高校生、そして・・・編.1
中等部の戦いから、良い作戦の思いつかないまま時が過ぎていった。あの悍ましい画像をもう一度見せたら、流石に父の気持ちも冷めるのでは無いかと思い、唆してみたが、母も流石にと思っているのか見せようとしなかった。
それくらいしかチャンスが無いと思い、寝ている間に指を借りてスマホの指紋認証を解除ーー探してみたが、あの画像は既に消されており、いよいよ攻め手が無くなった。
しかし、気持ちは相変わらずだ。ここまで来ると何故、私はここまで父親離れが出来ないのだろうか?と疑問さえ感じるが、考えても原因は解らなかった。
まあ、あの悍ましいポーズで煽ってきた母を見て、負けたくないという気持ちが強まったのは事実だ。
まずは大学の法学部を卒業し、法律を変える為に動くーー未だラブラブの両親の仲を引き裂くのはその後でも構わない。
そうと決まれば、私がすべきは勉強だ。と、机に向かう日々を過ごしていた私は、高校3年生の夏休みに入った頃、唐突に母に呼び出された。
「そちらから勝負をしかけてくるとはな・・・しかし、勉強の邪魔など、みみっちいことをーー「雛乃。雛乃はまだお父さんを諦めてないの?」
珍しく真面目な声色に、私は軽口を飲み込んだ。真剣な瞳に真っ直ぐ、見つめられて思わず視線を逸らす。
「簡単に諦められたら、ここまで頑張らないさ。胡座を掻いていられるのも今の内だ」
「そう・・・あのね。雛乃。確かにあんたのファザコンっぷりには大概、困り果ててるけど、私は雛乃のことを大切に想っているわ。お父さんのことは譲れないけど、心から幸せになって欲しいと思ってる。それは解る?」
「・・・解ってるよ」
父のことが絡むと敵対してしまうものの、別に母と仲が悪い訳ではない。寧ろ、一緒に服を買いに行ったりするくらいには仲が良いのだ。
しかし、それでも、おかしいとは解っていても、私は異性として父のことが好きだ。
思春期を迎え、周りとは違う異常なこの気持ちが消えてくれれば良いのに・・・と願ったことは一度や二度ではない。
でも、消えないから、こうして戦っていた。付き合わされている母の気持ちを思えば、申し訳無く思う気持ちだってある。
だが、大人になるに連れて、複雑な思いに変わろうとも、やはり、好きなまま、ここまできたーーそれが私の気持ちだった。
「でも、好きなんだもん。お父さんのこと。私だって、お母さんを困らせたい訳じゃないんだけど。気持ちが消えなくて・・・」
「・・・解った。でも、雛乃がまともな道を進む為にも、諦めてもらわないとね。私もお父さんと別れる気無いから」
そう言いながら、母は一枚の封筒を取り出した。見せるかどうか迷ったのか、一瞬、胸の前で中身に目をやった後、私の前に差し出した。
無言ながらも見るように促す仕草を見せる彼女に、私は内心、首を傾げながらも封筒を手に取ると中身を取り出しーー。
「・・・えっ?」
「雛乃なら今から自分の道を探しても間に合うでしょう。ーーお姉さんになるのだから、しっかりしなさい」