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夢見る少女はいられない  作者: 瀬戸森羅
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事件のはじまり

はじめまして。瀬戸森羅と申します。不定期な進捗になってしまうかと思いますがコメント等いただければ励みになります。よろしければ読んでみてください。

まだ何も知らなかった頃。

ただひたすらに無邪気だった頃。

世界にはお花畑しかなくってみんな友だちだと思っていた。

でもそんなわけない。物語にだってヒーローがいれば悪役がいる。

無邪気なあたしだったなら自分の首を締めようと伸ばされた手にさえ頬ずりしてしまっていたかもしれない。

何も知らなければ、悪意に気がつかなければ、最後の最後まで幸せでいられたのに。




極めて平凡で、都会でもなければ田舎でもない。そんなありきたりな町、マギレンスはここ数十年変わらずそこにあり続ける平和な町だ。

目まぐるしく人に揉まれることもなくかといって何もかもが無さすぎるわけでもない。人々はやがてここを安住の地として集ってきたが、それでもなおこの町は変わることはない。

だがそれは、心地良すぎたのかもしれない。

変わらずにあり続けるものなど存在するはずもなく、マギレンスもまたその例に漏れることはない。

しかしその時があまりにも突然に訪れることなど、誰も想像していなかった。



6月24日。晴れ。今日はみんなでドッジボールをしました。

ジョーくんがなげたボールは、まるでテレビのけいじさんがうつピストルみたいにみんなをあてていきました。

でもアイカちゃんやネネちゃんは、あたっていたいとないてしまいました。

ジョーくん、かっこよかったけど、やりすぎたからけいじさんじゃなくて、わるいひとみたいになっちゃったよ。



事件の発端は6月25日未明。町はずれの公園で頭部の破損した複数体の死体が発見された。現場では死体周囲に無数の弾痕が残されており、死因はそれらによるものと思われる。

「なぁ、こいつをどう思う?」

事件発生現場を調査しに来た壮年の男が部下である青年に問う。

「どうって…お、俺…まだこういうの見慣れなくて…」

「ったく、しっかりしろ。これだから新米は…。いいかロット。現場で見て学ばなきゃ捜査なんてできっこない。上で指示する人間になりたきゃ若いうちに多くの現場に触れておくんだな」

「はい…」

そう言いつつロットは口元を押さえながらよろよろと後ずさる。

「おい聞いてたか?見なきゃ始まんないってんだ」

「いやでもガストンさん…。ちょっと俺、気分悪くて…」

それを聞いたガストンは一際大きなため息をつくとロットのコートの襟を掴みあげて前に進ませる。

「じゃあお前は何の成果も得ずに帰んのか?違うだろ!ほら、とっとと行け!」

「うひぃ〜!勘弁してくださいよ!うっ…」

ロットの目に飛び込んできたのはぽっかりと口を開けた人間の上半身だった。……とはいえその口は文字通り上半身そのものが開けていたものだが…。

「こ…こんなの……っ!」

「な?おかしいだろ?」

「は…はぁっ?」

「普通の銃にしちゃでかすぎる。かといってそんなばかでかい銃器を持ったやつが出入りすりゃこの町じゃすぐわかる」

「んな…ショットガンとかそんなんじゃないんすか…?」

「……この弾痕を見ろ」

ガストンが示した弾痕は直径20cmはある円形の焼け跡だった。が、弾自体は見つからなかった。

「…これ、1発で身体吹き飛ばしたんすか?」

「そのようだな。そんなばかでかい口径の銃器持ち込めるはずがない」

「も、もういいっすか…?うぷ…」

「はぁ…まぁしょうがねぇか。とにかくこれだけの数の死体を全てこのでかい何かでやったってんなら…」

「なら……?」

「この町始まって以来の大事件だ。犯人はまだ潜伏中。被害者も特に繋がりがありそうにないから無差別殺人の可能性もある……厄介な事件に遭遇しちまったな、ルーキー」

「そんなぁ……うっ…うぐっ…も、もう無理っす…ガストンさん、ちょっと、すんません…っ!」

そう言うとロットは一目散に茂みに駆け寄り込み上げたものを吐いた。

「ぐはっ…う…うぅ……ん…?」

ロットの目線の先には、やけに違和感のあるものが転がっていた。

「……ドッジボール…?」

「…なんだ、どうかしたのか?」

ガストンさんが近づいてきて問う。

「いや、その…こいつが転がってましてね…」

「こりゃあ…スポーツの…」

「子どもが忘れていったのかな…」

「…おい、そのボールをよこせ」

「は?」

「いいから、はやく!」

「は、はいはい…」

ガストンはぶんどるようにドッジボールを取ると、例の死体の方に向かう。

「ちょ、ちょっとガストンさん…?」

「やはり…ぴったりだ。おい、来てみろ」

「え、えぇ…」

しぶしぶと向かったロットにガストンはボールを手渡す。

「そいつを弾痕にあてがってみろ」

「えっと……あ…あぁッ!」

「ぴったり合うだろう…?だが納得できんな…。こんな柔らかいドッジボールで人の身体を貫くなど…」

結論の出ないまま2人は公園の外に出た。

「あ!それ、ぼくんだ!」

公園を封鎖していた柵を出ると、すぐ近くから子どもの声がした。

「あ?」

「おじさん、それ。そのボール、ぼくのだよ」

「何言ってんだ。こいつはなぁ…」

「みてこれ、ケインってかいてある。ぼくんだ」

「……坊主。こいつはどうしたんだ?」

「きのうのよるなくしたんだ。だれもしんじてくれないけど、きのうここにおばけがでたんだぞ!」

そう言って少年は公園を指さす。

「……詳しく聞かせてごらん」

「あのね、きのうぼく、このこうえんにボールをおいてきちゃったから、ママにないしょでこっそりとりにきたんだ」

「そいつぁ何時頃だった?」

「パパとママがねるまでベッドでまってたから…たぶん1じくらいかなぁ?」

「悪ガキめ…」

「そ、それで…?」

「こうえんのおくのほうから、すごいおとがきこえたんだ。ぱんっぱーんって!それで、こわかったからそっちにはいけなかっただけど…そしたらそこから、おばけがでてきたんだ!」

「おばけ?」

「くらくてよくわかんなかったけど、おっきかったよ。おとなよりずっと!こわかったから、ぼくこのボールをなげたんだ!そうしてはしってにげてきちゃって…あさとりにきたらおじさんがいたってわけ!」

「…おばけ……ねぇ…」

「そんなんいるはずないでしょうよ。寝ぼけたんすよこの子が」

「ほんとだよ!うそじゃない!」

「…ま、確かに非現実的だわなぁ。ドッジボールで、なんてよ」

「…そういえば、なにかあったの?はいれないみたいだけど…」

「なに…おばけがでたのさ。家に帰りな坊主」

「や、やっぱりいたんだ!」

そう言うと少年はボールを持っていくのも忘れて走っていってしまった。

「ガストンさん…本気ですか?」

「おばけ、ってのがわからんがな。大抵そういうのは見間違えだ。ドッジボールの大きさの弾を射出する装置があったんならそれをおばけに見間違えてもおかしくねぇ」

「な…なるほど…」

「しかしもうひとつは…なんでそんな時間にあんな人数が彷徨ってたのかも気になるとこだがなぁ…」

「それは確かに…。年代や性別もばらばらで、まるで故意にあそこに集められていたかのような…」

「ま、今は手がかりが少ねぇ。もう少し様子を見るとしよう」

「は、はいっ」

2人は公園の傍に停めた車に乗ってその場を後にした。

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