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14.独身男達の年越し

1941年12月30日 大日本帝国 東京市 皇居


霞が関では官民総出で対応に追われた総理官邸及び陸軍省襲撃事件の処理がようやくひと段落した。数日は各所への対応に忙殺され悠斗と翔に連絡もできていなかったから、事件の報告をするために3人で食事をしている。

今日のメニューは俺の要望で、ハンバーガーとポテトフライ、コカ・コーラというジャンクなラインナップになっている。中でも2年振りのコカ・コーラの味はとても懐かしく感じた。アメリカの輸出規制が緩和されて個人的には1番嬉しかったのがコカ・コーラかもしれない。元の世界にいた頃はほぼ毎日飲んでいたほどコーラが好きなのだ。


「じゃあ、誠司は今回裏で絵を描いたのはアメリカじゃなくて、藤井先輩とアイザックのナチスドイツだって言うの?」


「ん~、まだ確信はないんだけどさ、アメリカにとっては今更日本と戦争するメリットは少ないし、中国もまだ不安定な国内の処理に追われていて、日本の支援が必要だからメリットはない。もちろん小川先輩のソ連だって、せっかく日本との貿易で景気が良いのに、わざわざ日本と関係を悪くすることにメリットはない。満州を手に入れたとのと同時に悲願の不凍港も手に入れたしな。イギリスにしてもナチスとの決戦に備えて、既に日本とアメリカに分散して企業や資産を避難させているから、逆に日本が参戦することのデメリットの方が大きい。そこで、日本とアメリカが戦争をしてメリットがある国って考えるとアメリカの戦力を少しでも分散させておきたいナチスしか思いつかないんだよな。今回、菊池連隊が使ってた装備の中に一部米軍のものが混ざっていたのも、アメリカが背後にいると思わせる偽装っぽいよな。」


「でも、まだ推測だけで確証はないんやろ?」


「まぁな。ただ、国家安全情報局が、菊池の弟がテロの前からドイツ大使館に出入りしていたって情報を掴んでいるんだよな。たぶん、菊池の弟がドイツとの連絡役を担っていたんだと思うんだけど」


「なるほどね」


2個目のハンバーガーを食べていた翔が、手を止めて鞄から資料を取り出した。


「実は最近海軍では、米海軍とナチスについての情報交換を始めてんけど、今朝、在日アメリカ大使館の駐留海軍武官が俺のとこにこれ持ってきたで」


翔が取り出した資料のタイトルは英語で【12.24東京市テロ事件についての報告書】と書かれている。報告書には、香港上海銀行のナチス高官の個人口座の取引明細が添付されており、その口座から真田元中佐の個人口座に多額の資金を振り込んだ取引が記載されていた。


「よくアメリカがここまでの情報をくれたな」


「もちろんただちゃう思うで。なんかしらこっちの情報も渡さなあかん」


アメリカは自分たちの潔白を示すこともできて、日本に恩も売れるので独自で調査していたらしい。


「これはもうほぼ黒だな。明らかに協定違反になるけど、どうする?」


「こうなったら直接なんでこんなんしたのか聞いてみたらええんちゃう?悠斗はどう思う?」


「そうだね、せっかくチャット使えるし聞いてみようか」


 そもそも友達ということもあり、話し合いで解決できればベストだと思うので、3人一致で直接聞いてみようということになった。俺から個別チャットで藤井先輩にコールしてみたが、応答しなかった。次にアイザックの方にもコールをしてみたが、こちらも俺からの個別チャットに応じることはなった。試しに悠斗と翔からもコールをしたけで応答しなかったので、意図的に応答しない可能性が高い。3人で何度もコールし続けたらついに『このIDは相手の要請によりブロックされました』とアナウンスが流れるようになった。3人とも藤井先輩とアイザックにチャットをブロックされてしまった。


「あ~、こらマズいなぁ。あいつら都合悪なってバックレる気やでこれ」


「でも、ユダヤ政策についてはお互い合意のうえで、日本が全ユダヤ人の帰化希望者を引き受けるってことになったから、あの二人も納得してると思うんだ。僕らがこれまでナチスの敵対国に対しての武器輸出とか、ナチス占領地域からのユダヤ人以外の亡命者の受け入れとか、定例会議のときもあんまり良い反応を示してなかったから、元々僕らと敵対するつもりだったのかもね」


「確かに最近はあまり自慢話とかもせずに、必要事項の報告だけで素っ気なく終わってたよな。でもさ、俺らも色々やってたってことで、今回は一回だけ見逃して報復はしないって方向でどうかな?」


「賛成」「異議なし」と悠斗と翔も俺の提案に乗ってくれて、今回は報復はしないで、正月明けにでも小川先輩にアイザックたちとの関係修復のために、間に入ってもらうことが決まって今日のミーティングはお開きとなった。


 大晦日と正月は悠斗も翔も家族や婚約者と過ごすとのことだったので、独身で実家が火事でなくなったため予定のない木村三佐と同じく予定のない陸軍の若手将校3人の合計5人でむさ苦しい年越しをすることになった。大晦日は警備の問題があるから、皇居内の俺の家ですきやきを食べながらしこたま酒を飲んだ。夜中には明治神宮で初詣をすると言って皇居から出ようとする俺を木村三佐に必死で止められたのでなくなく諦めた。結局5人で朝方まで飲んだ挙句、二日酔いとなり元旦は初詣にも行かずに寝て過ごす羽目になった。

 2日目には若手将校3人は自分の寮に帰ることになり、焼けて帰る家がない木村三佐だけが残った。二人で炬燵からほとんど出ずに雑煮を食べたり、みかんを食べたりしながら本を読んだりとダラダラ過ごしていた。年末に起きたテロ事件のせいで、年末年始の祝賀会等のスケジュールがすべて中止になり、護衛中隊も交代で休暇を取っているため、急な警備計画の変更に対応できず、明治神宮に初詣に行きたいと思っても皇居を簡単に出られないため、今年の正月は皇居内で過ごすしかないのだ。


 元の世界だったら、1月2日といえば毎年姉に荷物持ちとして新宿や渋谷に連れられて初売りの列に並ぶのが恒例行事となっていた。この世界に来る前の最後の正月には、同じ日に並びたい店が2つあるからと言って、姉とは別に女の子ばっかり並んでいる列に男一人で並んで、肩身の狭い思いをしたのを思い出した。元の世界にはオリジナルの俺がいるから、きっと今年も姉と初売りに並んでいるのだろう。姉は元気だろうか。この時代にはまだ姉は産まれてきてもいない。弟使いの荒い姉だったが、一生会えないと思うと寂しい気持ちになってしまう。せめて姉が産まれてくる時代の日本が、元の世界と同じように平和な時代時代であって欲しいと願う。

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