4-6 お試しの結婚生活
「医者はいらないと言ったんだがな…」
仕事部屋で凛の診察を受けながら、律が渋い顔で呟く。
「圭さんもそう言ってたんだけどさ。なんでも、奥さんがとっても心配してるから診てやってくれって。あんな可愛い奥さん心配させちゃダメじゃん」
凛の言葉に心なしか頬を染めて、律は視線を逸らす。
「でも、見た限りいつもより回復が早いんじゃない?前までは熱が下がっても、咳とか怠さとかでしばらく本調子じゃなかったじゃん」
「確かに…」
言われてみれば、熱が出た翌日からこんなにすっきりと起きられたのは、今回が初めてだ。
「それどころか、いつもより生き生きして見えるけど。顔色もいいし肌つやもあるし。熱出してる間、誰かが霊気でも流してくれてたんじゃない?」
「霊気を?」
病気にかかった人間に、別の人間が霊気を流してやると、回復を早める効果がある。病気の根本を治療するわけではないが、風邪で弱った身体に霊気を流してやれば、もともとあった自然治癒力を高めることが出来るのだ。
だが、霊気を扱うには相応の実力が必要となる。自分の霊気を他人に分け与えるとなれば尚更だ。
圭にはそこまでの力はない。となれば、考えられるのは――
「何にせよ、治療は必要なさそうね!じゃ、私帰るから。お大事に!」
律が考え込んでいる間に、凛はぱっと立ち上がり、襖をぴしゃりと閉めて出て行ってしまった。
律の部屋から出てきた凛を、紅悠が廊下で呼び止める。
「先生、今日はわざわざありがとうございました。お茶を淹れたのでよかったらどうぞ」
「え、ほんとに?もー、気を遣わなくて良かったのに!」
凛は言葉とは裏腹に、嬉々として居間へ入り込んだ。
「先生、旦那様の体調はいかがでしょうか?」
凛と二人向かい合って座りながら、紅悠が尋ねる。凛はお茶を一口飲み込むと。
「ぜーんぜん、問題なし!やっぱりいい奥さんもらったお陰かな?」
満面の笑みで返されて、紅悠は頬を赤らめて俯いた。
「むしろ今までより軽症で済んでるし、もう何も心配いらないよ」
「…あの、先生。旦那様は熱を出すことが多いと伺ったのですが、何か原因があるのでしょうか?」
訊かれて、凛は唇に人差し指をあてながらしばし考え込む。
「特に持病があるわけじゃないんだけど…しいて言うなら、仕事のし過ぎかな。普段から十分な休養が取れてないから、限界が来るとああやって熱出して倒れちゃうわけ。」
「確かに、旦那様は私がここに来てから毎日、夜遅くまで仕事をしていました」
不安げに目線を落とす紅悠に、凛も溜息を吐く。
「あいつ、昔っからお人よし過ぎるのよね。困ってる人を放っておけなくて、頼まれると何でも引き受けちゃうの。で、今や王家のお偉いさんたちが、こぞって律に仕事を押し付けるようになっちゃってさ」
「仕事を、押し付ける?」
訊き返すと、凛は頷いて続けた。