表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/58

一.異郷の花嫁


雪のちらつく山道を、二頭立ての馬車がゴトゴトと進んで行く。


王宮から派遣されたものなので車体も、二頭の神馬も煌びやか。中に乗る少女も、上等の着物に身を包む。明るい金色の長髪が振動に合わせて揺らめき、紅玉の瞳はどこか憂いを帯びている。


少女の名は、紅悠(こはる)。ここから大分西にある、狐族の王家の娘だ。


何故、狐族の姫君ともあろう少女が、馬車に揺られてこんな辺鄙な場所を進んでいるかというと――何を隠そう彼女はこれから、この道の先にある異郷の地へと、嫁ぎに行くところなのだ。



*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀٭*❀



念のため断っておくが、狐族といっても耳や尻尾が生えているわけではない。


古来この地に降臨した神獣・天狐の霊気を受け継いだ一族が、狐族の民だ。


王家の娘、とは言ったが、実は狐族には王家が4つある。


そのため王家の人間は何十人もいて、その中で政を担うのは、生まれながらに強い霊気を持つほんの一握りの者たちだけだ。


王宮では常に熾烈な権力争いが繰り広げられているものの、紅悠のように平凡な…いや、他の王家の人間から「史上稀にみる落ちこぼれ」と後ろ指を指されるような者には、全く以て無縁の世界だった。


最も紅悠自身、政治にも権力にも興味はない。王宮から遠く離れた領土の小さな家で過ごす、質素だが平穏な日々が、紅悠にとっての幸せだった。


そんな、王宮からはとうに忘れ去られた存在であった紅悠に、突然現皇帝である祖父からお呼びが掛ったのは、一週間ほど前のこと。


「紅悠。お主、そろそろ結婚せぬか。」


そろそろ夕餉にしようか、とでも言っているかのような、実に軽やかな口調で祖父からそう言われたとき、紅悠は一瞬頭の中が真っ白になった。


「お主、いくつになった」


「…十八です」


「ほれ、やはりいい頃合いじゃ。実はわしの古い友人から、良い縁談話をもらった。何、心配するな。先方も王家の血筋の、立派な青年じゃ。」


「王家の…?許嫁のいない、年相応の殿方などいたでしょうか?」


首を傾げる紅悠の前で、祖父はにやりと口の端を吊り上げる。嫌な予感で、背筋が寒くなった。


「紅悠、わしは狐族の王家とは、一言も言ってはおらぬ。お主は狐族の歴史上初めて――龍族の王家へ嫁に行くのじゃ。光栄に思え。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ