最終話 最下層から帰還した少年
「お義母さん、王都は無事に守れました」
義母の墓の前で、エルタは両手を合わせた。
スカーの奇襲があってから、約一週間。
王都復興はまだ続いているが、想定より早く終わるそうだ。
これもエルタ達含め、王都を愛する者たちが体を張った結果である。
エルタの言葉には、一緒に来ていた四人が続く。
「騎士団共々、全員無事です」
「学院も被害はありませんでした」
「探索者ギルドも大丈夫です」
「友達も避難できていました」
奇襲を受けた王都だが、幸い死者は出なかった。
それもあり、彼女達はまだ明るい面持ちで報告する。
だが、前回のお墓参りとは一つ違う点があった。
「お花、あるね」
「うん」
五人が来る前から、すでに花が添えてあったのだ。
この意味は、誰もが理解している。
カルムが母の死を受け入れ、添えていったのだと。
つまり、ようやく彼が一歩前進できたということだ。
「じゃあカルムさん、会いにくればいいのに」
しかし、ティナの言う通り、カルムは未だ姿を見せない。
それには、優しい目を向けたジュラが答えた。
「そうもいかないのよ、ティナちゃん」
「え?」
「あっちの二人には、立場ってものがあるから」
チラりと目を向けたのは、隣のセリアとレオネだ。
「そうだな」
「うん、ちょっとね」
片や“王都騎士団”副団長、片や“王都エトワール学院”生徒会長だ。
そんな二人が、元凶とも言えるカルムと会っていたとなると、どうして捕まえないのかと問題になってしまう。
死者こそ出なかったものの、王都には破壊された場所もあり、敵側と顔を合わせる状態は難しいようだ。
「まあ、だよね」
エルタも仕方ないかといった顔で、空を見上げる。
同時に思い返すのは、最後の戦いの後のことだ。
────
「ねえ」
幼馴染全員の想いを乗せた拳──【絆の拳】を放ったエルタ。
それにより貫いた地下深くへと降り、声をかけた。
「生きてるでしょ」
「……なんとかな」
苦しそうに答えたのは、横たわっているカルムだ。
エルタに差し出された手を掴み、ゆっくりと起き上がると、一つ苦言をこぼす。
「ったく、容赦なしかよ」
「できないよ。君が強くて」
「フッ、そうかよ」
だが、完敗だと認めたからか、表情はどこか清々しく見える。
エルタに届きはしなかったが、全力を出し切ったからこそだろう。
そんなカルムに、エルタはもう一度たずねた。
「さっきも言ったこと、覚えてるよね」
「ん?」
「……とりゃっ」
エルタはじーっとカルムを見つめ、ボコっと頬を殴った。
「いてっ、何すんだてめえ!」
「悪い奴には一発殴るって言ったじゃん」
「にしても今かよ」
もちろん手加減はしている。
ほんのかすり傷ができる程度だ。
それから、エルタは真っ直ぐに見つめて続けた。
「悔しかったら、殴り返しに来てよ」
「……!」
男同士、孤児院時代はよく喧嘩もしていた。
喧嘩をするほど仲が良いというやつだ。
その時を思い出すかのような口ぶりである。
「もちろん罪を清算してからね」
「……フッ」
その証拠に、エルタの顔も晴れ晴れとしている。
「それから、いっぱい思い出話をしよう!」
「ったく」
対して、カルムが返す言葉は、みんながエルタに言っていることだ。
「お前は甘すぎる」
「あはは、よく言われる」
甘くて鈍くて、どこか抜けている。
でも、最後には頼りになる。
そんな昔から変わらないエルタを、カルムも改めて実感したようだ。
「行きなよ」
「……ああ」
そして、最後は手を貸さず、エルタはカルムを見送る。
二人とも理解しているのだ。
セリアやレオネのような立場のある者は、今のカルムと顔を合わせることができないということを。
しかし、エルタは再会を約束した。
「またね」
「フッ、またな」
そう言葉を交わし合うことで。
エルタとカルム。
かつての親友同士は道を違えた。
だが、その最後に向け合った表情は、いつまでも変わらない昔の二人のままだ。
そうして、よろよろと歩きながら、カルムは姿を消した──。
────
軽く回想を終え、エルタはいつもの笑顔で口にした。
「ま、いつか現れるんじゃない?」
それには、周りも表情を緩めてうなずいた。
「「「そうだね」」」
幼馴染同士、確信しているのだ。
いつかまた、みんなが気持ち良く再会できることを。
ならば、彼女らもまた自分の道を突き進むだけだ。
「じゃあ、帰ろっか」
同じ想いを胸に、エルタ達は墓を後にする。
きっと次に来るときは、もう一人増えていることだろう。
「それはそうとだな……」
「ん?」
そんな中、セリアがふと口を開く
「エル君、いつ騎士団に来てくれるんだ?」
「え?」
復興の手伝いをしていたからか、エルタは騎士団に顔を出せていなかった。
だが、それは学院でも同じのようで。
「エルタ、授業終わってから早く帰り過ぎ。たまには生徒会にも顔を出してよ!」
「ええ?」
レオネには生徒会所属のティナも続く。
「そうだよ、お兄ちゃん!」
「えええ?」
さらに、ジュラが甘い言葉で誘惑する。
「お姉さんとは、いつ二人っきりでダンジョンに行ってくれるのかな?」
「え、そんな約束してな──」
だが、ジュラの言葉には、三人も反応を示した。
「エル君、いつそんな約束を!?」
「いやいや……」
「エルタ、それどういうこと!?」
「だから、してな……」
「お兄ちゃん、なんでもしてくれるって約束は!?」
「あ、ああ……」
話がどんどんと膨らんでいく。
どうやらエルタは彼女達を待たせ過ぎたようだ。
「エル君~?」
「エルタ~?」
「エル~?」
「お兄ちゃん~?」
「いや、その……」
埒が明かなくなったエルタは、バッと背を向けた。
「に、逃げろ!」
「「「あーっ!」」」
何者にも恐れないエルタも、彼女達には敵わない。
いつもの引っ張りだこの様子が見られた。
だが、エルタの人気はそれだけにとどまらず。
逃げるように走る先で、よく知る人物たちとも会ってしまう。
「おお、エルタ殿! 筋トレについて相談が!」
「だ、団長さん!?」
「エルタさん! 副団長とはどうですか!」
「アジルさん、だからそれは違くて!」
「エルタさ~ん! 私にお仕置きしてくださ~い!」
「ビルゴ教頭、なんかもう格好がやばいです!」
また、そんな様子を、木の上からとある少年が眺めていた。
「相変わらずモテモテだな、エルタ」
だが、エルタは気づかなったようだ。
知り合いに加えて、追いかけてくる者が増えているからである。
「「「エルタさ~ん!」」」
「うわあああーーー!」
王都中の者に追いかけ回され、エルタは必死に駆け回る。
色々と巻き込まれる内に、エルタは王都に多大な影響を与えていたのだ。
今や王都一の人気者である。
「な、なんでこうなるのー!?」
彼は、ダンジョン最下層に落ちた少年──エルタ。
奇跡的に地上へ帰還するも、その身には最強の力を宿していた。
最下層で出会った最強種族との触れ合いによって。
結果、出世した幼馴染たちが放っておいてくれないのだ。
「僕はほそぼそと生きたいだけなのに~!」
こうして、今日もエルタは地上を騒がせるのであった──。
完
ご愛読ありがとうございました。
これにて本編は完結とさせていただきます!
ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます!
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いくつでも、頂けるだけですごく嬉しいです!(もちろん五つ頂けたら超嬉しい!)
この後に二本、SS (ショートストーリー)を載せますので、気になりましたら、そちらもよろしくお願いします!




