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エピローグ〜新たな相手〜

 高校卒業と共に海外の名門大学への留学を決めた私はモデル活動と並行しながら、理工学の分野へと足を踏み入れた。法律に縛られなくなった今、最先端の技術に身を投じるのが、一番、面白そうだと感じたからだ。


 妊婦となった母には悪いと思ったが、物理的な距離を置かなくては、自分自身が耐えられないーーその想いを母も汲んでくれたようだ。


 但し、学費や生活費等は一切、迷惑を掛けない形にしているし、母の負担が軽減出来るようにベビーシッターを雇い、その費用も私が負担している。


 私は俗に言う「損しない美人」だ。自分が見目に優れていることを自覚した上で立ち回っている。今までは父を落とす為にそれをフル活用していたが、現在は自分の生活を豊かにする為にフル活用している。


 モデル活動にSNSの投稿で莫大なフォロワー数を集め、スポンサー契約を勝ち取り、学校でもある程度チヤホヤされながら、面倒くさい相手は適当に流すーーそんな感じである。


 志乃や秋穂の協力もあって、住むところにも困らず、仕事にも困らず、モデル後の人生もちゃんと大学を卒業出来れば困ることはないだろう。


 全てが順風満帆ーーだが、心は満たされぬままだった。


 父に対する恋愛感情は薄れたといっても過言ではない。好きは好きだが、やはり、物理的距離を取り、忙しく過ごしていたのが良かったと思う。だが、新たな相手が見つかるかと言えば、中々、そうも上手くいかないものだ。


 スペック、見た目、何を取っても父親を上回る人にも出会えた。それはモデルの仕事の際も、留学先での出会いもそうだ。


 だけど、心が動かなかった。それが現実だ。恋とは不思議なものだと思わされた海外留学だった。


 そうして、忙しさを良い訳に実家には帰らぬ日々を過ごし、大学4年生となった頃、進路の関係で両親と話し合う必要が出てきた為、私は遂に実家に帰ることにしたのだ。


「久しぶりの実家だなぁ」


 空港からバスを乗り継ぎ、久々に帰った実家はこじんまりとして見えた。海外の名門大学ともなれば、友人の殆どが富裕層だ。どうも、私の感覚はズレてきているようだった。


 もう少し、お金を稼いだらリフォーム費用を出しても良いかもしれないと思った。築年数を考えれば、どちらにせよ、必要になるだろうし、私の立場上、家族のセキュリティ面も心配だ。


 扉の前に立ち、インターホンを押すと母が出て「鍵は開けているから入ってなさい」とのこと。シャワーの途中だったらしい。


 わたしが多少の申し訳無さを感じながら、扉を開けるとーー。




「おねえちゃん、だれ?」





 そこには信じられない程、可愛い生命体が立っていた。キラキラと目を輝かせ、此方を見つめる様は正に天使といっても過言ではない。


 父と母の良い所を受け継いだ非の打ち所がない見た目ーー純粋無垢な表情に私は心が揺れ動くのを感じていた。


「こんにちは。私はあなたのお姉さんの雛乃だよ。自己紹介出来るかな?」


「はい!恋咲(こいさき) 裕翔(ゆうと)!3さい!はじめまして!ひなのおねえちゃん!」


「・・・よくできました」


 と言いながら、私はハンカチで鼻を押さえた。いかんいかん、中々の破壊力でやられる所だった。


「ひなのおねえちゃんは、きょうからおうちでくらすの?」


「ごめんね。裕翔。おねえちゃんは海外で暮らしてるから一緒に暮らせないんだ」


「ええ〜、そんなぁ~」


 しゅんとしている姿に内心悶えながら、私は屈み込み、目線の高さを合わせーー。


「ねえ?裕翔。おねえちゃんも裕翔と一緒に暮らせないのは残念なの。だからさ、裕翔はおねえちゃんと一緒に暮らそうよ」


「えっ?おねえちゃんといっしょに?」


「そうそう。お父さん、お母さんとはテレビ電話で話すことになるけど、あっちのお家はプールもあるし、ジムもあって凄く楽しいよ?家のこともお手伝いさんがしてくれるからのんびり暮らせるし」


「えぇ〜!!プールあるの!!すごい!!ぼく、おねえちゃんとくらす!!」


「よし、決まりね!!じゃあ、おねえちゃんが抱っこしてあげるから、早速行こう!ーー「行こうじゃないから。お父さん諦めたと思ったら、弟誘拐するなんて・・・進路は好きにして良いからサッサと海外に帰りなさい」


 弟を抱き抱え、家を出ようとした所で母に見つかり、舌を打つ。


「嫌だよ。仕事はキャンセルして春休みの間はこっちに居るから。裕翔もおねえちゃんと一緒が良いもんね〜」


「ね〜!!」


 抱き抱えた裕翔に満面の笑みで問いかけると、何も知らない裕翔も満面の笑みで頷いた。


「・・・とりあえず、こっちに来なさい。雛乃。アンタとは色々と話し合わないとね」


「は〜い。とりあえず、実家のリフォームの話しようね。私もこっちに帰ってくるし」


「・・・日本に帰ってきても一人暮らししなさい」


「やだよ。裕翔も一緒が良いって言ってたもん。姉弟の仲を引き裂こうなんて酷い母親だなぁ」


 名門大学で教鞭を執るというオファーは、弟の笑顔に霞消えていった。私はやはり、仕事より恋の女だった。


 これからはファザコンを卒業し、ブラコンとして裕翔を愛でて生きていこうーーそう心に決めた雛乃であった。

 ということで雛乃の恋は狂気のブラコンエンドでした。きっと裕翔は成長していくに連れて、姉の異常な愛情に気付き、困惑していくこととなるでしょう。


 親友達も相変わらずのヤバ目な"推し活"をしながら、雛乃と交友関係を深めていくことになると思います。


 ということでノリと勢いで書いた『拝啓、お母様、お父様を下さい』は以上となります。


 最後にこれなら短編でよかったな、と思わないでもない結城 哲二でした。


 それではまた何処かで会いましょう。


 2025年5月31日 完結

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