4-2 お試しの結婚生活
しかし、それから一週間ほどが経った、ある日。
朝餉の時間になっても律が起きてこないので、紅悠は様子を見に行くことにした。
「旦那様?入ってもよろしいですか?」
部屋の中から、返事はない。紅悠が恐る恐る、襖を開けてみると。
「――!?」
目に飛び込んで来た光景に、紅悠は思わず飛び上がる。
「だ、旦那様!?大丈夫ですか!?」
襖の向こう、出入り口の手前で、寝間着姿のままの律がうつ伏せに倒れていた。
紅悠は律の身体を起こそうと、肩に触れる。
(――すごい熱…!)
するとここでようやく、律は紅悠に気付いたようで。
「…紅悠?」
かすれた声でそう呟き、薄目を開ける。熱で意識が朦朧としているようだ。
(…とにかく、旦那様を布団に寝かせなきゃ)
紅悠は手早く布団を整え、律を助け起こして横たえる。
「旦那様、少しお待ちくださいね。今、お医者様を呼びますので!」
そう言って、紅悠が部屋を出ようとすると。
「…いや、医者は、いい。どうせ、ただの風邪だ」
聞こえてきた律の声に、振り返る。
「で、でも…」
「それより、薬棚に熱冷ましがあるから、持って来てくれ」
「…分かりました」
紅悠はまだ迷いながらも、頷いて部屋を出た。