緊急クエスト発生! ぼやき事務員に突如生まれた、たまごの能力
この世界に誕生する私達に、神様はいくつかの才能をくれる。
私に与えられたのは……毎朝八時八分の電車の前から三車両目の列から乗れば、端っこの席に座れる能力らしい。
能力っていうか経験だよ、そう言いたい。つまり何の特技もない平凡な会社員の事務員。それが私だ。
そして神様って言うのは、試練を与えるのが大好きな存在。楽して稼げる才能よりも、怠惰で駄目な才能は沢山くれる。
いらないって、そんな才能というか性分。真面目で頑張り屋さんな才能をくれさえすれば、私だって認められたのかなって思うのよ。
はいはい、言い訳の才能出ました。ごめんなさいね。
ここ五年くらいで職場のパワハラやモラハラやセクハラはなくなったんだけどさ、暴言ギリッぎりのロジハラや、意味不明なフキハラが増えた。私、疲れてる。
何だろうね、あの正しい、勝てるとわかった瞬間にぶつけられる正論。仕事中ならともかく、せっかくのお昼のランチの前に食欲減退させる能力でも授けられたのって思う。
せっかく頼んだピザ帽子鳩屋の美味しいピザが冷めてしまったよ。
会社の給湯室に行けばレンチンし直せるけれど、時間ないし面倒。ものぐさ能力がここでも発揮。
目は疲れるし、肩は凝るし、足が浮腫む。温泉にでも浸かって、何も考えずにのんびりしたいよ。
それでも地獄のような炎天下で働く人よりマシか。会社に配送でくる宅配便のおっちゃんとか、点検作業をしている人とか、暑くて大変そうだ。
なんとなく、ありがとうと言いたい。心の中でだけどね。おっと、さりげなく感謝出来る余力が私に残されていたよ。
冷めても美味しいピザと、三日月堂の和菓子があれば、嫌な事が忘れられる。
私は単純なやつだからだろう。神様は私に美味しいものを食べると嫌な事を忘れリセットする能力を授けていた。
欠点は食べ過ぎると、体重が増える能力が発動する事だろう。これも神様の能力のせいなんだよ……絶対。
そして今、私は人生で最大の危機を迎えている。
私の食べっぷりをいつも観察していた営業のA君が声をかけてキタノダ。
心の声なのに震えて噛んだよ。地味モブ事務員の私に、この展開を乗り切る能力はない!
神様助けて。腹黒く、直向きにお弁当を作っていた五年前の私に戻る能力を授けて。
無理は承知。私は突如生まれたたまごのように、新鮮な気持ちで恋に挑む能力を育てる羽目になった。
神様の試練は思わぬ所で起き、私は能力を発動する。たまごは無事に孵ったようだ。
お読みいただきありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
なろうラジオ大賞5投稿作品十作品目は、初の恋愛作品になります。
はじめは終わらせ方を「――――自堕落な能力たまごの殻と一緒に捨てようと思った」で締めようと思ったのですが、中途半端に引っ張る形になるので今の形にしてみました。
今企画は恋愛、アクション、推理、童話など今まで書いた事のないジャンルに挑戦させていただいております。拙い所はありますが読んでお楽しみいただけると嬉しいです。
応援、いいね、評価、ご感想等があればよろしくお願いします。