3-2 旦那様
紅悠が、ほっと安堵の笑みを浮かべる。
「良かった…!こちらのお料理のことは全く分からなかったので、とっても不安だったんです」
紅悠が言う間にも、律は他の皿に次々箸をつけ。
「龍族の料理より、薄味のものが多いんだな」
「もう少し濃い目の味付けの方が良いでしょうか?」
「…いや、その分素材の味が良く出ている。これはこれで美味い」
「本当ですか?では、お昼ごはんもそのままの味付けで作ってみますね」
紅悠の言葉に、律ははたと顔を上げた。
「…すまない、言っていなかったが、今日はこれから王宮に出てくる。昼食は向こうでとるから、夕食だけ準備しておいてほしい」
紅悠は笑顔で頷き。
「分かりました。お気をつけていってらっしゃいませ」
朝餉を終え、律は圭がやって来るのと入れ替わりに屋敷を出た。
律を送り出した後、圭は早速紅悠と他愛もないおしゃべりを始めながら、家事に取り掛かるのだった。
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昼過ぎ、紅悠は圭に連れられて、初めて村の市場へと足を運んだ。
最初こそ周りからの好奇の眼差しが気まずかったものの、圭の人柄もあってか、村民たちの紅悠に対する振る舞いは実に明るかった。
「へぇ、あなたが狐族から来たお嫁さん?」
「なんだ、あたしはてっきり、おっきな耳と尻尾でも生えてるんじゃないかと思ったわよ」
店先から次々に紅悠の傍へと寄って来ては、声をかけたり、しげしげと観察してみたり。藍龍族の特性上、警戒心より探求心の方が勝るのかもしれない。
「何言ってるのよ。私たちだって、龍族って言っても鱗や角が生えてるわけじゃないでしょう」
圭が言い返すと、八百屋の女店主は。
「確かにそうよねぇ!なぁんだ、じゃ、あたし達と別に何も変わらないのね」
「ちょっと、変わらないってことはないでしょう?見てごらんなさいよ、この気品と美しさ。私たちとは比べ物にならないくらい、素敵なお嬢さんじゃないの!」
「あはは、そりゃその通りね!」
村人たちの間で、どっと笑いが起こる。そんな中、紅悠は恐縮しながらも。
「いえ、そんな…皆さんの笑顔も、とっても素敵です」
紅悠が言うと、「あら、そぉ~?」と上機嫌な女性たち。
それから紅悠と圭は、市場の店の並びを一通り見て回ってから、夕餉の買い物を済ませて帰路に着いた。