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その後、星野は次のようなことを語った。


火星には、火星人が棲んでいる。

その生活についてなども、少し教えてもらったが、いまは割愛。とにかく、最近は地球から探査機がいくつも来てちょっと面倒ではあるが、それでも火星人たちは、いまも火星で、平和に暮らしている。


ちなみにさっきの瞬間移動以外にも、火星人の特殊な能力はいくつかある。だが、「ほんとはさっきのも、地球人の前で見せちゃダメだから……どうしてもりゅうちゃんが見たいって言うなら、いつか見せてあげるよ」だそうだ。

さっきの瞬間移動は、俺を信じさせるために、仕方なく見せたらしい。そしてこの部屋に入ってくるときのは、俺が離れていってしまうと思い、焦ってつい使ってしまったらしい。愛い奴め。


そして星野は、自分を、火星人たちの王族の、第一王位継承権を持つ王子だと言った。


火星人の技術は高いが、そうそう一般の火星人が他の惑星に行くことはできない。だが、王子には、多文化への理解を前提とした宇宙の恒久的平和実現のため、他の惑星への短期留学が義務づけられている。日本人が外国に留学して見聞を広めるのと、趣旨はまったく同じだ。

それで星野は地球に来たのだった。




「……というわけ」


「…………はあ」


「あ、信じてないでしょ!?なんなら、」「ほら!」「ほら!」


「……いや、いいから、それはわかったから、あんまりウロチョロすんな」



星野が室内のそこかしこに、パッパッと消えたり現れたりしてみせる。さっき「見せちゃダメ」とか言ってたんじゃないのかおまえは。

黙って聞いてはいたが、どうしても半信半疑ではある。星野の話はとにかく本当に不思議で、俺はやはりおちょくられているんじゃないかという疑念を完全には拭えない。

けれど、とにかくその顔がマジだということはわかった。


固定観念を大いに揺さぶられぼうっとしてしまっていたら、ふと星野が、俺の様子を窺うように見つめてきているのに気づいた。真面目そうな表情なのに、その頭には触角が生えている。

なんだか笑えた。



「……俺、おまえに、バカにされたと思って、すげーショックだったんだけど……違ったんだな。……ごめん」



本当に、さっきまでのいろいろはなんだったんだ。結局、俺が勝手に傷ついて、勝手に大騒ぎしてただけじゃないか。まあ、それも仕方ないような、かなりおかしな事態にはなっているけれど。

やっぱり星野は、星野だった。俺に嘘はつかない。俺の好きになった、星野だったんだ。

俺は苦笑するが、星野は頭を横に振った。つくしが揺れる。



「ううん……、俺が、俺の言い方が悪かった。俺が、びっくりして、テンパって、わけわかんない言い方したせいで、りゅうちゃん悲しませて、ほんとにごめん。

それでね…………あのね、俺もね、りゅうちゃんのこと、ずっと、す、好きだったよ」



星野は、俺の目をまっすぐ見つめ、唇を戦慄かせ声を上ずらせながら言った。

顔がずいぶん赤い。見てるこっちが心配になるくらい真っ赤っかだ。これを言うのに余程緊張しているのだと、見ただけでわかる。

だが、俺は思う。

こいつ、さっき泣き喚きすぎてえずきかけながら「りゅうちゃんのことだいすきいいい」と叫んでいたことを、覚えていないのか――と。

星野は続ける。



「でも、俺、いつか火星に帰らなきゃだめだから、付き合うとか、無理だと思ってた。

りゅうちゃんが告ってくれたときは、だから、すげーうれしかったけど、すげー焦った。断んなきゃと思って、でも心はめっちゃうれしいから、テンパって……。

りゅうちゃんが俺から離れるって言った時、俺、頭真っ白になった。そんなのすげー嫌だと思った。俺もりゅうちゃんみたいに、好きだって言って付き合っちゃえばよかったって。

ねえ、りゅうちゃん、俺、りゅうちゃんが好きだよ。マジで、すげー好き。笑った顔も、真面目なとこも。声も好き。低くて優しくて、ずっと聞いてたい。寝起きの声もいいよね。瞬間移動して、寝てるとこ襲いたいって、毎日思ってた。これからもずっと、隣で、一緒にいたい。おねがい。大好きだから、俺と付き合って!」



「……おまえ、マジ、ほんと、バカじゃねーの……」



バカの星野がべらべらと喋り終えた頃には、より顔が赤くなっていたのは、俺の方だった。



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