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ウチ、永吉 秋穂は芸能一家に産まれた。母親がモデルをやっていることに影響を受けて、ウチも読者モデルをやっている。
最近、ウチが気になっているのは友達のひなっちだ。ウチ自身、容姿には結構自信があったのだが、ひなっちは一線を画したバランスの容姿をしていて、悔しいという気にもならないレベルだ。
是非ともスカウトとかを受けてもらって、一緒にモデル活動とかしたいんだけど、本人に全くその気がなく、しののん曰く、国を変えたいと思って勉強を頑張っているらしいので今は諦めている。
でも、もし心変わりしたら、速攻で誘いたいと思っているので世間話をしながら、様子を探っているというのが現状だ。
さて、そんなひなっちの気になる点はそれだけではない。中学2年生ともなれば、恋バナの1つや2つあっても良いものだろうと思うのだが、全く出てこない。
ウチみたいに事務所から極力無しとか言われているならば、まだ解るけど、理由を聞けば、「お父さんを超える人じゃなきゃ嫌」だそうだ。
ぶっちゃけ少し引いたし、マジで言ってるのか疑ったが、しののんも「見たらわかる」みたいに言うし・・・とりあえず、保留することにした。
というか、別に私がどうこういう問題でも無いんだけど、折角、あんだけ綺麗なんだし、学生生活を楽しんだ方がいいと思うのは事実だ。
そんな友達心から、ついつい口を出したくなる今日この頃だった。
「ねぇ、あの人誰?めっちゃかっこいいんだけど・・・」
「本当、本当!誰かのお兄さんかな?」
下校時刻になり、下駄箱を出ると何だか周りが騒がしい。来客用の駐車場の前に人集りが出来ている。主に女生徒の集まりで口々に「イケメン!」「かっこいい!」と騒がれていた。
何だか面白そうだと思ったウチが近付くと、運転席で困惑する様な表情を浮かべていた男性はパァと表情を輝かせーー。
「あ、君は永吉さんだね!助かったよ!」
「へ?ウチ・・・?ひゃ!」
ウチは思わず、声を裏返らせた。近付いて来たのは、この人が道を歩いていたら、10人のスカウトが10人必ず声をかけるであろう爽やかイケメンだったからだ。
「突然、声をかけて済まなかったね。いつも話は聞いてるよ」
そして、甘い低音ボイスである。顔とのギャップに頭がクラクラしてきた。
「い、いえ、大丈夫でしゅ・・・ウチに何かようでしゅか・・・」
見た目とは裏腹に何処となく香る大人の色香に、ウチの顔が熱くなってきた。二度も噛んだし、イケメンさんも心配そうな表情を浮かべーー。
「ああ、いや、中々娘が出てこないものだから困っていたんだ。そしたら、お友達を見つけたものだから・・・それにしても、君大丈夫かい?顔も赤いし、何だか呂律も回ってないし」
そう言って、顔を近づけ、熱を測ろうとしているのか、手を近づけてきたイケメンさんにドギマギしながら、ウチは瞳を潤ませる。
ヤバいヤバいヤバい、何か大事なこと言って様な気がするけど、全然頭に入ってこなかった。ていうか、顔近い、す、吸い込まれそーー。
「お父さん!ごめん!日直の活動で遅くなっちゃった!・・・秋穂ちゃん?」
ハッとして振り返れば、そこには冷え切った瞳を向けながら笑う、ひなっちの姿があった。
「ああ、あかりん所の康太君でしょ?」
「え?ママ、知ってんの?」
「知ってるも何もあかりとは中高ギャル友だったから。モデルし始めてからは仕事忙しくて会わなくなったけどーー、お互い結婚もしたし。康太君、2個下だっけ?めっちゃ人気だったよ」
煙草代わりの棒付きキャンディを咥えながら、「まあ、私はイケオジ派だから興味なかったけど」とスマホを弄る。
「・・・なんかさ、あんだけイケメンなのに何で芸能関係行かなかったんだろ?って。ウチの周りもキャーキャー言ってたし?」
「確か、スカウトきたけど断ったんじゃなかったっけ?お金無いし、アルバイト禁止とかで。あんまり詳しくは知らないけど」
「そうなんだ・・・」
思わず、大きな溜め息が漏れた。せめて、若い時にアイドルとかしてくれてたら、推し活とかで消化できたのにーー。
とりあえず、考えても仕方がないので、宿題でもしようとウチは自分の部屋へと向かうーー。
「秋穂」
「・・・なに?」
黒髪ショートカットに気怠げな瞳。お母さんはスマホの画面を見ながらーー。
「人の男は辞めときな。男ってのは手に入れた女を簡単に手放したりしないから。口でなんて言おうと一番になることはないし。大体、康太君みたいなタイプは相手が死んでも一途みたいなーー「わ、わかってるし!!言われなくても!!お母さんの馬鹿!!」
「・・・解ってないから言ってんだけど」
荒く閉められた扉を見つめながら呟いた。思春期を迎え、人の恋バナにキャーキャー言ってたと思ったら、本人は相当面倒な方向に行ったもんだ。
(まあ、秋穂なら大丈夫か。大分、奥手なタイプだし)
見た目は派手だが、肝っ玉はちんまりな娘だ。そんなマズイことにはならんだろうーー。