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「あ・か・りちゅわ〜ん♪お・は・な・ししましょ〜♪」
「・・・まだ、諦めてなかったの?そこに驚きを隠せないのだけど・・・」
ニマニマとした頬の緩みを隠せない私に、母は驚愕の表情を浮かべた。
「ふっふっふ・・・血縁?法律?そんなものは私の想いの前では何の障害にもならんのだよ。なにせ法律は私が変えるのだからな!!その為に学業に力を入れていると言っても過言ではない!!」
「そんな理由で学年1位キープしていたの?母はある意味、尊敬します・・・」
信じられないと頭を押さえる母に「愛の力は偉大なのだよ!!留まることを知らないのだ!!」と、鼻高々に告げた。
「というか、そんな理由なら勉強しなくてもいいし、何なら学校辞めた方があんたのためになると思うのだけど・・・」
「あかりはおかしなことを言うな?学校を辞めて私の為になることがあるわけないだろう?・・・まあいい、これを見よ!!」
「スマホ?あんたのスマホに何がーーッ!?」
驚愕の表情を浮かべるあかりに私は勝利を確信する。この画像を見せれば、いくら母大好きな父でもドン引きするに違いない。
「あんた・・・これ何処で見つけてきたの?」
「コレか?コレはなぁ、私の友達の母に協力してもらったのだよ。昔、母のギャル友だったと聞いてな?因みに友達の名前は永吉 秋穂という」
「永吉ーーなるほど。瑞希の娘と友達になったのね・・・アイツ、面白がって余計なことを・・・」
溜め息を吐きながら、やれやれと頭を振るあかりに私は「どうだ、この黒歴史の数々!!清楚美人の化けの皮、剥いでやったぞ!!」と画像フォルダを叩きつけた。
母の中高時代のギャル友にして、現役モデルの秋吉 瑞希ーー彼女は現在のあかりの画像を見て大爆笑。ギャル友時代の画像を見せて欲しいと告げると嬉々として送ってくれた。
赤、白、青と変化する髪に数多のカラコンで七変化する見た目にウチラ、ズッ友みたいな文言の数々ーー現在は清楚系美人に擬態しているあかりからすれば、これ程、痛い黒歴史はないだろう。
「・・・それであんた、コレどうするつもりなの?」
動揺からか言葉が崩れ始めている母に、私は頬を緩めながら嬉々として告げる。
「勿論、父と共にあの大画面テレビで鑑賞会をするのだよ。清楚美人が大好きな父のことだ。今のあかりの姿が擬態と知れば、きっとその気持ちも冷めてーー「私に対する精神攻撃としては有効だけど、これどうぞ」
勝確だと喜び、嬉々として語る私の前に母はスッと自らのスマホを差し出した。
「あかりのスマホ?あかりのスマホに何が入ってーーッ!?」
そこに映し出されていたのは白ベースにカビみたいな色の斑を入れた髪、鼻に輪っかのピアスをつけ、ダブルピースをし、愉悦の表情で真珠ピアス付きの舌を垂らす、あかりの姿があった。
因みに文言はトリミングで途切れているが、恐らく『ウチラ最強!!』である。隣の永吉母の姿も途切れているものの、やはり、ピースをしている指が見えているので似たような状態なのだろう。
「な、なんと悍ましいーー」
「悍ましい言うな。別にギャルだったことを隠して付き合ってた訳じゃないから。それ見せた上で、お父さんと結婚したの。だから、お父さんにそれ見せたって意味ないのよ・・・私がメンタル的にキツイだけで」
永吉母から貰った数々の黒歴史画像が吹き飛ぶレベルのその画像に、私は驚き慄く。いや、しかし、流石にこれはーー。
「お母さん。流石にこれはお母さんじゃないよね?あまりにも信じられないから、ちょっと、この画像と同じポーズをーー「スマホ構えんな。するわけないじゃないの。馬鹿言ってないで宿題でもやってきなさい」
その日の夜、帰ってきたお父さんに、私はなんでギャルだったお母さんと結婚したのかを聞いてみた。好みのタイプと違うし、何よりあの悍ましい姿を見ても尚、気持ちが変わらなかった理由を知りたかったのだ。
「そりゃあ、好きになったからだよ。その好きな人が自分の為に変わってくれたなんて聞いたら、更に好きになるに決まってるじゃないか」
爽やかに告げ、TVに視線を戻す父に「そう言われたら、確かにそうだね」と答えた私は、何だか背筋に悪寒を感じて振り返る。
そこには、あの画像と全く同じポーズで勝ち誇り、此方を見下ろす母、あかりの姿があった。