4-5 お試しの結婚生活
翌朝。
いつも通り、台所で朝餉の支度をしている紅悠に。
「おはよう」
その声に、紅悠はぱっと振り返る。
「おはようございます、旦那様。お加減はいかがですか?」
「すっかり良くなった。今日からは仕事も出来そうだ」
律は、そう言って微笑むと。
「昨日休んだ分も、取り戻さないとな」
「もう、旦那様、無理をしてはまた風邪がぶり返してしまいますよ?」
紅悠もくすくすと笑みを零した。
*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀
紅悠が朝食の後片づけをしている頃、屋敷の玄関から聞き慣れぬ声が響いてきた。
「ごめんくださーい!」
良く響く、明るい女性の声。紅悠が玄関を開けると、そこに。
「…っと、そっか。あなたもしかして、律の奥さん?」
扉の向こうに居たのは、まだ若い女性だった。歳は紅悠とそう離れていないだろう。艶のある茶褐色の長髪を一つにまとめ、肩には何やら大きな道具入れを下げている。
女性が紅悠をみて目をぱちくりさせているので、紅悠はひとつ頷いて見せ。
「ええ、妻と言っても、まだ試用期間中ですが…紅悠と申します。」
紅悠が一礼して微笑むと、女性もぱっと笑顔を見せる。
「やっぱりそうだったんだ!私は凛って言って、この村で町医者をしてるの。今日、律の様子を見に来るようにって言われてたんだけど…」
その言葉に、今度は紅悠が目をぱちくりさせて。
「まあ、それは失礼いたしました。お医者さまがこんなにお若くて綺麗な方だなんて知らなくて…」
「!」
言われて、凛は一瞬、目を見開いて紅悠を見つめる。
「…まったく、律のやつ、素直で可愛いお嫁さんもらったじゃん!じゃ、早速診察してやるか!」
そう言うと、上機嫌で律の部屋へと向かっていったのだった。