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15. 国王陛下のお呼び出し①


 なかなか承認されない貴族院の婚約手続き。


 しびれを切らしたイザベラが問い合わせ、三日程で回答が返ってくる予定だったのだが……。


 貴族院に問い合わせたはずが、フランシス公爵家とブランド伯爵家ともに招集され、王宮の一室に座していた。


「両家の婚約について、イザベラから問い合わせがあったと聞いている」


 円卓を囲み、国王が重々しく口を開くと、このような至近距離で国王と接する機会のないブランド伯爵とギルが、緊張の面持ちでゴクリと喉を鳴らす。


「なぜ伯父様が?」


 貴族院から返答がくるはずが、突然伯父である国王に招集された理由が分からない。


 首をひねるイザベラに、フランシス公爵が黙るよう手で示唆を与えた。


「貴族院で、二人の婚約を懸念する声が諸侯達から上がっている。それ故、婚約の承認は一時差し止めとなった」

「婚約については、お父様に許可を頂いております!!」


 一度は口をつぐんだものの、イザベラはたまらず反論した。


「それは分かっている。だが国王の妹を母に持つフランシス公爵家の長女……他国の王族に嫁いでもおかしくはない高貴な血筋だ」


「だからなんだと言うのですか?」

「そんなお前の結婚相手が、貧乏伯爵家の三男坊ということに、異を唱える者も少なからずいるのだ」


 怒りに震えイザベラが国王を睨みつけると、剣呑な空気に包まれる。


 それもそのはず、イザベラからしたら半年もかけて両親を説得し、やっとのことで婚約の打診にこぎつけたのだ。


 ついに婚約成立……という場面で、いきなり外野から待ったの声がかかってしまった。


 突然の手のひら返しに怒るのも無理はない。


「お前も分かっているだろう? 問題は唯一つ、身分差だ」


 国王の言葉にギルは息を呑み、ブランド伯爵もまた何も言えずに俯いた。


「公爵家を継ぐ兄がいるため、その点は問題無い。だが、フランシス公爵家の名は一生お前に付いてまわるぞ?」


「ですからお父様から許可を……!!」

「いいか? どんな身分に身を落としても、フランシス公爵家に生まれたというだけで、利用価値があるのだ」


「でも!!」

「最後まで聞きなさい。お前達がいかに慎ましく誠実に生きようと願っても、本人達の思惑に依らず、悪意ある者が利用しようと近付くこともある」


 本人に自覚がない分、なおさら危ないのだと、国王は言葉を続ける。


「今はフランシス公に守られているおかげで気付けていないだけだ」


 イザベラが驚いてフランシス公爵に目を向けると、国王が告げたとおりなのだろう。


 困ったように微笑んだ。


「それにお前はまだ若い。今は盲目的になっているかもしれないが、この先どんな出会いが待っているかも分からない。絶対に後悔しないと言えるのか?」


 苦言を呈するその表情は温かく、心から心配してくれているのだと分かる。


「その時に一番困るのは、何の後ろ盾も無いギル・ブランドだぞ?」


 まだ嫡男なら伯爵家を継げるが、ギルは三男坊。


 フランシス公爵家から爵位を得たとしても、もしイザベラと不仲になったらその立場は苦しいものになる。


「ならばどうしろというのです!? いまさら婚約は許さないとでも言うおつもりですか!?」


 先程からの言葉は極めて正論……婚約前の今であればまだ修正が利く。


 イザベラのためにも、ギルのためにも。

 心構えを持って臨むように忠告をしてくれているのは、分かっているのだ。


「ギルとやら、イザベラは半年もの歳月をかけて必死で両親を説得し、婚約にこぎつけた。だがお前はどうだ?」


 国王は食い下がるイザベラから目を逸らし、ギルの様子を窺った。


「フランシス公爵家から求められ、仕方なく首を縦に振ったということはないか?」


 確かに最初の顔合わせは仕方なくだった……嘘を吐けないギルの顔が微かに強張る。


「イザベラの専属護衛騎士、ジョルジュに師事をしていると聞いたが、卒業後に騎士団へ入るつもりであれば、相当な腕が必要だ」


 国王はギルの表情を、つぶさに観察しながら続けた。


「爵位もない、実績もない学生の身分でイザベラと婚約するからには、判断材料になる何か(・・)が必要だ。ジョルジュとまでは言わないが、この先騎士としての『可能性』を期待できる何かが、一つでも示せればいい」


 またしても口を開こうとしたイザベラを目で制し、国王は続ける。


「だが腕を示そうにも、諸侯を納得させられるだけの場が無いのは困りものだな。学生は公式な剣術大会に参加できないし……どうしたものか」


 学生しか参加しない学内行事でいくら成績をとっても、説得力は薄そうである。


 何か妙案はないものかと座する面々に視線を送ると、イザベラの隣で沈黙を守っていたフランシス公爵が口を開いた。


「国王陛下、我が事で恐縮ですが、来月末にイザベラの誕生日パーティーを企画しています。その時に何か場を設けるのはいかがでしょうか」


「ほぅ……例えば?」

「対外的に腕を認められている者と、模擬試合を開催するのです」


 悪そうな顔で提案するフランシス公爵。


 それを受け、国王の目がキラリと光る。


「本来であればジョルジュが適任ですが、ギルが師事しているため、手心を加えたと思われるのも遺憾です。昨年の剣術大会で優勝した副騎士長をお借りすることは可能ですか?」


「ああ、確かジョルジと仲が悪く、一方的にジョルジュをライバル視していると聞いたことがある。面白そ……コホン、よかろう、騎士団に話を通しておこう」


「ありがとうございます。誕生日パーティーは学園の長期休暇明け……イザベラが二学年に上がった直後です。それでは闘技場を押さえ、大々的にやりましょう!」


 急に楽しそうに盛り上がり始めた、国王とフランシス公爵。


「イザベラとの『婚約を賭けた戦い』というわけだな!! これは盛り上が……コホン、料理などを振る舞い、諸侯達だけでなく平民も見学出来るようにしてやれ」


「承知しました。楽しいイベントを思いつかず困っ……ゴホゴホ、実力差は歴然なので、少しルールを考える必要はありそうです」


 幼い頃から交流がある仲良しの二人――、何かを察知したのか、イザベラが頬をピクリとひきつらせた。


「それではギル、一度二人の婚約を許可した身で申し訳ないが、長期休暇は一ヶ月……その間死ぬ気で鍛えて、誕生日パーティーの模擬試合に臨んでくれ」

「……承知しました」


 フランシス公爵の言葉にギルは畏まり、頭を下げる。

 その姿を満足そうに見遣り、今度は国王がブランド伯爵に声をかけた。


「ブランド伯、もし断れずに仕方なくの婚約である場合は、長期休暇中に貴族院へ不服申し立てをするがよい。これが原因で今後困ることがないように、取り計らおう」

「ありがとうございます。ギルともよくよく相談し、必要に応じて対応させていただきます」


 もう下がってよいと命じられ、ブランド伯爵とギルが退席する。


 国王とフランシス公爵、イザベラの三人だけがその場に残った。


「……どういうおつもりですか?」


 室内に響く、イザベラが激怒している時の低い声。


 国王とフランシス公爵は、決まり悪そうにそっと目をそらす。


「先ほど決まった模擬試合の件……猿芝居にも程があります。初めからそのおつもりだったのでしょうが、どういう事だが説明していただけますか?」


 バン! と円卓に手を突き、勢いよく立ち上がる。


 事と次第によっては許さないとばかりに、イザベラは二人を睨みつけた。






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