3-3 旦那様
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一方の律も、王宮での用件を終えて帰宅の途に着こうとしていた。
王宮の玄関口に向けて歩いていると。
「やぁ、律。暫くぶりじゃないか」
後ろから名を呼ばれ、振り返ると。
「…翠」
数歩先に、幼馴染の青年が立っていた。そしてその後ろには。
「律様、お会いできて嬉しいですわ!」
翠の妹、明がぴょこんと律の前に飛び出してくる。金の瞳に蒼い髪を持つ二人は、青龍族王家の兄妹だ。
「おっと、そうだった。この度はご結婚おめでとう」
翠が茶化すように言う横で、明は何故か、不機嫌そうに頬を膨らませる。
「ちょっとお兄様、こんな結婚ちっともおめでたくなんかないわ。皇帝陛下が、また無茶苦茶言い出しただけじゃない」
そんな妹の言葉をさらりと流し、翠はさらに。
「それで?狐族は、どんな素敵な奥方様を寄越してくれたんだい?」
「どんなと言われても…まだ結婚して一日しか経ってないしな」
律は困ったように首を傾げる。紅悠とは今朝ようやく、会話らしい会話が出来たばかりという状況だ。取り敢えず、料理が上手いということは分かったが。
ここで明が、ふと声を低めて。
「…“素敵”な訳ないわ。私、知ってるもの。嫁に来たのは、王家とは名ばかりのとんでもない落ちこぼれで、向こうじゃ何処にも貰い手が無い厄介者だって。そんな子を押し付けられて、律様からしたらいい迷惑よ!」
そんな妹を窘めるように、翠は穏やかな口調で語り掛ける。
「明、噂を鵜呑みにするのは良くないよ。実際会ってみないことには何も分からないじゃないか」
「私は、律様のことが心配なの!ねぇ律様、今からでもこの結婚、解消できないの?」
律の手を取り、上目遣いに見つめてくる明を前に、律は肩を竦めた。
「皇帝陛下の命だからな。俺の一存ではどうにもならない」
短く嘆息してみせると。
「まあ、“落ちこぼれ”という点では俺も似たようなものだ。そういう噂は特に気にしていない」
「そんな、律様は落ちこぼれなんかじゃ…!」
さらに強く腕を絡めてくる明から、律はそっと身体を離す。