後編
やや遠くザザ村が見える。
ここは「はぐれ」と呼ばれる小さな小さな村。
水辺が遠く生きるには辛い集落。
レインもこの村に身を置いていた。
ザザ村に居れなくなった者や遠い村から流れて来た者が、数件の建物や物陰で身を寄せあっている。
かつて愛した男は首を吊っていた。
遺書で負けた事を私に詫びていたが、彼は何も悪くない。
逆に私なんかの為に命を散らしてしまって辛い。私のことは忘れて新たな道を行って欲しかった。幸せになって欲しかった。そうすれば私も諦められる。彼の側に居れなくても私は・・
結婚の時に家から貰った持参金は、新居の支払いで無くなった。
野次馬どもの前で姦通させられ、かつての恋人も私の為に絶望して死に、彼の家族にも顔を向けられなかった。
ザザ村に居たくない。
自然に足は「はぐれ」に向いた。
誰も止める者は居なかった。
生きにくい。
あれからもう、三度もレイプされた。
食べ物の為に身体を売ったのも一度じゃない。かつての友達まで私を買いに来たのは驚いた。それも1人じゃない。
私がここにいる事はザザ村に知れ渡ってるらしい。
この村で手に入る食料ではこの村の者全員は食えない。
昨日死んだ老婆を一人で砂漠に埋葬した。
はぐれに来たときに優しくしてくれた恩人だ。死んだときの老婆は軽かった。お陰で私一人で運べた。砂漠の墓地まで直におんぶした。気持ち悪いとは思わなかった。愛着すら感じた。
真に気持ち悪いものを知っている。
この村でなければ、もっと長生き出来ただろうに。老婆も夫に捨てられてはぐれに来た。
老婆は「いろいろ」あって何度も子供を生んだ。でも1人も育たなかった。きっと私も同じになる。
老婆との別れを済ませたあと、村に向かう途中、見たことの無い老婆が倒れていた。
息が有ったので抱き起こすと、
「なにか飲ませてくれ」
と、訴えてきた。
水を与えたら生き返ってきた。良かった。
家に連れ帰り、もっと水とか食べ物を与えた。
この部屋、死んだ老婆の代わりに別の老婆が納まった。
不思議な縁だと思った。行きも帰りも老婆をおんぶしたし。
精気を取り戻した老婆が言った。
「お前さんには私が老婆に見えるんだね」
「?」
「私は女でも男でもこんな年齢でもない。そもそも人間ですらない」
「??」
「いろいろあってこの世界の金が尽きて行き倒れてた。お前さんには礼をしなくてはね。希望を叶えてやろう」
希望?
希望ってなんだっけ?
自分でも判らない。
「何を悩んでる。復讐だろう!」
心の中心を貫かれた気がした。
心が読まれた?
「読んだとも。手伝ってやろう」
END