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星野は、今年はじめて同じクラスになった男だ。


手足が長くて薄べったい身体つきをしていて、いつもにこにこしている。というか、にやにやしている。顔立ちは整っている方だが、そのにやけ顔のためにそれを指摘されることはほとんど無い。愛想がよく、いつも人に囲まれていたから、俺は去年からあいつのことを知っていた。人気者だな、と思っていた。囲まれていると言っても、男子校だからみんな男だが。


俺はよくクソ真面目だと言われる。

自分ではわからないが、みんなが言うからそうなんだろう。委員長だなんだと昔からよく任されるし、それが嫌じゃなかった。友達はもちろんいるが星野の友達のような明るいチャラチャラした感じではない。

だから、俺は星野を知ってはいたが、それだけだった。世界と言うか、性格と言うか、種族というか、そういうものが違う。俺とは無関係の存在だった。


そんな俺と星野は、なぜだか同じクラスになったとたん、急速に仲良くなった。


初めに話したきっかけなんて覚えていない。ただ引き込まれるように、気が合った。感性が合った。傍にいるのが心地よくて、俺たちはいつもべったりと一緒にいるようになった。

飯も一緒、移動教室も一緒、休み時間も、休日も一緒。

そして俺たちは、確認しなくても、互いにそれがいやじゃない、というかそうしたいと思っているということを知っていた。


星野は、俺を「りゅうちゃん」と呼ぶ。


「俺、なんか、りゅうちゃんと最近会ったばっかな気ぃしないんだけど」


とたまに星野は笑った。

「たしかに、十年来の友人って言った方がしっくりくるな」と俺が言うと、「だよね!」と星野は頷いた。頷くと、ワックスでツンツンに立てた髪の毛が、風の日の木のように揺れた。


「俺さ、りゅうちゃんに会えてよかった」


そう言うこともあった。

俺はそれに、「そうだな」といつも答えていた。本当にそうだと思っていた。俺がそう答えると、星野は嬉しそうに笑った。

おまえら仲良いな、とクラスメートから言われながら、いつも俺と星野は一緒にいた。



ずっと、そのままでいられたら、よかったのかもしれない。

いつからかはわからない。きっと部屋の棚にうっすらと積もる埃のように、少しずつ少しずつ、変わって行っていたのだ。気付いたらもう、そうなっていた。

授業中にふと見えた星野の横顔、その輪郭を、指でたどりたいと思った。並んで飯を食いながら、無防備に置かれた手のひらを、握りたいと思った。会話中、笑みを浮かべる唇から目が離せなくなった。細い体躯を抱きしめたいと、思うようになってしまった。


俺は、星野を好きになってしまった。


男同士の恋愛に偏見があるわけじゃなかったが、自分がそうなるとは思っていなかったし、相手は星野だ。俺は大いに戸惑った。

でも、すぐに、ああ大丈夫か、と思うようになった。

だって星野だから。たとえばこの想いを伝えたとしたって、きっと、絶対、茶化したり、ごまかしたり、気まずそうにしたり、俺に悪いようにはしない。


だって、星野だから。




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