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記憶

 一方その頃、ブルーサファイアを、渚を連れ去られたバルドル基地はお通夜のような雰囲気に包まれていた。

 それも仕方ないだろう。バルドルにとってブルーサファイアはレッドルビーと双璧を為す戦力であり、現在、そのレッドルビー。真波渚が意識不明になっている以上、唯一の戦力だ。

 その唯一の戦力が連れ去られてしまったのだから。

 しかも、それだけではなく。バルドル司令の千草と霞が義理とはいえ親子になっているのも、また関係する。

 なにせ二人の――主に千草が可愛がっていたのだが――仲睦まじい姿を、所員たちはよく見ていたのだ。

 それ故、千草の意気消沈ぶりがすさまじく、それがまたバルドルの士気が下がる要因となっている。

 むろん、千草としてもこの状態が良くないのは理解している。

 しかし、それでも――。


「……どうか、かすみちゃん。無事でいて……」

「千草……」


 祈るように呟く千草を歩夢は心配そうに見つめている。

 もともと、歩夢と千草はバルドルの前身となる組織からの古株で、同期でもある。

 それ故、彼女らは他のメンバーよりもお互いのことを理解していた。

 だからこそ、今の千草を歩夢は見ていられなかった。


「……っ」


 千草になにか声をかけたい歩夢。しかし、どう声をかけていいのか分からなかった。

 慰めの言葉? それとも、叱咤の言葉?

 それを今の傷心した彼女に言ってどうなる。

 言ったところでどうにもならないだろう。

 そうして悩んでいた歩夢のもとへ通信が入る。


『水瀬さん、急報です!』

「……なに、どうしたの?」

『なぎさちゃんが、なぎさちゃんが目覚めました!』


 その通信を聞いた歩夢は驚き立ち上がる。

 そして慌てた様子で通信者に問いかける。


「それ、本当! 彼女の様子は!」

『は、はいっ! 彼女の意識ははっきりしています。でも――』


 そこで通信者は言いづらそうに口ごもる。

 そのことに不安を感じた歩夢は、先を促すように話しかける。


「どうしたの? なにか問題が……?」

『通信ではちょっと。詳しくは直接……』

「そう……。なら、そちらに向かうわ。ちぐ――南雲司令も同席して大丈夫かしら?」

『むしろ、こちらとしては是非お願いしたいです』

「じゃあ、二人で向かうわ」

『了解いたしました、お待ちしております』


 その返事とともに通信が切断される。

 通信が切れたことを確認した歩夢は、千草に声をかける。


「南雲司令――千草!」

「……え、ええ。どうかしたの、歩夢」


 歩夢に名前を呼ばれたことで、ぼぅっとしていた千草は、はっとして歩夢を見る。

 そんな千草に、歩夢は先ほどの通信の件を話す。


「先ほど救護室から通信が、なぎさちゃんが目覚めたようです」

「……そ、そう! なら、ひと安心ね」


 その報告を聞いた千草の顔が少し明るくなる。

 バルドル司令としてレッドルビーが復帰するのは歓迎できるし、霞の母親としても彼女を救助できるかもしれないのだから、多少の安心感が生まれたのだろう。

 しかし、そんな彼女に水を差すように歩夢は追加の報告をあげる。


「……ですが、なにか問題があったようです。通信では話せない、とのことで話を聞きに行きたいと思うのですが。できれば司令も同席で」

「……そう。ええ、分かったわ。向かいましょう」


 千草は歩夢の提案に了承すると、二人で救護室へ向かうこととなるのであった。







「……あれ、千草さんに水瀬さんも。どうしたんですか?」


 救護室に到着した二人を待っていたのは、ベッドから起きて二人を見つめていた渚であった。

 とりあえず、彼女の無事な様子を見て安堵する二人。

 そして千草は渚へ話しかける。


「なぎささん起きたのね、良かった。……それで身体の方は大丈夫?」

「はい、大丈夫ですけど……? それより、なんで私、ここで寝てたんでしょう?」

「……え?」


 渚が発した疑問の言葉を聞いて思わず固まる千草。

 そんな千草を不思議そうに見やる渚。

 そこに第三者の声がかかる。


「歩夢さん、司令。こちらへ。……なぎさちゃん、お二人をちょっと借りるわね」

「あっ、はい……」


 そこに現れたのは先ほどの通信者。救護室の責任者であった。

 彼女に呼ばれた二人は、渚から離れるように誘導される。

 そして、渚から声を聞かれない位置まで離れると話を切り出される。


「……実はなぎさちゃん。倒れる以前の記憶がないようなんです」

「それって……」

「ええ、瞬間的にかかったストレスから身を守るため、記憶を封印したのかと……」


 彼女を看ていた救護責任者の説明を聞いて絶句する二人。

 そう、渚は資料室で見た資料。バベル先代大首領や副首領の正体についての記憶を失っていた。

 それは己を守るため仕方ない一面もあるが、それ以上に彼女の精神面が不安だった。

 なぜなら、あくまで情報を忘れた。というよりもどちらかといえば目を逸らしているというのが正確なのだ。

 つまり、何らかの衝撃で思い出したり、最悪の場合パニックに陥る可能性だってある。いわばいつ爆発するか分からない爆弾を抱えているに等しいのだ。

 そのことを聞いた二人、そして責任者は揃って渚の顔を見る。

 そんな三人に対して、渚は首をかしげている。

 パッと見では問題ないように見える、が……。


「とりあえず、万が一の可能性も考えておく必要がありそうね……」


 千草の悩ましげな声に、二人は頷くのであった。

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