3-4 旦那様
「いずれにせよ、命令通り三か月間は一緒に暮らすしかない。あれこれ考えても仕方がないさ」
結婚相手に王家の厄介者を押し付けた、というのは、龍族の側も同じだろうと、律は思う。
むしろ、国も文化も違う龍族の男の許に、たった一人で嫁がされた彼女の方が、どれだけ心細いだろうか。
怖がらせるのも可哀想なので、律はこれまで、紅悠の身の回りのことは圭に任せ、自分からはなるべく関わらないようにしていた。
明はまだ、納得のいかない顔をしていたが。
「…仕方ないですわね。まあ、どうせ今回の結婚は、三か月だけのお試しなんでしょう?そんな子、期限が来たらさっさと追い返しちゃえばいいのよ」
「おや、お互い同意すればそのまま継続も出来るんだろう?」
朗らかに笑う翠を、明がキッと睨み付ける。
そんな兄妹を前に、律は小さく苦笑して。
「それじゃ、俺は日が暮れないうちに戻るよ」
「ああ、気を付けてね」
「律様、今度またお屋敷にお邪魔させてくださいね!」
城門へと向かう律の後姿が見えなくなった頃、翠がぽつりと呟く。
「律のやつ、また霊気が減ったみたいだ。あいつも本当なら今頃、ここで役職に付いていてもおかしくない実力だったのにな…」
龍族王家の人間は、持てる霊気によって与えられる職務がある程度決まっている。力のある者ほど国政に近い役職に就き、地方の村の首長などは、王族の中でも最下層の位置づけだ。
翠も始めこそ青龍族の村の首長を務めていたが、数年後には王宮の役人に昇進し、今では皇帝補佐官の一人として任務にあたっている。
「律様は、まだ本気を出していないだけよ。今に王宮の上位役職に昇り詰めるわ。お試し期間が終わるまで、狐の娘が足を引っ張らないといいんだけど…」
「ん?それはおかしいな。伝説では狐族の娘と結ばれれば、力は強まるはずだろう?」
「もう、お兄様、そんなおとぎ話はやめてください!このままじゃ律様が可哀そうよ!」
唇を尖らせる明を翠がのんびりと宥めつつ、二人は王宮の中へ引き返していった。