第5話 仮面の女性<エルタ視点>
<エルタ視点>
「ここで待っていてくれるか」
王都騎士団に連行され、僕は大きめの部屋に案内された。
「副団長が直に来られる。それまで自由にしていてくれ」
「は、はい……」
騎士団さんには、もう言われるがままに従うしかない。
だけど、椅子に腰を下ろしたところで違和感を覚えた。
「やけに豪華だなあ……」
周りは赤や金で装飾され、椅子はふかふか。
案内されたのは、まるで客人をもてなすような部屋だ。
尋問なんかをする雰囲気は全然ない。
「もしかして、本当に悪い様にはしないのかな」
ハラハラしていたけど、そう思うと少し落ち着く。
でも、今度は豪華すぎる部屋に別の意味で落ち着かない。
そんな風にソワソワしていると、部屋の扉が開いた。
「……君がエルタか」
「は、はい!」
冷徹な声に、思わず立ち上がってしまう。
入ってきたのは、仮面を被った人だった。
団員さんの口ぶりから、おそらく“副団長”さんなのだろう。
「ふむ」
「……うっ」
仮面の人はゆっくりと近寄ってくると、僕の至る所をじろじろと覗きながら周囲を回り始める。
それにこの人、多分女性だ。
低めだけど女性っぽい声の上、仮面からは長い金髪が出ている。
近づかれた時、少し香水の良い匂いもした。
なんとなく年齢も同じぐらいに思える。
緊張しながらも待っていると、彼女は三周したところで僕の正面に立った。
「貴様は何者だ!」
「な、なにものだと言われましても……」
「ふざけるなよ!」
「ひっ!」
そして、チャキっと剣を抜く素振りを見せた。
よく分からないけど、怒っているみたいだ。
迫真という風にも捉えられる。
「こんなことして……もし嘘なら、冗談では済まされないぞ!」
「すみません、本当に何のことだか……」
「ふっ、ならば趣向を変えるか」
そう言うと、彼女は人差し指をピンと立てた。
「ではクエスチョンワーン」
「え?」
そして、いきなりクイズが始まった。
「幼い頃、君が預けられていた場所は?」
「え、ステラ孤児院のこと?」
「……ほう、正解だ。ではツー」
あ、続く感じだ。
「幼い頃、そこで一番君と一緒にいた人物は?」
やけに“一番”が強調されて聞こえたけど、僕はなんとなく答える。
「えーと、妹のティナかなあ?」
「チッ、そいつがいたか」
「……?」
しかも、ティナも知っているみたい。
「ではラストだ!」
「は、はい」
「……すー、はー」
最後と意気込んだ割には深呼吸を挟みながら、彼女は若干不安げにたずねてきた。
「そ、その孤児院で君とよく一緒にいた、き、金髪の女の子を……お、覚えているかっ!」
「金髪?」
「……っ」
なぜか緊張してそうな彼女を横目に、少し考えてみる。
すると、自然と思い浮かぶ人物が一人だけいた。
「セリアのこと?」
「……!」
そう答えると同時に、ハラリと彼女の仮面が落ちる。
中から出てきた顔には、一筋の涙が流れていた。
「本当に、エル君だ……」
「え、もしかしてセリア?」
しかも、正体がそのセリアじゃないか。
「エル君っ!」
「うわっ!」
そしてそのまま、なんとも華麗な動きで飛びついて来る。
間違いない。
この感じは、同じ孤児院で育った幼馴染のセリアだ。
「エル君、エル君っ!」
サラサラの金髪は、昔よりかなり伸びた。
すごく美人になってるけど、どこか面影も残したままだ。
それにこの、ティナに負けず劣らずのタックルは相変わらずだった。
ちょっと胸辺りが苦しい気がするけど。
「ごめんね! 誰かのいたずらかと思って、試すようなことしちゃって!」
「あはは、気にしなくていいよ」
「それに覚えててくれてすごく嬉しい!」
「当たり前だよ」
同い年で仲良しだったセリアを忘れるわけがない。
と、そんな彼女を抑えるも、僕もさすがに聞きたいことがあった。
「セリア、王都騎士団に入ってるの? しかも副団長だって」
「そうだよ! ワタシ頑張ったんだから!」
先ほどまでとはまるで違う、明るい声。
こうして聞いてみれば、記憶のセリアと一致する。
そんな中──
「こほん」
「「……!」」
開いていた扉から僕たちの様子が見えたのか、団員さんがわざとしらく咳払いをした。
それに反応して、セリアはとっさに僕から離れる。
もう遅い気がするけど。
そうして、団員さんがニヤっとしながら口にした。
「副団長もそんなことをされるんですね」
「……っ! だ、黙れ!」
「失礼しました~」
そしてそのまま、律儀に扉を閉めて行った。
「くっ、なんたる失態……!」
「……ド、ドンマイ」
ガンっと机を叩いたセリアには、なんとなくそう声をかけておいた。
でも、今の会話を見てると気になることも出てくる。
「なんていうか、怖い感じにしてるの?」
「……ああ、王都騎士団は厳しいところなんだ。一刻も早く役職につくため、入団当初にこう振る舞うことに決めたんだ」
言う通り染みついているのか、セリアは副団長っぽい口調に戻ってる。
さっきのような昔の口調は、興奮することでなっちゃうのかな。
「すごいなあ、セリアも変わったね」
「……そ、そうだろうか」
「うん! でもどうして王都騎士団に? それに早く役職につきたかったって」
「……っ!」
なんとなくたずねると、セリアは顔を赤くしながら目を逸らす。
それから、横髪を耳にかけながら言葉にした。
「それは騎士団であのダンジョンへ行って君を助け……ごにょごにょ」
「へ?」
「はっ! 違う、違うんだ!」
だけど、口を尖らせて言ったことはうまく聞き取れなかった。
「と、とにかく、帰ってきてくれてよかったぞ」
「ありがとう。僕もセリアに会えて嬉しいよ!」
「~~~っ!」
セリアが嬉しそうな表情を浮かべてくれて、僕の心もぽかぽかする。
こうしてみんなに会えると、やっぱり帰って来てよかったと思えるなあ。
それから、セリアは忠告するかのように口にした。
「だが、団員の前ではなるべくエル君と呼ぶのを控えようと思う」
「え、うん」
「本当に心苦しいが許してくれ」
「いや別にいいけど……?」
そしてなぜか僕が許可する形になった。
僕がエル君と呼んでほしいと思っているのかな。
あれ、もしかして昔なんかそういう約束したっけ。
「では早速だが、今日の訓練終わりにどこか行かないか? 王都の美味しい店を知ってるんだ」
「あーごめん、今日はティナと約束があって」
「ティナだと! あいつめ……」
「え」
ティナの名前を出すと、セリカはなぜかムっとした顔を浮かべる。
おかしいな、二人は仲良しだったはずなのに。
けど、セリアも忙しいかもしれない。
ティナがセリアを断るのは想像できないし、僕はこのせっかくの機会に誘ってみることにした。
「三人でもいいなら、その美味しい店に行く?」
「……くっ、仕方ないか」
「りょ、了解」
ちょっと不安に思えるけど、放課後はセリアも来ることになった。
第一幼馴染ちゃんのセリアです。
感情の起伏が激しく、独占欲もちょっと強め?
普段はクールを装ってますが、エルタ君の前で興奮すると、昔の口調に戻ってしまうみたいですね!