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里帰り……?

 バベルの秘密基地に連れ去られた霞。その彼女は、今。意識を失った状態で、簡易式の手術台の上で拘束されていた。

 その傍では盛周と奈緒が何やら話し合っていた。


「それで博士? こいつ、霞の状態は?」

「……いや、もう本当。よく動けてたと呆れるよ」


 そう言って項垂れた表情でため息をつく奈緒。

 彼女は付近にある機器で霞の、ブルーサファイアの状態を解析していたのだ。

 その結果は、ある意味散々なものだった。


 そもそも霞は見た目こそ完全な人間だが、バベルで開発されたガイノイド。いくつか生体部品を使っているとはいえ、本質的にはロボット、機械だ。

 そして機械とは本来定期的な整備をしなければ十全な力を発揮するのは難しい。だが、彼女は。霞はバベルを裏切っておよそ二年。度重なる激戦をしていたにも関わらず、まともな整備、オーバーホールを行っていなかった。

 それは、バルドルでは技術力が足りなかったこともあるし、何より霞自身、己に搭載されている自己修復機能を()()していたことも原因だ。


 いくら霞が稀代の天才、先代大首領である盛周の父と、副首領だった母親の最高傑作とはいえ、あくまで本来は試作の域を出ていなかった。

 それでもロールアウトされたのは、実戦データなどを取得後、何度かのアップデートや改良をもってより高性能に、完成度を高めよう。という思惑からだ。

 しかし、現実はその前に霞は組織を裏切り、バルドル側に付いてしまった。


 それでもヒロイン、ブルーサファイアとして戦ってこれたのは、初期時点での性能の高さ。並びに彼女専用の武装、及びパワードスーツが優れていたから、それに尽きる。

 しかし、それでもやはり限界というものはある。

 そもそも、自己修復という意味では人間の方が実際のところ、高かったりする。それも必然だ。なぜなら地球に、この惑星に生命が産まれ幾星霜。どれ程の生命が淘汰され、進化してきたのか。

 そして、人間もまた進化してきた生命の一つ。何千、何万、何億という年月を越えて進化、最適化を行ってきたのだ。

 そんな生命と、精々何百年前に生まれ、研鑽されてきた技術。それを比べようと考えること自体が愚かだ。


 しかも、そんな人間であっても、完全な状態に保つためには病院などの診療、介護施設が必要になる。

 それなのに、ガイノイドなら問題ない。自己修復機能さえあれば問題ない。等という考えは思考停止、というよりもむしろ思考放棄といえるほどの愚考。


 そもそも、そもそも、だ。

 本来、盛周の護衛。そして対レッドルビーとして運用を予定されていた彼女が、バベルの壊滅後。多少のブランクがあったとはいえ、初期型怪人のサモバット相手に苦戦。挙げ句の果て、スーツを損壊させ柔肌をさらすこと事態がおかしかったのだ。


 彼女本来の性能であれば、サモバット程度であれば強化されても苦戦する方が難しい。それが本来、霞とサモバットの間にある絶対的な性能差。それなのに、現実ではサモバット相手に苦戦していた。それこそが、奈緒の、彼女が見せた呆れの真相だった。


「う、ぅぅ……?」


 話をしていた盛周と奈緒の声に反応したのか。霞がか細い声を出すとともに目を薄く開いた。

 しかし、いまだ意識は朦朧としているのか。霞はぽわぽわとした、寝起きのように気持ちよく、幸せそうな笑いで顔を綻ばせている。

 彼女は、奈緒と盛周の顔を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「……なお、さま。いけ――()()()()、さま……?」


 霞に、ブルーサファイアに盛周さま。と、呼ばれ、ドキッ、と心臓の鼓動が跳ね上がる盛周。

 しかし、その後に霞からの反応はない。恐らく今の彼女は、まだ夢心地で、自身が見ている光景が現実だと認識できていないのと同時に、己がまだバベル所属時の時まで意識が回帰しているのだろうというのが見て取れた。


 彼女の状態に安堵して、ホッと息を吐く盛周。

 その後、彼はゆっくりと、愛おしいと感じさせる手付きで霞の頭を撫でる。

 盛周に頭を撫でられた感触が気持ちよかったのだろう。霞は目を細めてふにゃふにゃと頬を崩して微笑んでいる。

 盛周は気持ちよさそうに微笑んでいる霞に、安心させるように囁きかける。


「……ゆっくり休め、その間にすべて終わっているから、な?」

「…………は、い」


 盛周の、()()()の指示を聞いた霞は、盛周に気遣われたことに対して嬉しそうに返事をすると、そのまま目を瞑る。

 すると遠からず、すぅすぅ。と彼女の気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。

 完全に今、自身がいる場所が敵地だと認識できていない霞を見て苦笑を浮かべる二人。

 奈緒は霞を横目に、盛周へ最後の確認をするように問いかける。


「さて、大首領? 本当に良いんだね?」

「……あぁ、計画に変更はない。頼むぞ、博士」

「……あいあい、任されたよ」


 奈緒の答えに満足したのか、盛周は後の事を任せて部屋を出る。

 彼の背中を見送った奈緒は、小さくため息をつくと……。


「……やれやれ、大首領の人の良さは美点だけど、欠点でもあるね。まぁ、任された以上完璧にこなしてみせるけどねぇ……」


 そう言いながら奈緒は、気持ちよさそうに寝入っている霞を見つめるのだった。

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