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私の父、恋咲 康太はスペックが高い。しかし、自分に全く自信がない。
一人親で経済的に恵まれず、幼い頃から新聞配達をしなくてはならない家庭環境にあったせいか、高校を卒業して直ぐに就職しているが、仕事有り、塾無しで成績はトップクラスだったことを思えば、地頭は良かったのだろう。
だが、そういう話になると特待生になれる程ではなかったから・・・と本人は微妙な表情を浮かべていた。
身長もそこそこ高く、顔も爽やか系イケメンなのだが、本人曰く学生時代は全くモテなかったそうで恋愛経験もほぼないそうだ。
どうも父の友人達の話ではあまりに忙しそうにしていたから、声がかけれなかっただけで想いを寄せていた子は結構いたらしいが、本人は「慰めはいいよ。それに今はあかりがいるしね」と信じてない様子。
そういった環境の恵まれなさ、運の無さから自分は大したことがない思っているのが、父、恋咲 康太という人間だ。
それはさておき、現在の父はといえば、小さいながら清掃会社の社長だ。
最初に入った会社でコツコツと貯金をしながら、中古の家を買って、車のローンを払い、退職を期に独立ーー堅実に利益を上げ何不自由無く暮らしている。
ただただタイミングが噛み合っただけなのだろうが、全てが上手くいくようになったのは母と結婚してかららしく、父は母を女神のように思い、大切にしているのだ・・・運の良い奴め。
「雛乃ちゃん、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、志乃ちゃん。どうしたの?」
幼稚園からの親友である志乃に話しかけられ、私は一旦父のことを考えるのを止めた。因みに彼女は大企業の御令嬢らしいが詳しくは知らない。私立の一貫校に通っているので、そういう産まれの子はわりといる。
「雛乃ちゃん、そろそろ誕生日でしょう?プレゼントは何が良いのかなと思いまして・・・」
モジモジとしながら訪ねてくる彼女に私は頭を悩ませる。志乃はとても良い子で、本当に仲良しなのだが、一般常識とズレているところがある。
ここで、もし私が「島が欲しい」と言えば、専属の執事とやらに頼んで明日には島の所有権に関する書類などを持ってくることだろう。
そのくらいズレているので下手なことが言えないのがネックな娘ーーしかし、それ以外は凡そ完璧超人だ。
さておき、そもそも今のところ、欲しい物はない。私が欲しいのは父の心くらいだ。だから、誕生日プレゼントと言われて思いつく物が無く、志乃ちゃんから貰えるなら何でも良いよ。何でも嬉しい、と答えようと考えてーー。
「あ、最近、小説で婚姻届とか離婚届とか出てくるでしょ?私、あれの実物見てみたいと思ってるのだけど、両親には頼みづらくて・・・志乃ちゃんでも難しいよね?」