第18話 魔装の探索者
「なんだこれ」
とある日の朝。
エルタは家に届いていた郵便物を手に取る。
エルタが騎士団特別顧問になってから、少し。
ちょくちょく騎士団に顔を出しつつも、同じく本業の講師を続けていた。
そんな中、今日はどちらの仕事も無いようだ。
ちょうど暇していたタイミングだったため、エルタは早速郵便物を開ける。
「手紙かな?」
届いていたのは、案内の手紙だ。
手書きされた王都の地図と共に、『午後からここに来てほしい』との旨が書かれていた。
「ちょっと怪しいぞ……」
しかし、送り主のない手紙に、むむむと珍しく懐疑の目を向ける。
最近、ようやく地上での生き方をティナから指導されたようだ。
だが、ペラっともう一枚めくると、追記がされていた。
『追記:卵焼きも用意してます』
「よし行こう」
それを見た途端、疑いはあっさり晴れる。
そうして、エルタは書かれていた地図の場所に向け、すぐに出発したのだった。
「こんちはー」
地図に書かれていた建物に到着し、エルタは外から声をかける。
見た目は結構大きく、木造のおしゃれな拠点のようだ。
返事はないものの、鍵は開いている。
ならばと、エルタはそのまま扉を押した。
「あの──」
「だーれだっ!」
その瞬間、エルタは横から目を塞がれた。
声は高く、どこか安心を覚えるような女性のものだ。
「え、えっ!?」
「さて、私はだれでしょう!」
殺気は感じないため、エルタは抵抗しない。
だが、次には予想外のことを言い出す。
「ヒ、ヒント!」
「なんじゃそりゃ」
この時点でエルタの不正解みたいなものだが、女性は続けた。
「んーと、髪は赤色で、君の一つ上のお姉さんですっ」
「僕が知ってる人ですか?」
「もちろん!」
「そ、それなら……」
エルタはぼんやりと浮かんだ名前を口にした。
「もしかして、ジュラ?」
「……! だいせいかーい!」
すると、手はパッと離され、嬉し気な表情の少女が目の前に躍り出た。
彼女の名前は──『ジュラ』。
赤髪ショートで、毛先には少しピンクが入っている。
身長はエルタより少し低いが、周りの女性では一番高いだろう。
全体的に軽装であり、上は大きな胸を軽く隠す程度、下はショートパンツのため、太ももが見えている。
エルタと目が合ったジュラは、彼を頭からそっと包むように抱き寄せる。
「本当に、本当にエルなんだね……!」
「わわわっ」
エルタの顔が下に向けられことで、豊満な胸が目の前に来る。
さすがのエルタも少しドキっとしてしまったようだ。
ティナやセリアのような激しいダイブとは違った、ジュラらしい再会である。
「帰ってきてくれて良かった」
ジュラはこぼれそうになる涙を拭きながら、エルタをなでなでする。
完全に弟や子どもにするような仕草だが、どこか懐かしさを感じて、エルタも拒否はしなかった。
ジュラは「だーれだ」で名前を当ててもらうため、手紙に送り主を書かなかったようだ。
ティナあたりが、こっそり置いていたのだろう。
それから、少し恥ずかしくなってきたところで、エルタから離れた。
だが、浮かべているのは同じ表情だ。
「僕も“ジュラ姉”に会えて嬉しい」
「ははっ、君は変わらないなあ」
そうこうしたところで、ジュラは横へ目を向けた。
「そろそろ顔を上げてほしいなー、レオネ」
「うるさーい!」
奥のテーブルでは、レオネがずーんと項垂れていた。
また、同じテーブルの席には、ティナとセリアも座っている。
だが、二人は特に悲しそうな様子はない。
そんな様子に、エルタはピンと来てしまう。
(し、しまった……)
さっきのやり取りで、エルタはジュラを当てることができた。
つまり、四人の少女の中で、唯一レオネだけ当ててもらえなかったのだ。
悲しそうなレオネに、エルタはあわてて声をかける。
「レ、レオネは分からないぐらい綺麗になったからさ!」
「別にいいしー」
レオネはつーんとしながらも、若干顔を赤らめる。
だが、その言葉には周りも反応を示した。
「エル、お姉さんは?」
「お兄ちゃん! 私は!」
「一応ワタシも聞いておこう……」
この流れで、十年経った自分を褒めてほしいようだ。
対して、エルタは慎重に言葉を選ぶ。
「み、みんな綺麗になったよね!」
こうして、一つ年上の“お姉さん”ジュラと再会したのであった。
「それで、ジュラはここで何を? ……もぐもぐ」
少し落ち着いたところで、エルタが話を再開させた。
テーブルに用意された卵焼きを片手に。
「私は“探索者”をしてる。最近Sランクになったの」
「え、すっご!?」
「それとー」
立ち上がったジュラは、少し離れて剣を抜く。
そこに力を入れると、剣にぼおっと火が灯った。
「魔物を装備に生かす分野──“魔装”を研究してるんだ」
──『魔装』。
それはジュラが考案し、彼女自ら研究を進めている新しい概念だ。
ダンジョンには、人には真似できない能力を持った魔物がたくさん存在する。
例えば、火を灯す、凍らせる、飛ぶなど。
普通の人間では、まず不可能だろう。
だが、ジュラはそこに可能性を見出だした。
魔物の素材を使い、独自に改良することで、人間が同じ能力を発揮できるかもしれないと考えたのだ。
加えて、Sランク探索者と言えば、この国では数えるほどしかいない。
自ら装備を造り、自ら最前に立つ。
“魔装の探索者”ジュラ、彼女は今最も注目株の探索者である。
そんなジュラに、エルタは目を輝かせた。
「Sランク、魔装……すごいすごい!」
「あはは、正面から言われると照れるなあ」
顔を赤らめるが、ジュラはまんざらでもない表情だ。
だがその中で、一瞬だけ悲しげな表情を覗かせた。
「まあ、もっと恐ろしい技術も研究されてるみたいだけどね……」
「え?」
「あ、ごめんごめん。気にしないで」
しかし、ジュラはすぐに顔を取り繕い、話題を切り替えた。
「そういえばセリア、例の武器できたよ」
「……! 本当か!」
「うん、ここにね」
ジュラはアトリエの奥から、一本の剣を持ち出してくる。
見た目は、全体的に水色。
掴む手に影響はないが、刃は冷気を帯びているように感じる。
まさに“氷の騎士”セリアにぴったりな剣である。
「これが……!」
「そ。セリア専用の魔装だよ」
「すごい、助かる!」
そうしてセリアに手渡すと、ジュラはもう一つ武器を取り出した。
「で、こっちはレオネの」
「わたしのも! ありがとうジュラ……!」
黄緑色の、短めの剣が二つ。
これで一対になっているようだ。
この武器もレオネを考えて造られた、専用武器である。
どうやら二人は、ジュラに新武器を依頼していたようだ。
それを受け取ると、今度はセリアがたずねる。
「そういえば、対価を聞いていなかったが」
「そうだなあ」
普通ならば、お金で要求するところだ。
しかし、ジュラはなぜかエルタをちらりと覗き見た。
「ふふっ」
「え?」
それから、ニヤリとした顔でセリアに向き直る。
「さっき言ってた、“エルになんでもお願いする権利”ちょうだい」
「な、なに!?」
それは、エルタがセリアと再会した日に、エルタが口走った事である。
セリアはまだこの権利を使っていなかったのだ。
対して、思わず立ち上がるセリアだが、ジュラもこれは半分冗談。
本当に望むのは次の言葉だ。
「それが嫌なら、武器慣らしも兼ねて、久しぶりにお姉さんと勝負しようよ」
「……!」
すると、ジュラも武器を取り出す。
見た目の特殊さから、これも魔装武器だろう。
「勝った方がエルとデートできるなんて、どう?」
「ふっ、いいだろう!」
しかし、それにはもう一人が手を挙げた。
「待って! 聞き捨てならない!」
たった今、同じく専用武器を受け取ったレオネだ。
彼女もエルタを想う者として、学院の生徒会長として、ここは退けなかった。
ならばとジュラは提案を変える。
「じゃあ三人でやる?」
「「……!」」
セリア・レオネは目を見開くが、一瞬も戸惑わない。
エルタへの想い、そしてそれを胸に今まで培った己の力は、それぞれが一番だと思っている。
その十年間を証明するためにも、ここは退けなかった。
「良いだろう、ワタシは騎士団副団長として勝つ」
「わたしも生徒会長としては負けられないね」
こうして、急遽三人の勝負が決まった。
そんな中、エルタは空気を読んで声を出さずにいた。
だが、そろそろ我慢の限界だったのか、一言だけ言わせてほしかった。
「なんで?」
三人目の幼馴染は『魔装の探索者』ジュラちゃん!
エルタの一つ年上で、幼馴染では年長さんですね!
彼らの中でも“お姉さん”キャラのようです!
今後、過去の話も出てくるかも……?
今まではエルタ君が無双してるだけでしたが、ようやくヒロインバトル(物理)が開幕!
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