守るべきモノ
かつて。
魔法を極めた者が存在した。
その者は不老不死であり、性別、年齢、容姿まで自在に変化させられたという。
ドラゴンになったり、リッチになったり、天使になったりして、世界を何周も旅をしたという。
私は最初、国を興した。
だが、飽きて抜け出した途端に5日で滅んだ。
20年掛けて作った国が、5日で滅んだ事実に、笑い転げ、猛烈な虚しさが起こった。
次は冒険者が集うギルドを作った。
飛行船ギルドである。
恋愛によるもめ事により、5年目で殺人が起きた。
何人死んだか、いちいち数えてない。
呆れて飛行船から飛び降りたからだ。
女性冒険者の一人が飛び降りようとする自分を見て、バカヤロウウウとか何か叫んだが、気にしなかった。
それからは一人を楽しんだ。
生まれた時は知らない。
気づいたら最強だった。
この世界の物質の 動 き の 意 味 が理解出来た。
原子、陽子、中性子が理解出来た。
見えなくとも、感触を掴めたのだ。
原子分解。
原子単位だと、人間はスカスカだ。
壁をすり抜けるのも簡単に出来たし、何故出来ないのか不思議だった。
少し分解するだけじゃないか。
何が難しいのか、理解不可能だった。
ある時。
世界を60周した時だったか。
これ以上は、能力は成長しない、体は、技術は、成長しない事を悟った。
なら何故?
何故自分は自我があるのか?
不思議だった。
理論的には、 理 解 をしたら、自我が世界と同化し、意識は無くなり、消失する筈だった。
何故、同化が起きない?何故消えない?
・・。
10年考えたが、答えは出ない。
・・。
まだ理解してないのではないか?
まだ何か・・残してる事があるとでも言うのか?
ドラゴンの姿のまま、ユグドラシルの頂上で二つの大きさが違う恒星を見ていた。
この星の夕日である。
物質は理解出来ている。
残るは、意識の世界だけ。
可能性があるのは、そこだけ。
考えた結果、システムに入らない暮らしをしてみる事にした。
国王、システムである。
ドラゴン、勇者、魔王、等は巨大な暴力は最早システムである。
システムにならない生き方をし、違う視点をどうしても得たかった。
しかし、世界に大きく関わらずに、だが、意識の探求はしたい、そんな事が可能なのだろうか?
一人で冒険者をしても、一人で世界を何周しても、現に何も意識は成長していない。
一人。
それが原因なのでは?
いやいや、現に、仲間を作ってきたではないか。
仲間を?
本当に?
本当にそうだろうか?
国の政治も、飛行船ギルドも、世界を良くしたかった。
だが、人間の欲望により、勝手に自滅していく馬鹿達に嫌気がさしてしまったのだ。
システムとして、役に立つ生き方を、能力の高さを利用する生き方をしてしまう。
・・。
滅びる道に、意識の進化の答えがあるとでも言うのか?
陰陽がある事は理解している。
陽の部分だけでは、進化は出来ないと言うのか?
破滅に最後まで付き合えと言うのか?
馬鹿な道に最後まで付き合えと?
そういえば、あの国は新しい国に変わっていたな。
発展しているようだった。
しかし、その国もまた、戦争により、犯され、虐殺され、滅亡し、また次の国になり、その国もまた、同じ道を辿っていたな。
・・。
陰の中の光を見よというのか。
・・。
・・。
良かろう。
神よ。
私を作った神よ。
上の生活しか知らぬ私が。
下の生活を味わってみよう。
そうすれば、何か。
意識の進化に繋がる手がかりが掴めるやも知れぬ。
ドラゴンは二つの月を眺め、一瞬光り、姿を消した。
冒険者ギルド。
〈ギイ、カタン〉
貧乏そうなボロいギルドに顔を出した一人の老人お婆さん。
ギルド職員53歳男性、ハゲ、方眼帯イギルムが出迎えない。
イギルム「・・」
70代婆さん「薬草を売りに来たよ」
イギルム「・・ち、あのなあ、ここは冒険者ギルドなんだよ、ボケたか、ああ?薬屋に行けよ〈グビグビ〉」
婆さん「なら、この鉱石は?」
イギルム「鉱石い?・・ち、一応見るがよ」
婆さん「これだよ」 机の上に無造作に〈ジャラ〉と出した。
イギルム「どれも低級だなあ、全部合わせても10ガル行かねえな」
婆さん「それで良いよ」
イギルム「・・あのなあ、婆さんよ、いくら低級ってもよ、モンスター居る山に足を運ぶのは辞めな、たかが小銭の為に死ぬつもりかよ?割に合わねえだろうが?あ?」
婆さん「へっへ、おやあんた、心配してくれんのかい?優しいねえ」
イギルム「ち、んなんじゃねえよ!、ほら、10だ、色足して、んだけだ、行けよもう」
婆さん「へっへ、毎度、また来るよ」
イギルム「・・ち」
ギルド職員はこの男性しか居ないようだ。
〈ドン〉娘「あ!ごめんなさいお婆さん」
婆さん「平気だよ、ここの職員かい?」
娘「あ、はい、酔っぱらい居ますか?」
婆さん「ああ、居るさ」
娘「失礼します」
入って行った。
声だけ争うのが聞こえる。
娘「お酒も無料じゃないのよ!いい加減にしてよ!」
父「うるせえ!そうならお前が稼げ!馬鹿娘!」
婆さん「親子、か・・」
婆さんは次に酒屋に入った。
酒屋も繁盛はしてはいない。
もうすぐ夕方だ。
しかし、閑散としてる店内。
数人の爺達が新聞を広げ、酒をチビチビ飲む光景。
薄暗い。
婆さん「腹減りだよ、何かスープとパンをおくれ」
小さな女の子、6歳「はい!ただいま!お父さん、お酒じゃない注文だよ!」
婆さん「手伝いかい?偉いね」
女の子「えへへ、そうかな?私がお客様の相手しないとね、お父さんいつも顔こんなんだから」
眉間を押さえる。
婆さん「へっへ、まあ怖い、ところでこの町は活気が無いねえ、どうしてだい?」
女の子「半年前に領主様同士の戦争があって、働き手が死んじゃったんだって、元々何も無い土地だし、皆離れて何処か行ったの〈チリン〉あ、出来たみたい、また後でね」
別の客に酒を届ける女の子。
尻を触られても、震えるだけ、悲鳴を出さない。
顔はひきつり、笑顔。
婆さんは助けない。
二度と。
助けない。
人は基本的には悲劇で終わる事を知っているのだから。
システムが、本当に、助けるのかを知りたいのだ。
システムが本当に、陽と陰を持ち合わせているのならば、喜劇もある筈ではないか。
喜劇に変わっていく様を、適当に決めたこの町で。
婆さん「見てみたいねえ」
誰にも聞こえないように、呟いた。
翌朝。
店は潰れていた。
冒険者に娘へのセクハラを止めるように訴えた店主は、何者かに切り殺され、娘は奴隷に落ち、売られていた。
蟻型ゴーレムにより、観察していたが、娘はあらゆる虐待により、金持ちのおじさまペットとして豚の餌になった。
婆さん「外れか」
そんな。
そんな風に、12年の月日が流れ、婆さんの姿から、年寄り爺さんの姿にいつからか変え、観察を続けていた。
国から、この町に偉い役人らが来た。
まだ年が若く、腐った地方を立て直す為だと張り切って居た。
だが。
女の罠に嵌まり、脅され、悪側に屈服。
ますます町は、腐った。
輝く瞳も、濁り、女、酒、麻薬、上の連中の靴を舐めている。
役人らの部下達も全て反抗的な輩は在らぬ罪で投獄、処刑された。
部下達にも家族があった。
妻らと子供らは奴隷として売られた。
そんな暮らしの中。
一人の冒険者の男性がフラッと現れた。
些細な喧嘩、よくある喧嘩だった。
負けて、すごすご町から出ていく。
誰もがそれを望んで居た。
平和。
平和が一番だ。
自分の家庭だけ、平和が一番だ。
余計な問題は、混乱と、破滅を意味する。
だが。
その50代男性は、強かった。
重力魔法を駆使し、格闘、石粒を投げるだけで、大砲となった。
悪側と全面戦争となった。
結果、悪側は負け、配下となり、その男性が新しいボスとなった。
規律が町に生まれた。
以前より、民に余計な暴力は無くなった。
奴隷は犯罪者のみ扱われ、インフラ工事が進められた。
だが。
多大な正義側に見えた彼は、性行為の最中に殺す癖があった。
幾人もの女性が犠牲になった。
ナンパに応じない女性は拉致していた。
そして。
彼は、自分が育てた警備隊に捕まり、あらゆる拷問を受け、処刑された。
死後は街外れに二年間裸体放置。
大量の364人の女性の遺体は、丁寧に火葬された。
警備隊は泣いていた。
警備隊の恋人も数名居たらしかった。
何を守っていたのか?
5名、警備隊から自殺者が出た。
市民から信頼を無くし、暴動になった。
警備隊は解体され、新しく組織された。
そうやって。
過ちを克服し、謝り、壊し、新しく造って。
町は発展して。
戦争により、5時間で滅んだ。
爺さん「町が 外 れ だったか今度はこの町を破壊した国の町を見てみよう、長く続くだろうから」
そうやって。
4つ目の国が今まさに滅亡しようとしていた。
婆さん「またかい、本当に飽きないね、ん?」
母親が赤ちゃんを差し出して来た。
母親は、半分焼けていた。
婆さん「・・」
婆さんは無視し、歩きだした。
母親は倒れ、赤ちゃんの泣き声も同時に止んだ。
関わらない。
大いなる意思よ、システムよ。
何故?
何故助けない?
婆さん「・・出ない、こんなに、こんなに悲しいのに、涙が」
後ろから騎馬隊が来た。
槍が体を突き抜ける感触。
設定は完璧である。
意識、心臓も停止した。
5つ目の国。
自分を槍で突き刺した国を観察。
相変わらず薬草採取、鉱石集めの爺さん役。
この国は、サビラン皇国。
南の大陸が丸ごとサビラン皇国である。
この国は一言で表すなら最強であった。
魔法に頼らない仕組み、インフラ、武器、交通網。
文化を重んじ、裁判、警察、検察、軍事が機能していた。
内戦になった。
政治が腐敗、クーデター、そしてー。
核融合、反物質爆弾。
サビランの光という伝説となって消えた。
文字通りに。
大陸だった。
陸地が数ヶ所空に浮いていた。
オペラ、絵画、会釈文化、ナノ、量子、全てを知っていたー。
残ったのは、9割海と化した元大陸だったであろう海底地層と、一割の硝子化した大地だけ。
先人らの汗も、苦悩も、涙も、屈辱も、幸せも、悲劇も、喜劇も。
文化も。
学校も。
踏める大地すらも。
サビラン皇国が存在したというどうでも良い記憶、記録さえも。
消えた。
消えた。
消えー・・。
警備隊、自殺者5名『教えて欲しいのです、我々は何を守っていたのですか?、民衆は我々を責めています、しかし、民衆が今守っているモノが、間違いか、正解の道だとどうして解りましょう?・・我々のように」
爺さんは小さな島に流れ着いた。
波、鳥。
爺さん「ようく解ったよ、人には、愛は無い」
爺さん「人を理解した、人の、うぐ、・・・・人を・・辞めたい」
波、鳥。
硝子。
硝子の大地に腐った土。
小さな土山。
そこから果物の種が芽吹いた。
『END』