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01.プロローグ

2025年8月15日 日本国 東京都


 昨年末に発売されてから数回のアップデートを経ているが、半年以上経ってもなお勢いが衰えることのない、第二次世界大戦を舞台にしたFPSゲーム『バトル・オブ・エネミー・ライン』。

 俺は、このゲーム(B.O.E.L)に大学のサークルで知り合った仲間と一緒にβテストから参加している。これまでに費やした時間は、1000時間を超えている。俺よりも上手いプレイヤーがたくさんいるため、自分で言うことに抵抗はあるが、俺はこのゲームではランキング上位のグループ、所謂ガチ勢の括りに入っているだろう。

 B.O.E.Lのキャンペーンモードは、アメリカ海兵隊視点で始まる太平洋戦線と、アメリカ陸軍視点から始まる西部戦線の2種類がある。太平洋戦線は、大日本帝国海軍によるパールハーバー攻撃のオープニングから始まり、アメリカ軍によるフィリピン奪還、ガダルカナル島攻略、硫黄島攻略と歴史通りに進んでいく。最終ステージである沖縄攻略戦のあと、広島と長崎に原爆投下から日本のポツダム宣言受諾までのエンディングとなる。

 日本人の俺からすると、ガダルカナル島や沖縄で、追い詰められて銃剣突撃してくる日本兵を撃たなければいけないのはゲームとはいえ気持ちの良いものではない。俺たちの爺さんや親せきを撃っているかもしれないと考えてしまうので、とても日本兵を撃つ気にはなれないのだ。だから俺は西部戦線の方はクリアしたが、太平洋戦線の方には手を付けていなかった。

 オンラインでのマルチプレイモードでは、アメリカ軍、イギリス軍、ソ連軍等の連合国に対して、日本軍、ドイツ軍、イタリア軍の枢軸国側でプレイすることもできる。

 マルチモードは、1チーム最大6人の分隊が編成できて、ステージの規模に応じて6対6の小規模戦闘から、60対60の大規模戦闘まで楽しむことができる。

 今は人生で一番無駄なことに時間を使える、大学生活2年目の夏休みである。夕方からは、いつものFPSメンバー6人のフルパーティーでログインする予定だった。しかし、約束の時間になっても3人しか集まっていなかった。遅れて来る3人は遅刻の常習犯なので、いつも通り先に集まっている3人は、全員がログインするまでの間に60対60の大規模戦に参加しながら、時間を潰すことにした。

 先にログインしていた俺と悠斗、翔の3人は日本軍サイドで参加した。しばらくしてから、遅れてログインしたアイザックと3年生の藤井先輩は、日本軍サイドが満員だったのでドイツ軍サイドで参加。最後にログインした3年生の小川先輩は、一人でソ連軍サイドに参加した。

 ちなみにアイザックはニックネームではなく、お父さんがドイツ人でお母さんが日本人のハーフだ。

 ほとんどのFPSゲームでもそうであるように、このB.O.L.Eでもボイスチャットでの会話が可能で、フレンド登録をしているメンバーとグループを作って、グループ内だけでのボイスチャットも可能だ。

 フルパーティーで挑むランクマッチのときのような、殺伐とした雰囲気ではなく、初心者が多く集まるカジュアルマッチに、野良で参戦していたので、フレンドチャットではサークルの話やバイトの話をしながら、だらだらプレイしていた。

 B.O.L.Eでは、メインウェポンとして、ショットガンを使用しているプレイヤーは少ない。でも、俺はヘッドショットじゃなくても一撃で相手を倒せるので、メインウェポンとして好んでショットガンを使っている。

 ショットガンは、アサルトライフルなど、他の武器が相手では近距離戦での撃ち合いでほと撃ち負けることはほとんどない。一方で、ショットガン同士の場合だとエイム(敵に照準を合わせる)のスピード、正確さが、勝負の決め手になる。俺はショットガンが相手でも、だいたい撃ち勝てるレベルまで練習したのだが、ID:i_am_a_shotgunというプレイヤーには、正面から撃ち合ったときに一度も勝ったことがなかった。奴はおそらくプロゲーマーか1日中ゲームばっかりやっている廃人プレイヤーのどちらかだが、毎回負けるのは悔しい。リベンジをしたくて、いつもID:i_am_a_shotgunがいるサーバにログインしているが、

 このセッションでは残念ながら同じ勢力になっていたので、戦うことができなかった。奴が味方にいると獲物を先に取られてしまうので、相対的にこちらのキル数が減る。敵にしても味方にしても俺にとっては迷惑は存在だ。


「悠斗、次のセッションどうする?」

3年の先輩達がいないときは、翔がいつも決まって悠斗に次の行動を聞く。

「この時間なら回線も軽いし、台湾サーバの人数が多いから台湾サーバでいいかな。」

悠斗は俺たち1年生4人の中では、リーダー的な存在で、次の行動方針を決めるのはだいたい悠斗の役目だ。

「おっけ、じゃあフレンドチャットでアイザック達にも言っとくわ。」

「たのむわ~。」


 このマッチでの戦闘が終盤に差し掛かかり、日本軍サイドが有利なまま終わりそうな状況で、ボイスチャットから聞き覚えのないおじさんの声が聞こえた。


『みなさん、上手いですね~。みなさんの実力なら他のゲームでも活躍できそうです。もっとリアルな戦争ゲームがあるのですが、試してみたくありませんか?』


「あ?キモっ!誰だよこいつ!全体チャット機能って実装してたんだっけ?」

藤井先輩は今日はだいぶイラついているようだ。いきなりボイスチャットの相手に噛みついてしまった。俺たちの間に気まずい空気が流れないように、悠斗が間を置かずに応える。

「いえ、全体チャットでのボイスチャットはできないはずですよ。」


「じゃあ誰がこのID:yamamoto56ってやつ、フレンドに入れたの?」


 よく見ると、フレンド一覧に見覚えのない「yamamoto56」というIDが、追加されていた。

 ヘッドホンから舌打ちが聞こえてきた。藤井先輩細がまたキレそうだ。この人は普段は後輩の面倒見が良くて優しいのだが、常人の半分くらいの沸点の低さで、キレやすいのが欠点だ。

 このサークルに1年生と3年生しかいないのは、4年生は就活で引退したのだが、俺たちが入る前に辞めた2年生は、全員でサークルの飲み会に遅刻してきたときに、藤井先輩にキレられて、その場で全員辞めたらしい。


「おぉ、気がつかなかったな。しかも、連合艦隊司令長官でしょ。山本五十六閣下を招待したのは誰だ?」

小川先輩は、こういうイレギュラーなことが結構好きなので、楽しんでいるようだ。ちなみに藤井先輩が辞めた2年生にキレたときも、一人で小川先輩を煽って喜んでいたらしい。俺は小川先輩はサイコパスかもしれないと密かに思っている。


 閣下に八つ当たりするのはいいとしても、藤井先輩がこれ以上ヒートアップすると、機嫌が戻るまでゲームに付き合わなきゃいけなくなるので、早くこのおじさんを、フレンドから外さなければならない。

「すみません、ヤマモトさん。これ普段はメンバー限定でロック掛けているフレンドグループなので、申し訳ないんですけど、メンバーから外しますね。」


俺はメニュー画面のグループ設定から、yamamoto56のIDを外そうとしたけど、エラーメッセージがポップされるだけで、フレンドグループから外すことができない。


「ん?なんかエラー出て外せないんだけど、アイザックもやってみてくれない?」

「いいよー・・・。あれっ・・・、僕もできないみたい。不具合のお知らせも出てないし。もしかしてなんだけど、別ゲームのPR担当の人なんじゃないの?」

俺だけが外せないといと思ったけど、アイザックからも外せないし、非公開のグループチャットに参加できる権限を持っているので、翔の言うとおり、もしかしたら本当にB.O.E.Lの運営の関係かもしれない。

アイザックの言うとおりPR担当かもしれないが、違反行為を行ったときに、運営から直接注意されることがあるらしいので、もしかしたらグループの誰かが、違反行為をしたという可能性もある。さすがにここまで育てたアカウントが、誰かの違反行為のせいで凍結されるのは、勘弁してもらいたい。


『そんなところですね。さっきの話ですけど、みなさんで新しい戦略シミュレーションゲームのクローズテストに参加してもらえませんか?』


「あぁ、そういうこと。戦略シミュレーションか~。ん~・・・、あんま得意じゃないけどクローズテストは興味あるかな。」

おっ、さっきまでイラついていた藤井先輩がこの怪しげな勧誘に興味を持ったようだ。


「俺は戦略も好きだぜ!せっかくだし参加しようぜ!」

小川先輩は戦略シュミレーション好きだから食いつくと思った。何回か太平洋戦争が舞台の艦隊戦略シュミレーションを勧められたことがあった。俺は断ったけど、翔は一時期結構ハマってたみたいだ。


「いいっすね!クローズテストなんて一般人普通参加できないし、すげー貴重だから参加しましょう!ストリーミングはOKですか?」


『ありがとうございます。ただ、クローズなのでストリーミングはご遠慮ください。』


「それもそうか。あっ、せやけど、みんなもやるみたいなんで俺も参加はしたいです。」


 やはり翔も乗り気だ。俺は若干怪しいなとは思っていたけど、他のみんなは乗り気なので仕方なく付き合うことにした。


 全員がクローズテストへの参加を承諾したところで、急にゲームをしてたPCのモニターがブラックアウトした。回線が落ちたのかと思ったが、みんなの声が聞こえてるからボイチャは繋がったままになっているみたいだ。

なんだろう、原因を調べようといったんPCを再起動しようとしたところで、急に視界が真っ暗になり意識が遠のいていった・・・。

      

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