ブルーサファイア、陥落
「……くっ!」
先ほどまで、バベル三人相手に無双していたブルーサファイア。
しかし、今は突如現れた超能力を操る戦士相手に苦戦を強いられていた。
戦士のブロウから始まる両腕による連打、連打、連打!
それも、ただ単に殴るだけではなく、隙を見つけてはリバーブロウやハートブレイクショット。アッパーカットなども狙ってくる。
それをサファイアは双剣に変えたコメットで捌き、いなし、受け流す。
だが、それも戦士の想定の内。……というよりも、敢えて誘導していたというのが正しい。
なぜなら戦士の攻撃はすべて上半身に、上に集中していた。
――サファイアの視界から、ふっ。と戦士の姿が消失する。
「――消えた?!」
これがもし、彼女が相手が超能力を使えることに動揺していなかったら、もしくは全体を観察できる立場にいれば気付けただろう。相手が、彼女が急激にしゃがみこんで、足払いを仕掛けようとしていることに。
「――きゃあっ!」
しかし、気付くことの出来なかったサファイアに対して、それは奇襲として覿面だった。
……それでも、咄嗟に地面へ手を付き、バク転で戦士から距離を取ったサファイアは、流石としかいえないだろう。
しかし、それとて時間稼ぎにすらならなかった。戦士は足元でサイキックエナジーを文字通り爆発させ、地面をえぐりながら跳ぶようにサファイアへと迫る。
「…………っ!」
それを見て、咄嗟にコメットで防御しようとするサファイア。しかし――。
「間に合わ――。……ごっ、く、ぁ――」
その防御をすり抜けるように、戦士の拳がサファイアの腹部に深々と突き刺さる。攻撃をまともに受けてしまったサファイアは、逆流してきた胃液を吐くと、そのまま力尽きたように戦士にもたれかかる。
腹部の衝撃を受けたサファイアは、一撃の凄まじさで完全に意識を失っていた。
そんなサファイアを抱き留めた戦士はアクジローへ振り返ると――。
――そのまま、彼女をアクジローに放り投げた。
突然の凶行に驚くアクジローであったが、慌てた様子でサファイアを、彼女が意識を失ったことで変身が解けた霞を抱きかかえる。
制服姿に戻った霞を、アクジローとして抱きかかえることになった盛周は、背徳感と、なにより困惑を感じていた。
しかし、それは戦士にとって関係ないこと。彼女はアクジローに背を向けながら話しかける。
「……その娘が目的だったんでしょう? なら、連れていきなさい」
その言葉を最後に戦士は、サファイアが転送室でそうだったように、姿が少しづつ消えていき、最後には完全に消失する。
それをバルドルの基地にて、モニター越しに見ていた千草は呆然とした様子で呟く。
「……まさか、あれは転移反応? そんな、大規模な装置を使わず単独で……?!」
単独で、恐らく機材すら使わず転移した戦士を見て、驚きが隠せない千草。そして、ふと、転移した戦士が最後に残した言葉を思い出す。
――……その娘が目的だったんでしょう? なら、連れていきなさい。
「……まさか。――誰か、今すぐ動ける人間はっ!」
愛娘が、霞がバベルに連れ去られようとしていることに気付いた千草は、悲鳴のような声を上げる。だが、動ける人間がいないことは、彼女が一番よく知っていた。
レッドルビー、真波渚は今もなお救護室で意識を取り戻しておらず。唯一の戦力であったブルーサファイア、南雲霞は今まさに囚われの身になろうとしている。バルドルには、もう動ける戦力はいない。
そして、レオーネはここに居らず、自衛隊の部隊もまた存在しなかった。
「……くっ!」
それを知っている千草は、歯噛みすると踵を返して外に出ようと走る。……が、それを近くにいた所員に止められてしまう。
「司令――千草、なにを……!」
突然の千草が起こした行動に、歩夢は半ば予想しつつも金切り声を上げる。
「何を、も何も……。私が、あの娘を――。かすみさんを助けに――!」
「馬鹿言わないで――!」
流石に司令を、自身らのトップを虎穴どころか、死地に送るわけにはいかない。
そのまま彼女も千草の取り押さえに加わる。
複数人から取り押さえられた千草は、それでも、自身が愛娘を、霞を助けるんだ。と、もがく。
そんな折、モニターからアクジローの声が聞こえてきた。
『博士、聞こえるか。――ジャミングを掛けろ。これより撤退する』
その言葉とともに、モニターが砂嵐になる。……完全に妨害され、モニターが、唯一の情報獲得手段が死んだ。
それを見て千草が、悲鳴を上げる。
「かすみさん……? かすみさん――――!」
バルドル基地に、そんな千草の悲痛な叫びが響き渡るのだった。