(3)
「……クソッ!」
俺はベッドカバーを殴りつけた。固めた拳がぼふんと吸い込まれる。ぼふん、ぼふんと何度も殴ってやった。何度も殴って、それでも気はすまなかったが、最後に大きく殴って、やめた。拳が震えているのを、睨みつける。
そのとき、こんこんこん、とまたドアがノックされた。
淳仁がもう帰って来たのか、と俺がドアに顔を向けた瞬間、ドアの外から、「りゅうちゃん」と小さな声が聞こえた。
体中の血が、逆巻いたような気がした。
凪いでいた感情がまた湧き立つ。頭の中にいろんな言葉が生まれて消える。信じらんねえ、ムカつく、なんでだよ、マジかよ、――信じてたのに。
「出てけ!!」
俺は反射的に叫んだ。
返って来たのは、そんな声聞いたことなかったというほど弱々しい、星野の声。
「……りゅうちゃん、ごめん」
「うるせぇ!もうお前なんか知らねー!もう話しかけてくんな!」
「りゅうちゃん……」
「出てけっつってんだろ!!」
手近にあった枕を、思い切りドアに投げつける。ガタンと大きく音が鳴った。
しばらく沈黙があった。
しかしそこに星野がいるのはわかっていた。何も言わず、そこに立っている。
本物の星野は何も言わないけれど、俺の頭の中には、さっき教室で言われた星野の言葉が、ずっと、何度も何度も、反響していた。
今日の放課後、俺は星野に告白した。
別に今日が特別な日だったわけじゃない。星野なら大丈夫だ、と思った日の、その翌日が、今日だったのだ。
放課後、少し喋っていたら、教室には俺たち以外誰もいなくなっていた。チャンスだと思った。寮に帰るため、帰り支度をする星野に、「俺、おまえのこと好きだ。恋人になってほしい」と俺は言った。
すると、星野は答えた。
――うーん、ごめんねぇ、俺、火星人の王子さまだから。
――いつか火星に帰らなきゃいけないから、りゅうちゃんとは、付き合えないかなぁ。ごめんね。
俺の隣で、帰るためにリュックを背負いながら、少し高い位置から俺を見下ろして、いつもどおりへらへらと、星野はそう言った。へらへらと。
最初、俺は何を言われたのか分からなかった。
次に、ものすごい衝撃が来た。こんな衝撃を受ける予定じゃなかった俺の心は、それをまともに食らって、心臓を急激に高鳴らせた。
息ができなくて、頭が混乱して、どうしようもなくてーー俺は、その場から逃走した。
それは、俺の星野への信頼を裏切り、俺の心をズバリと切り裂くのに、十分な言葉だった。
俺は信頼していたんだ、星野を。
星野なら、俺の告白を、茶化したり、ごまかしたり、しないって。同じ想いならすごくうれしいし、たとえそうでなくても、きっと誠実に断ってくれるって。そんでまた、友達として隣で、へらへらしてるって。
なのに。
かせいじん。おうじさま。
信じらんねえ。バカにしてる。星野ならそんなこと言わねーと思ってた。断るにしたって、きっと普通に、誠実に、言ってくれると思ってた。
信じてたのに、それなのに――