いのかと言われると、そういうことでもない。残念ながら剣道の腕前は並み以下。おそらく総合的な戦闘力としては俺よりもかなり低いと思うが、本人は張り切って護衛を務めようとしているので、彼のやる気に水を差さないよう黙って任せることにしている。
宮内庁の職員に通路の電気を点けてもらい、俺たちは通路に足を踏み入れた。
通路はコンクリートで舗装され、壁と天井は白く塗装されている。2m間隔で昼白色の照明が並んいるため、想像していた地下通路のイメージよりもずっと明るかった。広さは幅約2m、高さも約2m程度で、軽自動車がギリギリ1台通れるくらいはあるため、二人で並んで歩いてもまだ余裕がある。首相官邸や新宿御苑に繋がっているとか、秘密の地下鉄があって立川まで繋がっているとか、元の世界では都市伝説のようになっていたが、少なくともこの世界では都市伝説ではなく皇居の中には実際に秘密の地下通路があった。ただ、元の世界の都市伝説には戦時中や戦後に作られたという噂のものもあるから数は少ないかもしれない。
通路は緩やかにカーブしているため、先がどこまであるか分からないが、明かりが点いているいるので歩きやすい。
「この通路はどこに続いているんだろうな」
「えっ、閣下も知らないんですか?」
「うん。宮内庁の職員も秘密が漏洩する危険性があるからって、管理をしてる担当者以外は、脱出通路があることは知っているけど、どこに繋がっているか全ては把握していないらしい」
天皇や一部の皇族は知っているとのことだが、皇太子のうちに引き継がれるため、こちらの世界に来た時には既に天皇だった悠斗は、なんの引き継ぎも受けていなかった。他の皇族から能力を使って聞くこともできたが、この通路を使うような事態を想定していないため、特に急いで調査する必要もなかったので今まで放っておいた。でも、よく考えたら、スパイやテロリストがこの通路を使う可能性もあるし、通路の中がどうなってるのかは知っておいた方が良いと思う。
真っ直ぐな何もない通路を20分程歩いたところで鉄のドアを見つけたが、『〇〇室』のような親切な表示はなく、何の記載もされていなかった。地下通路はまだ先に続いている。いくつか出口があるということだろうか。
「とりあえずこのドアから出てみようか」
「はい!私が先に行きます!」
宮内庁から預かってきた鍵を使ってドアを開くとコンクリートの螺旋階段になっており、二人で階段を上がっていくと無人の駅のホームに繋がっていた。壁に掛けられている現在地の地図を見たところ、東京メトロ銀座線の神田駅と東京駅の間に非公開の迂回路があって、その迂回路の先にこのホームがあるようだ。なお、元の世界ではこの時期は既に中国と戦争をしながら、太平洋戦争に突入しており、地下鉄に回せる資材や作業員が絶望的に不足していたため、新たな路線の開通がなかったが、俺たちが来たこっちの世界の日本では現在どこの国とも戦争をしておらず、陸軍の規模を大幅に縮小したため、多くの人的、物的資源が日本に集まってきている。そのため、元の世界では1959年に開通するはずの丸の内線の池袋から新宿間が既に開業しており、他にも複数本の路線の開通が急ピッチで進められている。
「なるほど、地下鉄の秘密ホームに繋がっているのか。これなら非常時に地上に出ずに電車で避難できるってことなのかな」
「そうですね、東京が空爆された場合は安全な移動手段が地下鉄だけになりますから、これなら空爆の中でも安全に避難できますね」
「さすがに皇居の真下に駅を作るわけにもいかないから、ここまで通路を延ばしたってとこかな」
そういえば、俺が元の時代であまり調べていなかっただけで、実際はあったのかもしれないが、この時期には既に東京の地下には地下鉄が張り巡らされているにも関わらず、東京大空襲や各地の空襲で地下鉄のホーム等に市民が避難したという話を俺は聞いたことがない。首都の防災に関して言えば、この時代にはまだ立川広域防災基地も建設されていないようだから、あまり大規模な計画はないのかもしれない。これは今後の首都防災計画について急いで見直す必要がありそうだ。まぁ、あと少なくとも80年は首都で大きな地震はないから、地震の対策に関しては、兵庫や福島・宮城などを優先するべきだが。
「よし、じゃあさっきの通路に戻って、もう少し奥まで進んでみようか。正月くらいこういう息抜きも良いだろ?」
「はい!何だか楽しくなってきました!」
秘密のホームを後にし、螺旋階段を下りて元の通路に戻りさらに奥へと進むこと約10分。またドアを見つけた。今度も木村三佐がドアを開けて先に部屋へと侵入したが、部屋の中は電気が点いていなかったので懐中電灯を点けて電気のスイッチを探した。スイッチはドアを入ってすぐ右の壁にあったから、明かりを点けてみると何もないコンクリートの部屋に奥へと続く金属製のドアが一つだけあった。
「ここには何も無いようだな。」
「さっきとは違って上に登る階段はありませんね。奥の部屋に行ってみましょうか」
先ほどよりも一回り大きくて分厚く重たい金属のドアを開け、木村三佐が先導して部屋に入る。そこには天井ギリギリまでの門があった。天井も門の高さに合わせて今までの部屋より高くなっている。
「これって・・・、あっ、中雀門って書いてありますね・・・」
「もしかして、江戸城の中雀門なのか?」
「私も本物は見たことがありませんが、ここにあるということはそういうことなのかと思います」
「関東大震災で焼失したって聞いてたけど、復元したものなのか、実は焼失してなくてここに移したものなのか、そもそも誰が何の目的でここに持ってきたのか・・・。」
「えぇ、私も焼失したと伺ってましたけど、こんなところにあるとは思いませんでした」
「まさかとは思うけど、この門の先が江戸城ってことはないよな?」
「中雀門は江戸城本丸に入るための最後の門でしたから、もしこの先にあるとしたら本丸ということになる可能性もありますね」
「おいおい、さすがにこの先に江戸城本丸があったら怖過ぎるだろ。とりあえず開けてみるか・・・」
「閣下、これ以上は我々二人では危険です。いったん上に戻ってどうするか検討しましょう」
「ん~、この先が見たい!でも、本当に江戸城だとしたら、泥棒対策のトラップがある可能性もあるしな…。仕方ない、いったん戻るか…」
木村三佐の言うとおり、とりあえず自宅に戻って今後のことを考えることにした。この件が解決するまでしばらくは木村三佐もここに泊まることになったので、一度着替え等を取りに陸軍の宿舎に戻っていった。
秘密の駅を見つけたところまでは良かったが、とんでもないものを発見してしまった。あまりにも異常なものが見つかったので、このまま見なかったことにしようとも考えたが、皇居の下にある得体のしれないものを放置することもできず、かと言って皇居の安全上この通路の存在を公にすることもできない。ましてや報道の自由が約束されている我が国で、メディアに知られたら間違いなく報道され、皇居の脱出ルートを変更する必要が出てくる。いや、そもそもあんなものが見つかった時点でこの脱出ルートは放棄してでも、公にするべきなのではないだろうか。何れにしても俺の独断では決めかねるから悠斗と翔に報告する必要があるだろう。
『グループチャット』
『グループチャットが繋がりました。』
システムのアナウンスの声が流れる。
『二人とも今チャット大丈夫?』
『僕は少しなら大丈夫だよ。翔は?』
『俺も彼女の実家やさかい少しだけやったらオッケー』
正月だから二人とも忙しいのだろう。悠斗は天皇だから色々祭事もあるだろうし、翔は婚約者の実家に行くと言っていた。
『ありがとう。じゃあ、手短に話すけど、さっきうちの部下と一緒に皇居の地下通路の探検に行ったんだけど、ちょっと想定外のヤバいものが見つかったから相談したい』
『なにそれ、めっちゃおもろそう。俺も悠斗に聞いてたから、いつか行ってみようと思うてたんやけど、なかなか行けなんだからな~』
『それで、何を見つけたの?』
『俺らが見たのは江戸城の中雀門だけなんだけど、俺の予想だとたぶん門の先には江戸城の本丸がある』
『えーっ!嘘やろ?だって江戸城の本丸って、火事とか地震でなくなっちゃってんなぁ?なんで皇居の地下にあんのん?悠斗はなにも聞いてへんの?』
『俺もうちの下にそんなのがあるなんて聞いたことなったなぁ』
『あ~、やっぱり悠斗も聞いてなかったのか。それでさ、このままって訳にも行かないだろ?だけど、大々的に調査するには場所が悪すぎる。それで、どうするかって皆の意見を聞きたいんだ』
『ん~、うちの海軍特務隊やったら外に漏らすことはないけど、海軍とか陸軍つこたらまずいのかな?』
『軍事というよりは文化的な調査ということになりそうだから、軍は今回の調査には向かないんじゃないかな?』
『それならさ、普通に文部科学省と帝国大学に共同調査の依頼を出して、特に問題なければ公表しちゃっても良いんじゃないかな?皇居には脱出通路は他にもあるから、皇居側の入り口を埋めちゃって、脱出用のホームを江戸城駅とかにして観光スポットにでもしちゃおうよ。』
『流石は悠斗!天皇が言うなら大丈夫だな。やっぱりおまえらに相談して良かったわ。じゃあ、正月開けたら早速調査始めるから閣僚への報告と、文部科学大臣に調査指示出しとくわ』
『何かわかったら教えてね』
『おっけー』




