中編
その夜、俺はケダモノだった。
童貞に美しい女性を与えればそうなるに決まってる。
もう朝?昼?
服を着た嫁様が、引き出物のなかから食べ物を取り出して、皿に盛りつけてテーブルに用意してくれた。
俺は食べ物を用意してくれた嫁様を褒め、久しぶりのうまい食事をした。
嫁様はフルーツを少し食べただけだった。
実はまだ嫁の声は聞いた事がない。
なにか聞いても答えてくれない。
口がきけないのか、しゃべれないのかな?
まだ感激が冷めない。
昨夜はお楽しみでしたよ。
最初、嫁様はなかなか脱いでくれなかった。
暴れたり抵抗する訳じゃない。硬い人形のように動かなかった。
俺が手を引いた分しかこっちに来ないし、服のまえをギュッと握っていた。わざわざ手を退かすとその通り手を退かしてくれた。夫に逆らいはしないが、いやそうだった。でも正式な夫婦になったんだからこれからする事は当然なこと。強姦ではないよ。
「初めて?」
この問いに嫁は首を縦に振った。
顔が真っ赤だった。
未知の感触に胸が踊る! 美人で男性経験無しとか理想すぎる!
遂に念願の中の念願の中の念願の時が来た!
あの瞬間、俺のリミッターが外れ、俺の中の猛獣が目覚めた!
もう止まらない!
下手すれば戦いよりも動いたかもしれない。
何度も味わい、目に焼き付けて、また同じ事を繰り返した。
そして、いい加減睡眠を取ってなかったので俺は眠り込んでしまった。
でも、しっかり嫁の背後から抱きつきながら寝た。
眠気に襲われながらも性欲だけは手放さなかった。
ーーーーーーーーーー
ご飯を食べながら思った。
我ながら童貞脱出出来たことをまだ信じられない。
だって、さんざんヤったのに、目の前で静かに座る嫁を脱がせたくて堪らないんだもの。
そして、折角服を着た嫁をまたリングに乗せるのだった。
ーーーーーーーーーーー
そして、ヤり続けの二晩目が終え、俺は久しぶりに外に出た。
太陽が黄色い。
噂に聞いてた黄色い太陽だ。
おれも遂に黄色い太陽を味わったよ!
引き出物の食べ物も尽きそうだし、マトモな食事を買い出しするべく町にでた。
嫁の好みが判らないけど、何種類か買ったから大丈夫だろう。
買い物がてら町を回ってみたが、何度探しても「仕事の斡旋所」らしきものが無い。求人の張り紙も無い。
どこにいけば、どうすれば職につけるんだろう?
これから生活するために不安しかない。口がきけない嫁には聞けないし。
一通り町を見て家に帰る。
まじまじ見ると小さくてボロいな。
他の家のとは比べられない。小屋だな。
余所者で知らなかったが、新居は夫が用意するんだそうで、「家は無い」と言ったら、用意せずに戦いに来るのは非常識だと言われた。知らなかったんだもん。
てっきり嫁の家の世話になるかと思ったが、跡取り以外は結婚と同時に家を出されるのだそうだ。
急遽、村長の計らいで村所有の作業休憩所の小屋に不要家具を運び込んで新居にした。代金はツケだ。安いながらもタダではない。
身元偽造に使ったハリーさんの家は既に他人のものだったし。
新居の玄関をくぐると、女性が三人に増えていた。
1人は嫁様だ。
そして、嫁様を抱き締めながら泣いている女の人。
三人目の女の人も近くで一緒に泣いているが、阿修羅のごとく怒りを俺に向けてきた。
なにがなんだか判らないけど、挨拶しとこう。
「俺が夫のボンドです。お客様ですか?」
「私はレインの姉です」
嫁様を抱き締めてる女性が答える。
レインというのは嫁様の名前ね。
そう言われれば、顔とか似てる。
美人な姉妹で姉の方が背があるかも。
「私はレインの幼馴染。あんた、レインに酷いことしてくれたわね!このケダモノ!」
ブサとか、化け物とか言われるのは慣れてるけど(辛いけど)、ケダモノと言われたのは初めてで面喰らった。
そしてその後、その幼馴染さんの怒りが俺に降りかかった。
幼馴染さんの怒りのマシンガントークを纏めるとこういうことだ。
二人暮らしの生活基盤もないのに戦いに参加するのは非常識。
家長(ここでは俺)の権限は絶対だが、女が無言を貫くのは不満とか反意の意思表示。それを無視して強引に姦通したのは横暴。(実際はケダモノと言われた。知らないよそんなしきたり)
この小屋は隙間だらけでこの二日間、野次馬が代わる代わる覗きに来ていた。気がついたときには凄い人数になって、姉も幼馴染も絶句した。(嫁が布団を被ろうとしたのはそのせいか)
レインが可哀想過ぎる。
夫がブサ。
更に無職。
よそ者は村に馴染むのが大変だ。仕事もなかなか取れないだろう。苦労するのはレイン。
そして、一番堪えたのが、
レインには相思相愛の相手が居て、10年来の愛を木っ端微塵に破壊された事!
俺は真っ青になったよ。
聞けばあの決勝戦の相手だった。
他の戦士も皆子供の頃からの仲良しで、当日、戦いはするけれども、皆、勝つつもりは無かった。
決勝後、みんなで二人の婚姻をお祝いのする筈だったが最悪の結末。
どおりで、対戦相手は俺には全力で来るのに、あの決勝戦の人にはものの1分で負ける訳だ。
今になってわかったよ。
力なくぺたんと床に座る。
何て事をしてしまった。
レインの夢を打ち砕いてしまった。
もっと慎重に村で過ごして色々調べればよかった。生活基盤作って機会を待つとか、なにもしないで帰るとか選択肢は有った筈。
最悪だ。
突然玄関から男の声がした。
「ごめんください。私の妻が迷惑をかけてすまない。」
男の人は丁寧にこの家の主に謝ったが、目は俺を憎んでいた。
「さあ、帰ろう。気持ちは判るがよその家に口出しはいけない。お前もだ」
この人はレインの姉の夫なんだね。
この村は男が強いらしく、女性が他所の世帯主に文句言うのは非常識らしい。俺もこの村では非常識な人だけど。
でもね、声と目で判る。
彼も俺に怒ってるよね。
三人が去ってレインと俺だけ。レインのすすり泣きの音だけが響く。
「・・・・・・・・・ごめん。
・・・・・・・・・・・別れよう・・・・・」
泣きながら俺はレインにやっとの思いで告げた。
短い言葉だけど、これを言うのにどれだけ振り絞ったか。
聞いてるレインは既に涙腺が荒れ果てていた。
「さよなら」
ただ一言。
俺は家を飛び出して、村長の家に走った。
解り易く「村長」と木札が立っていた。
戸を叩き呼び出し、唖然とする村長に、「離婚します!」と叫んで、また走り出した。
そして、村の外の砂漠に立ち、
「R 0002430M1200」
と、大声で叫んだ。
ーーーーーーーーーー
全身を包んでいた光が消えると懐かしい自分の部屋だった。元の世界の旅立つ前の我が家。
そして、
「お帰り」
と、ベッドに寝ていた先輩が俺を出迎えた。
先輩は俺を暫く眺めてから、ため息をついた。俺の記憶を読んだんだろう。
「一週間で帰ってくるとは早かったな。あのまま向こうに残る手もあったんだがな。総ての人が幸せな結婚してるわけじゃない。結ばれたい相手と結ばれるわけじゃ無い。したくない結婚をする者も大勢いる。もう少しもがいても良かったのにな」
「全てを知ったら無理でしたよ。もう少しでいいから慎重に動けば良かった。折角のチャンスを駄目にしてしまいました。もう、もういいです」
「童貞捨てて二日間腰振れただけでも良かったと思え。この世界では童貞で終る筈だったからな」
はっきり言ってレインの身体には未練がありまくりだったけど、とてもじゃないけど顔をあわせられない。
俺はその日から一週間部屋に引きこもった。
後悔と懺悔、なのに夢にまでみるレインの眩しい裸体。頭がおかしくなりそうだった。
俺が居ない間、先輩は俺に成り済まして生活していたらしい。魔法なんだろうか?
ついでに引きこもってた時でさえ俺に成りすましていた。ここにいる俺に気付かない家族。これもなにかの魔法?
引きこもってる時も、こっそり先輩は食事をくれた。
先輩曰く「寝るところに、毎日三食手に入って都合良かった」のだそうだ。
俺としても、家族に心配かけなくて都合良かった。
俺の振りをしてくれてたのは、いずれ帰ってくると踏んでいたかららしい。こんなに早いとは以外だったそうだ。
そして、先輩は一月後に去って行った。また別の地に旅立つのだそうだ。
先輩と出会えて、嫌な想い出が出来てしまったけど、不思議と感謝の想いがあった。チャンスをくれたことだろうか。
最後に「レインが今どうしてるか知りたいか?」と言われたけど聞かないことにした。
未練が燃え上がるのが怖かったし、どうなってるかも怖かった。ただ、
「レインには幸せになってほしい」
と、だけ。でも、この言葉はレインには届けられない。
先輩はもう居なくなっていたから。