夜の花
果実が熟れると芳醇な香りがするように、その娘もまた同じく芳醇な香りを醸している。娘は嬉しいのか、恥ずかしいのかわからない気持ちを宿して身体をしならせている。俄然じっとはしていられないというふうに、駅前のロータリーを眺めている。
男は血の匂いを嗅ぐが如くその芳醇な実を認めると漂う匂いに吸い寄せられるかのようにその娘に寄って行く。
ふたりは一言二言話してすぐに行くべきところに歩みを進めた。
夜が更けても街は煌々と光を放っている。昼間よりもより明るく見えるものだ。娘と男はそのきらびやかな街並みを体を寄せ合って歩いていく。もう待つほどの時間がない。自然と手を合わせて寄り添いながらふたりは街の一郭に消えた。
ロビーは狭いものだ。待合のスペースがないところを見ると、そこまで繁盛しているとは言えないだろう。奥へ続く廊下には赤いカーペットが敷かれているが、もう何年も取り換えていないのかワインレッドが黒ずんで残念な感じを醸している。けれどもそんなことは娘と男には関係ない。
目隠しで少しの開口に向かって男が話しかける。男が懐から財布を取り出して数千円を渡すと、開口からはズッと手が出て、鍵をそこへ放った。男は見つかるのを恐れるような速さで鍵を受け取り、娘の腰に腕を回してともにその建物の奥へと消えていった。
水の滴る音がしている。
男はコートを掛けて、荷物を直ぐ側に放って置いた。娘はベッドの横のコンソールの前にあるエレガントな椅子に腰を掛けるとピアスや指輪などの小物をそのコンソールの上において一息ついていた。
「先に入るよ」男が言う。
「うん」娘は緊張しているのか低い声で頷いた。
男は緊張よりも表現しがたい感じを覚えた。体を覆っている表皮のすべてが敏感に雰囲気を感じ取っている。シャワーの音でさえも冷たくくすぐったく彼の輪郭をなぞった。娘もすぐに男のそばに来た。触れたい思いが全身に現れ、寄り添うなり身体はピタリとくっついて離れなくなった。娘は感情を抑えきれずため息を漏らし、男の体躯から漏れ出る血潮を感じ取って、色のある声を漏らした。
そして男はその仕草に耐えきれず、娘の紅く盛りあがる唇を舐めるように吸い付いた。
その瞬間、娘は力なく喜びの鳴き声を、まるで小鳥のように鳴らして、男の体躯にしがみついてその分厚い胸に顔を埋めた。男もそれに答えて腕を腰へ回す。タイルばりの壁へ娘が寄りかかるように倒れ込み、崩れるようにその小さな臀部を床に落とすと男は娘の両頬に手を添えてまた接吻した。娘はそれと同時に色を紅くして身体をしならせ、艷やかな鳴き声を上げて男の舌に絡みついた。互いに甘い汁を吸いあい、娘は喜びのあまり男の首に絡みついて離さなかった。
やがて娘が力なく離れると男は娘の身体に白いネバネバのソープの原液を浴びせかけ舐めるような手付きで体に塗りたくった。娘の生白い肌はみるみるソープで艷やかにテカリ、やがてチチ臭いにおいを立てて泡をまとった。娘は喜びで喘ぎながら更に鳴いた。それは雀かカナリアのように、男の手付きに合わせて、音楽を奏でるように繰り返され、やがて甘く緩やかな快楽に力尽きていった。男は娘の手を引いて起きあがらせると、そのままともに湯船へと入る。男に背を凭れて娘はボッとしている。時々ヒクヒクと身体を震わしている。男は髪を撫でて匂いを確かめると、娘は身体とともに振り返って男の顔を見た。そしてまた娘は唇を欲しがった。しかし男は少し避けて「あとで」と言うと、娘は口の端を少し歪めて引き下がり、また元のように男の身体に凭れ掛かった。
娘の体の柔らかさと、男の敏感な部分が触れ合うと、男は耐えきれず娘の柔らかい身体を触りだした。胸からお腹にかけて撫でるように触っていくとやがて太ももまでたどり着いて、男は娘の股に手を突っ込んだ。
とたん、娘は息を吸い上げ、また小鳥のように鳴き始める。身体を何度もしならせ顔を少し後ろに傾けて横目で男に微笑んでみせた。
「気持ちいいかい?」と男が尋ねると少し間が空いて、娘が「ええ」と答えた。
ふたりはそのうち湯舟から出た。二人の身体は娘が積極的に拭いた。自らにバスタオルを巻いたあと、男の体を確かめるようにもう一枚のバスタオルで水滴を一つずつなぞるように拭いていく。男の身体のほくろの位置や毛の生えているところをまじまじと見て何故か時々おかしくなるようで、娘は笑ったりする。
男が少し呆れて元の部屋に戻ると、全身裸のまま、ベッドへ潜り込んで娘が出てくるのを待った。
男はベッドに座るような形で寝ていた。かけ布団を下半身にかけて落ち着き払って娘を待っている。娘は娘で長い黒髪を後ろで丸く束ねて簪を刺し、首よりも下へ垂れ下がらないようにして部屋へ戻った。男が甘い匂いを嗅いだのは娘がボディケアを怠らずに出てきたからである。
男はその瞬間幻を見たかのように思っていた。娘がどことなしに大人の女性へと変貌を遂げたかのように、思えた。それは黒髪を上げて、野暮ったい垢ぬけない外見をさり気無く払拭したからに違いなく、それは湯船にいても起きなかった事象として捉えられた。彼女はまるでスーパーモデルのごとき歩みで全身にタオルをくるんだままベッドの側まで歩き、その淵で軽く腰を下ろした。娘の座った箇所だけベッドが沈み、その臀部が強調される。包まっていたタオルを両手で大きく広げて剥ぐと、グラマラスな体が際立って見える。娘は不適な笑顔で掛布団の上から男のもとへ近づいてくる。
男は血の匂いをまたしても嗅いだ気がする。それは甘い完熟した ライチのような匂いに似ている。完熟した実を摘み取って食べるが如く、娘の身体の膨らんだ部分の輪郭を触れるかどうかわからぬくらいでなぞる。娘は再びため息をついて自らの体躯の輪郭を感じ取り、赤らんだ。娘はかけ布団を少しずつ剝いで、男の沸き立っているそこを見た。高揚感がさらに増すのを感じながら、その部分を足でかき乱すと、男も少し笑って見せるがすぐに「やめなさい」と答えた。けれどもそうした行為は無駄ではない。彼のそれはさらに大きく硬くなって、娘を迎え撃つ姿勢になっている。
娘は掛布団を纏い、凛然たる男の毛並みを確かめる。男は悠々とし、やがてその桃色の娘の唇を舌でなぞりつつ、嚙みついた。娘も同様に男の浅黒い口の中に舌を突っ込んで、湯舟でやったよりもっさらに深く激しく互いを舐め合う。男は昂って娘の首元に噛みつき、鎖骨から胸へとその流涎たる行為を繰り返しながら、娘の生きる快楽の血潮を沸き立たせる。娘は娘で、ベッドの上のシーツに多くの波紋を残して幾度となく体をしならせては、また例のごとく小鳥のように泣いて男にその喜びを伝えるのである。
そして、娘はその喜びのあまり、身体を痙攣させ、腰が自然と宙を浮くような形となった。ひくひくと腰のあたりが揺れている。男は娘の耳元に顔をやってささやく。娘はまたため息をつくが、もはやひとりでに鳴く声も出てしまうらしい。男は濡れて柔らかくグショグショの部分を娘の中に認めると、その陰部を軽く手で覆ってさするように指を回した。娘の声を出さずにはいられなくなる。快感の血潮が全身をめぐって、やがて大波が来ることを予期する。娘は「いっちゃう」と男にささやいた。男はそこで手を止める。
そして男か起き上がり、娘の太ももを開いた。そこには紅の花が花弁を大きく開いて咲き誇っていた。甘い匂いとともに熟れた果実をつけて地から吸い上げた蜜液を十二分にそこに集めて受粉の時を待っている。男はハチドリのごとくソコへ突き立てる。娘はそのために少し顔を歪ませるが、決して不快感を覚えるほどではなかった。
娘は全身が火照って、力なく男のなされるがままに喜びを感じている。男に突き刺されるとわかりながらも、それをとても嬉しいと受け入れる姿勢だ。
「痛いから、少しずつね」と娘が言うと「うん」と男。
娘の咲き誇る花に向けて男根を突き刺している。その花は紅く膨れてたくさんの水を集め艷やかになり、まさに芳醇な香りを放っている。その匂いを嗅ぐのはそこにいる男だけである。男はその時初めてその娘の美しさや愛らしさを全て受け止めることができると言える。それは他の誰にも見せない娘の全てとも言えるだろう。
娘はその男を受け入れるために、腰をしならせ痛みを感じない位置を探り始める。娘はその男を求めている。男の身体とつながることをとても大事な儀式として感じているに違いなかった。そのことは彼女の中でとても神聖なことに違いない。その男とつながることで娘は自分のすべてをその男に託してしまうように感じるからなのかも知れない。
もちろんではあるが、男もそのことを感じ取っているから、男はその娘がこの神聖な儀式に不快感を感じないようにエスコートするわけである。
やがて男が少し力強くその膨らんで紅く大きくなった花へ自分のを無理なく押し入れると、娘は大きく息をつまらせて苦しそうに喘いでから、荒く呼吸を続けた。また、喜びのあまりに鳥のような鳴き声を繰り返しながら腰を痙攣させた。娘は自分がどうかしてしまうのではないかと不安に駆られるが、その不安もこの男の為ならと思うと絶大な喜びとなって現れ、自らの膨らんだその真紅い陰部を更に濡らしてしまう。もはや娘が喘ぐ声も止められずにいると、男は自らのそれを娘の中で擦りつけ始めた。娘は多少の痛みと快楽で男と繋がった部分を愛液で濡らし、男は濡れていく娘に自らの行為が受け入れられていくことを確信する。そのために男は彼女のさらに奥へと分け入って行く。緩やかに完全につながることで、男はこの娘を思いやった。娘は何ら抵抗なく男を受け入れられることができたのである。
そして男は娘の中で繰り返すことで、娘は快楽と愛液をさらに出し続け、愛液の出る快感を何度も感じるたびに喘ぎ声を漏らし続けた。
二人は互いの耳元で愛の言葉を囁きながら、興奮をさらに増大させた。そして男はやがて力尽き、娘の中へたくさんの水を呑ませて燃え尽きた。
娘は快楽の中で満足行くことなく、ただ男が力尽きたことだけを知り、しかしそのことだけでも好しと思う。男はその後、娘のその赤く膨らんだ花の周りを優しく指でかきまわして撫でる。最後に娘も喘ぎ声強く、終わりは身体を激しく痙攣させて、安堵の息をつき、男の体に抱きついた。
二人互いに精根尽き果て、しかしながらすべて全うしたことを感じながら、その後のむず痒い時間を暫し過ごした。