中学校編.1
あの敗北から3年が経った。母が嘘を吐いている可能性を加味して、お小遣いでこっそりDNA鑑定をしてみたが、結果は同じーー正真正銘の親子である。
しかし、私の気持ちは変わらなかった。冷静になって考えてみれば、元々親子の可能性が高いからと法律を変えようと思っていた訳だから、方向性が定まっただけだと言えよう。
大人しくなった私を見て母はホッと一息ついているようだが、甘いな。私は諦めた訳ではない。目下の目標は未だラブラブな父と母の仲を冷めさせること。
清楚美人に擬態している母の化けの皮を剥いで、父にガッカリさせることが出来れば、まだ可能性はあると思うのだが・・・中々尻尾を出さない。擬態歴が長いだけのことはある。
今日も今日とて私はそんなことを考えながら、中学校に向かうのだった。
「よっす〜!ひなっち!今日も元気丸〜?」
「御機嫌よう、秋穂ちゃん。今日も朝から元気だね」
彼女は永吉 秋穂。中等部に上がってからの友達であり、ギャルだ。何でも両親がモデル・芸能関係に勤めているそうで本人も読者モデルをやっている。
「てか、ひなっちさ、恋バナしようよ〜!好きな人とかいないの〜!」
そして、やたら他人の恋バナが好き系女子でもあった。一言二言目には恋バナが始まるのだ。
「好きな人かぁ。居ないかなぁ。まずは、お父さんを超える人じゃないと」
流石の私でも好きな人は実の父親とは言えない。それに、もし、父を超える人が現れたら好きになるかもしれないというのも嘘じゃない。
「え〜、ひなっちファザコン?折角綺麗なのに勿体ないよ〜、この学校なら凄い人もイケメンもよりどりみどりじゃん!」
確かに良い所の子供達が通う私立の一貫校のため、高スペックな男子も多い。しかし、残念なことに私の心は父に奪われたままなのだ。
「あら、雛乃と永吉さん。御機嫌よう」
「あ、しののん!おはよ〜!ねぇ、しののんさぁ、ひなっちったら、お父さん超える人じゃないと付き合わないとか言ってるんだけど、勿体なくない?折角綺麗なのにさぁ」
「・・・ああ、雛乃のお父様の話ですか」
恋バナしようと思ったら、その話になったの!と納得いかない様子の秋穂に、志乃は何とも言い難い表情を浮かべーー。
「好みは人それぞれですが、お父様があのスペックですとハードルが上がるのも仕方ないと思いますよ?一度、会ってみれば良いかと」
「えっ?マジ?でも、ほら、家も芸能一家だしぃ?母親モデルだから、結構、顔面偏差値については厳しいよ?まぁ、確かにひなっちは凄いけど、お父さんは一般人なんでしょ?」
確かに父は現在、社長をしているが彼女のいう公人ーー芸能関係などで働いた事はない。そういう意味では一般人で間違いないだろう。
「秋穂ちゃんの言う通り一般人だよ。小さな清掃会社の社長はしてるけど、この学校の父親の中では割と普通だしね」
「だよね~。まあ、でも、しののんも会ってみたらいいって言ってるし、ハードル上がって仕方ないかどうかは一回見てから判断するね!」
ニカッと笑う彼女に「ありがとう」と笑い返し、3人で教室に向かう。
(そういえば、今日は午後からの予定無いから迎えに行くって、お父さん言ってた気がするけど、まあ、別に無理に会わせる必要もないし、言わなくて良いか・・・)