4-3 お試しの結婚生活
「ああ、いつもの風邪ですよ。律様は二、三か月に一遍、熱を出して寝込むんです」
「そ、そうなんですか…」
圭がやって来るのを今や遅しと待ち構えていた紅悠は、あっけらかんとした応えに拍子抜けしてしまった。
あれからすぐ、紅悠は熱冷ましを探し出し、薬を飲んだ律は今も眠っている。額からは何度拭き取っても玉のような汗が滲み、呼吸も苦しそうだ。
「心配しなくても、いつも一日寝て過ごしたら、次の日からは仕事を始めているくらいなので。きっと今回も同じですよ」
「でも、お医者様に診ていただかなくて、本当に大丈夫でしょうか?」
なおも不安が晴れない様子の紅悠に、圭はくすりと微笑んで。
「じゃあ念のため、町医者に相談してきましょうか。私が行ってきますから、紅悠様は律様についていてあげてください」
「ありがとうございます、圭様」
深く頭を下げる紅悠に笑いかけ、圭は医者のもとへと出かけて行った。
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医者からは、熱冷ましの効きが悪ければまた報せに来るように、とのことだった。
幸い、時間が経つにつれて熱は徐々に落ち着き、昼下がりに律は目を覚ました。
「旦那様…」
傍らで聞こえた声に視線を動かすと、紅悠が心配そうに覗き込んでいる。
まだ怠い身体を起こすと、紅悠が水を注いで手渡してくれた。
冬の冷たい井戸水が、熱を帯びた喉に心地よい。
「…ありがとう。ずっと、ついていてくれたのか」
訊くと、紅悠は頬を赤らめて。
「はい…家のことは、圭様がやってくださって」
そんな様子に、自然と口元が緩む。
記憶は曖昧だが、確か薬を取りに行こうと布団から出て、しかし倦怠感に負けてそのまま床に寝そべっていたところに、紅悠が入ってきたような。
襖を開けたらいきなり主人が倒れていたのだから、驚くなという方が無理だろう。
「心配をかけて、すまなかった。大分熱も下がったし、もう少し寝ていれば大丈夫だ」
その言葉に、紅悠は心から安堵して、微笑んだ。